第4話男の娘には唐揚げを。

「幸田おはよー」


 教室へ着くとそう言って可愛らしく微笑んだのは、同じクラスの小森緑こもり みどりだった。

 緑と言う名前と、その見た目からよく女の子と勘違いされている。

 緑とは小学3年生からの付き合いで、今でも仲良くしている親友だ。


「おはよう」


 そう言った俺に、とても可愛らしく満面の笑みを浮かべる。

 緑が男なのはわかっていても、……うん。すごくドキドキする。


「幸田は放課後何か用事ある?」


 髪を耳にかけながら顔を覗かせる。


「いや、別にねえよ」


「そうなんだ……」


 少し顔を赤らめながら恥ずかしそうにもじもじと体を揺らす姿がまた可愛い。


「今日一緒にどこか行かない? 食べ歩きでもいいし……あ! 唐揚げ! 唐揚げ食べに行こうよ!」


 こんな可愛い男の子がいていいのだろうか。いや、いていい。


「ああ。じゃ、今日の放課後に唐揚げ食べに行こう」


「うん!」


 守りたい。この笑顔。


「もうすぐチャイムが鳴るから席戻るね」


 トコトコと席に戻る姿もまたかわいい。

 そして何事もなく授業は終わった。いや、たまにこちらを見てくる緑はとても可愛かった。


「じゃ、行くか」


「うん!」


 俺たちは放課後、近くの商店街で唐揚げの食べ歩きをすることにした。


「んー! やっぱり幸田の選んだ唐揚げは格別だねー!」


 そう言いながら唐揚げを一人で十個も頬張る緑がとても可愛い。

 左手で唐揚げ、右手で頬抑えて幸せそうに食べる姿がまた可愛い。


「ほんと美味そうに食べるな」


「ほんとに美味しんだもーん!」


 可愛いな。


「あ! 幸田!」


 商店街を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえ足を止め後ろを振り返った。


「あ。鶴味か」


「はろー!」


 そう言って鶴味が俺の方手を振りながら近づいてくるが、その時朝のことが脳裏をよぎる。


「今帰り?」


「あ、ああ。ちょっと緑と食べ歩きをな……」


「……緑……」


 何故か緑の顔を見た鶴味が俺にジト目を向けてきた。


「ふーん……この子と付き合ってるんだ」


「……は?」


 鶴味は緑のことを知らなかったのか、どうやら女の子と勘違いしているらしい。

 見た目がこれじゃ仕方ない。


「ふーん。そうなんだ〜」


「ちげーって! 緑はこんな可愛い見た目だけど男! 緑もなんか言ってやってくれ!」


 緑に助けを求めに緑の方をみると、


「幸田、僕今日はもう帰るね! じゃ、また明日。 気をつけてね」


 そう言って緑は走って帰ってしまった。


「どうしたんだろう。あ! もしかして私のせい?」


「……かもな」


「え! ほんとに!? 悪い子としちゃったなー。お詫びに今度唐揚げおごってあげよっと」


 唐揚げね、さっき散々食ってたんだよなー。


「あ。唐揚げといえば、お前が広めたからあげのあだ名のせいで、俺の昔の事が学校に知れ渡っちまって、今友達少ないんだけど」


「あー、昔のことがね……」


を思い出し、鶴味は顔を暗くした。

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