地味系男子と不思議系宇宙人(かわいい)〜常識知らずな宇宙人が今日も僕の部屋に住み着く〜

一葉

第1話 常識知らずな宇宙人(かわいい)

『空から女の子が落ちてくる』


 そんな出来事を聞いたことはあったが、目にしたことはない。それはあくまで2次元の話であって、夢物語なことを僕は知っている。


 ……なら、今僕に起きているこの状況は2次元だとでもいうのだろうか?




 ◇◇◇◇◇




 ある日の夕方のことである。


 行きつけのスーパーでお惣菜やコロッケ等のタイムセールをしているということで、一人暮らしをしているアパートから出て数メートルという時のこと。


 突如、僕の周りのみ暗くなったのだ。


 「なんだろ……?」なんて小さく呟きながら上を見上げた瞬間、目を大きく見開かせる。


 何ということか、制服のような衣類を纏う女性が落ちてきた。


「えぇっ──」


 バッと手を大きく広げ、女性をなんとか掴もうとするも、もう地面まであと5メートルといったところまで落ちてきていた女性だ。

 間に合うはずがなく、女性の下敷きになるような形で倒れてしまった。


「いったた……」


 身体を起こして、落ちてきた女性の方を確認。


 ね、寝てる……?


 僕に被さるように落ちてきた女性は、先程落ちてきたとはとても思えない、気持ちよさそうな寝顔を浮かべていたのだ。


「……どこから落ちてきたんだ。というか、なんで落ちてきたんだ……?」


 他にもいろいろ謎がある。


 例えば、彼女の頭に宇宙人かとツッコみたくなるような触覚が生えていること。飾りか何かだろうか。


 ともかく、分からないことが一杯だ。


 それにしても、彼女をどうしようか?


「女性をこんな道端に置いて放って置くわけにもいかないし……」


 危ないし、目が覚めるまではうちで寝かせとくか。


 お姫様抱っこで彼女を持ち上げると、あまりない力を振り絞って家へと引き戻すのだった。




◇◇◇◇◇




「……どうしたものか」


 家に連れ帰ったはいいものの、このあとどうすればいいのか分からない。


 というか、今更だけど見知らぬ男が女性を許可なく家へ連れこむなんて犯罪だよな!?


 訴えられたりしたらどうしよう……。


 そんなことを考えながら彼女のことを見つめる。


 連れ帰った当時は困惑できちんと見れていなかったけど、かわいい、な……。


 白髪のショートボブに日焼けのひの字も感じられない真っ白な肌、手足が子供のように小さく小柄な体格なのに自己主張の激しい胸、……そして、ぴょこんと生えた触覚。


 宇宙人かよ。……いやまぁさすがにないか。


「……ここ、どこ?」


 考え事をしていると、前方から突然可愛らしい声が聞こえてくる。


「うぉぉおっ!?」


 ……びっくりしたぁ。


 考え事をしている内に目が覚めたらしい。少女は身体を起こして目をこすりながらこちらを見つめる。


「えっと……家?」


 ……おい僕。

 家ってなんだよ。それくらい見たら誰でもわかるだろ。彼女が聞きたかったであろうことはそんなことじゃなくて……


「そうなんだ、ありがとう」


 ……ん? あれ?

 納得、しちゃった?


「ごめん、君が急に空から落ちてきて、放っておく訳にもいかないし家に連れて帰ってきちゃったんだけど……自分の家、どこか分かる?」


「ない」


「そうなんだ…………って、え?」


 無い……?


 まさかの返答に混乱していると、それを見かねたのか彼女は口を開く。



「わたし、あなたたちが言う宇宙人だから。この星に家、ないの」



 宇宙、人……?

 話が急展開すぎて、なにもついて行けない。


 宇宙人なんて世界に存在しないはずで、架空の存在のはずで。こんな少女に、自分が持っている常識がくるりと覆される。


「だから……住ませてくれないかな?」


 そう言うと、自らを宇宙人と名乗る少女は首を傾げ、ニコリと微笑んだ。

 

「…………その、僕は別に一人暮らしだしいいんだけど、君はいいの? 男の人と二人で暮らすことになるんだけど」


「…………? 何がだめなの?」


 曇りのない純粋な目で問い掛けてくる。


 からかってきている、という訳でもないだろうし。もしかして、常識がないのかこの宇宙人。


「……いや。分かったよ」


 彼女がいいなら別にいいか、と、諦め半ばに彼女の願いを了承する。


 もしかしたら僕は、変なことに手を突っ込んでしまったのかもしれない。そう考えた時には、もうとっくに遅かった。

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