3.最果ての街

「あなたは、この街の守護様ですか? もう少し詳しく教えていただけませんか?」


 強制的に転移門に放り込まれ、たどり着いた先で現れた貴族風の男に、ダメ元と思いつつも俺は問いかけた。


「そうだ。ワシがこの『ショウナイ』の守護、ウド男爵だ。生意気に……教えをこいたいか? まぁすぐに死なれても困るしなぁ。多少は、魔物を狩って国に貢献してもらわないとな。いいだろう、教えてやろう。だが、ワシにはお前に費やす時間は無い。詳しくは『冒険者ギルド』で聞け」


 『冒険者ギルド』……?

 こんな最果ての街にも『冒険者ギルド』があるのか……?


「あの……」


「あーうるさい! これ以上お前に割く時間は無いといったろう! この者を連れて行け、そしてワシの指示だと伝え、この街での生き方を教えさせろ!」


「はは、かしこまりました」


 守護は、衛兵に指示を出して、立ち去ってしまった。


 全く嫌な奴だ。

 取り付く島もなかった。


 まぁいい、この最果ての街にも一応『冒険者ギルド』があって、本当に冒険者扱いで生きれるようだ。

 もっとも誰一人として、俺が長生きするとは思っていないみたいだが。


 自由気ままな冒険者にでもなって、のんびり暮らそうと思っていたから、ある意味半分は望み通りかもしれない。


 いや、半分以下か……。

 自由気ままと言うわけでもないし、のんびり暮らせそうもない。

 かろうじて冒険者扱いという事だけが、希望と一致しているところだ。


 ふふ……こんな状況でも、プラス思考ができる自分が、少し笑えてしまう。


 衛兵に連れられ、石造りの広間を出ると、すぐに外だった。


 ここは、転移門用の特別な建物だったようだ。

 そして、ここは守護の屋敷の一画らしい。

 奥には、最果ての街にはそぐわない、かなり立派な建物がある。

 守護の住む館だろう。

 敷地もかなりの広さだ。


 そして隣の敷地にも、大きな建物がある。

 おそらく、この町の役場になっているのだろう。


 門を出て通りを進むと、ある程度の街並みが広がっている。


 ただ最果ての街、しかも犯罪者を送るような街だけあって、数は少ない。


 おそらく住民は百人もいないのではないだろうか。


 通りの先には、大きな二階建ての建物が見える。

 あれが『冒険ギルド』だろう。


 ギルド会館に入ると、俺は待合室のようなところで待たされた。

 とても応接室とは呼べない粗末な部屋だ。


「お前がヤマトか? 話は聞いた。守護様の指示だからしょうがないが、俺様が直々にいくつか教えてやろう」


 身なりのいいちょび髭の老紳士が入って来たと思ったら、めっちゃ感じが悪い奴だ。

 とても強そうには見えないが……こいつがギルド長なのだろう。


 俺の中のギルド長のイメージとはかけ離れているが、まぁギルド長が強くある必要もないし、そもそもが勝手なイメージだ。


「すみませんが、今後どう行動すればいいか、どう魔物を倒せばいいか、ご教示いただけませんか?」


「ふん、勇者候補のパーティーにいたなら、魔物とは何回も戦っているだろう。同じように戦えばいいだけだ。お前は自由に森に入って、魔物を狩ってくる。それだけの話だ。聞いてると思うが一日に二体以上だ。それ以外は、基本的に自由だ。奴隷にもなってないしな」


「自由……? 監視などもないのですか?」


「そうだ。ただ、逃げようなんて思わないほうがいいぞ。北側は、全て広大な魔物の領域『北端魔境』だ。そことの境は、国境線として巨大な壁が東西にまっすぐ伸びている。魔物の侵入防止用だが、この街の人間も北門以外からは、魔物の領域には行けない。同様に街全体も同じ高さの外壁で囲まれているから、南門を通らねば王国内にも行けない」


「魔物を狩ったら、すぐに持ち込めばいいんですよね?」


「ああ、そうだ。もしでかい魔物に遭遇して、運良く勝てたなら、『魔芯核』以外の素材は、欲張らずにモテる分だけ切り取ってこい」


「あの……魔法カバンの貸し出しとかは……?」


「そんなものあるか!」


「荷車の貸し出しは……?」


「昔はやってたが、壊れてもうやってない。金になりそうなパーツだけ取ってくることだ。魔物のパーツと『魔芯核』は、規定の価格で買い取ってやる。それを宿代と飯代として、生きていく……どうだ、シンプルだろう?」


「え、ええ……」


「まぁ……十人に一人だな。ここに送られてくる罪人の中で、三ヶ月以上生き延びられる奴の確率だ。まぁ生き延びられたとしても、死ぬまでその生活が続くだけだけどな。極稀に、恩赦で解放される奴もいるが、期待をしないことだな」


「武器などを買う事は、できるんですよね?」


「こんな流刑地のような街には、武具屋も魔法道具屋もない。だが、ギルドの売店でその場しのぎの武器なら売ってる。まぁ消耗品だな。回復用の魔法薬も、下級のものなら一応置いてある」


「もし一日に、魔物を二体狩れなかったら、どうなるんですか?」


「ふふ、それは……当然罰を受けることになるなぁ。どんな罰かは……お楽しみだ。そして罰が重なれば最終的には……奴隷落ちだな。犯罪奴隷として、一日中鉱石の採掘をさせられる。別の場所にある採掘場送りだ。ある意味……魔物に殺されるよりも辛いかも知れんな。話は以上だ」


 ギルド長は一方的にそう告げると、部屋を出て行ってしまった。


 そして俺は……しばし考え込んだ。


 ここで生き残るには、しっかりとした武器が必要だが……ギルドの売店では売ってなさそうだし、外から仕入れることなんて当然できない。


 どうにかしないとなぁ……。


 突然連行されて、あっという間にここに送られたので、何も持ってくることができなかった。

 今装備している軽鎧が没収されなかったことが、不幸中の幸いだ。


 もっとも……軽鎧以外は、何もない。

 かろうじてポケットに、何枚かの硬貨が入っているだけだ。


 俺は、早速ギルド一階にある売店に足を運んだ。


 売っているのは、剣、槍、斧、盾などだが、どれも『下級イージー』階級のものだ。

 それでいて、値段は相場の倍くらいだ。


 そして魔法薬も……怪我を治す『身体力回復薬』だけしかおいてない。

 階級も『下級イージー』ばかりだ。

 やはり値段は、相場の倍くらい。


 ……めちゃくちゃだな。


 『冒険者ギルド』とは名ばかりで、冒険者を支援する気など全くない感じだ。

 冒険者に死ねと言ってるようなものだ。


 魔物のパーツや『魔芯核』を買い取る窓口としての役割しかない。


 ひどい話だが……それでも、一旦はこれを買うしかない。


 俺は、なけなしの金貨十五枚を使って、剣と回復薬を購入した。


 まぁ無い物ねだりをしてもしょうがないし……気持ちを切り替えて、魔物狩りに出向くことにしよう。


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