後編
コツン……コツン……コツン…………
足音が聞こえてくる。
マティアスさまかな、マティアスさまかなっ。
マティアスさまに対しては目がない彼女、マティアスのことならほんの少しの音すら見落とさないのである。
今日は、うちにマティアスさまが来る日。
服を素敵な服に着替えて、お化粧もして、玄関の扉の前でマティアス様を待つ女性。コンコンっ、と扉をノックする音と共に扉を開ける。
「おはよう、誕生日おめでとうっ」
扉から出てきたのは、予想通り彼女の想い人であるマティアスであった。
女性は、本物のマティアスさまと対峙して身体が固まってしまう。
「あ、あああ、ありがとうございます……っ! ぜひ入ってください」
緊張だろうか、声を震わせながらマティアスを家に上げる彼女。顔が真っ赤に染まっていた。
「ありがとう、時間もあるし失礼しようかな」
ほ、本物だ……っ!
マティアスさまかっこいい……♡
きちんと呼吸して、私の方を見てくれて、私にニコリと笑みを向けてくれる。あぁ……こんなにも嬉しいこと、他にあるものか。
心のなかで喜びで飛び跳ねている彼女である。
「ははっ、ありがとう。いつも言ってるけどさまなんて付けなくてもいいんだよ?」
もしかして心の声が漏れていた?
そのことに気付き、さらに顔を紅潮させる。自分の想いを好きな人に直接伝えてしまっているようなものなのだ。恥ずかしくないはずがない。
それにしても……これってマティアスさまともっと仲良くなれるチャンスかも。そう捉えた彼女は、マティアスに対してこう告げる。
「で、でしたら……お言葉に甘えて…………ま、マティくん」
「うんっ、遠慮なく呼んでね」
ニコリとキラキラとした笑顔を見せるマティアスさま……いや、マティくん。尊い、付き合いたい、いやもう結婚したい。
再び顔が真っ赤に染まる。
まさか本人に直接あだ名で呼ぶ日が来るなんて。少しくらいは、マティくんの『特別』になれているかな。
……ああ、かっこいい♡
そんな会話を交わしながら、わたしの部屋へと案内する。
「ここがわたしの部屋ですっ」
「へぇ……とても可愛い部屋だね、素敵だ」
「あ、ありがとうございます……っ!」
まるで私のことを褒められたみたいで、嬉しくなってしまう。
本当は違うのだけど、こっそり喜んでしまう女性だった。
……そういえば、気軽にわたしにあだ名で呼ぶことを許してもらったけど……。気軽にってことは、他の女の子にもそう言ってるのかな……。
わたしだけを、見てほしいのに……。
マティくんの一番でありたいそんな思いが先走ったのだろう、思わず口を開き、先程のことについて聞いてしまう。
「……あの、マティくんのことを名前で呼ぶ人ってどれくらいいるの? ……やっぱり、マティくんはモテるしいっぱいいるの……?」
女性の質問に少し首を傾げるマティアスだが、彼女の意図を読み取り笑顔をパッと浮かべて言う。
「あぁ……君だけだよ、君しか僕のことを名前で呼んでないし、呼ぶことを許してない」
望む返答が返ってきて、心が晴れる女性だった。
「……嬉しいっ、……そうだ、お茶でも淹れてきますね」
「わざわざありがとう、嬉しいよ」
そうして席を立ち、自身の部屋から廊下に出る。
キッチンに向かいながら、マティアスのことを考える女性。
マティくんって呼べるのはわたしだけ……なんだ。わたしだけが、マティくんのことをマティくんって呼べる……。
大好き、マティくん。
……あぁ、もっと一緒にいたい。けど、これももう終わってしまえば会えなくなってしまうかもしれない。
どうしたらマティくんといつまでも一緒にいられるかな。どうしたらいいのかな、わたしだけのマティくん。
かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイカッコイイ……
「あぁ…………殺してしまいたい♡」
そうしたら、いつまでも一緒にいられるね♡
地雷系女子の推し活〜せっかく乙女ゲームの中に来れたので画面の中のあなたに✕✕したい〜 一葉 @ichiyo1126
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます