第1話 こどもポッチ

「はーちゃん、聞いて聞いて?でね、パパと友人Aは、危なーい場所からママのことを連れ出したんだよ?」

「うーん」

これ、、が、パパとママの出会いのお話で――」

「はーちゃん、よくわからない!」

「えぇっ」

「はーちゃん、吹雪ふぶきくんのところで遊んで来る!じゃぁね、パパ!」


 はーちゃん、こと古風ふるかぜ鳩子はとこは、まだ六歳だった。六歳ともなれば、頭に入ってこないことはポイして遊びたい盛りの子も十分にいるだろう。鳩子も例にもれず、そんなタイプであった。

 鳩子パパは「気をつけるんだよ~。吹雪くんは認めないけど、パパ我慢する~」と、話を聞いてくれない娘に向かって手を振り送りだしたのだった。


 ◇


 吹雪くんの家までの道のりは結構遠かった。

 それもそのはず、彼女の友達吹雪くん、こと四夜よや吹雪ふぶきの家は、鳩子の家から三キロメートルも離れているのだ。


 しかし、だからこそ≪こどもポッチ≫なるものが世で流行るのだろう。

 鳩子はいつもこの≪こどもポッチ≫を胸のポケットに入れていた。理由は単純に可愛いく、暇しない、、、、からだ。大人目線で語れば、GPS機能はもちろん、登録すれば≪こどもポッチ≫同士の通話も可能で、おまけにミニ画面にはペットのイラストが常にうごめいている……。まぁ、簡単に言ってしまえば、おこちゃまケータイだ。


 さっそく鳩子はこの≪こどもポッチ≫を取り出し、吹雪くんに連絡しようとした。

 ところが――鳩子が操作すると画面の履歴には「かがみくん」の文字が二十件ほどザッと入っており……、鳩子は歩くのをやめ、勢いよく地団太を踏んだのだった。


「もう!どうしていっつも吹雪くんは連絡くれなくて、寝てるうちにかがみくんから連絡がくるの?鏡くん、寝てないの?!ダメじゃない!」


 そういう問題だろうか。

 鳩子はわけのわからない憤りから、鏡くんと連絡をとろうとした。すっかり吹雪くんのことはそっちのけとなってしまっている。

 鳩子が勢いよく≪こどもポッチ≫の決定ボタンを「えい!」と押すと――……。


 ――ピロリピロリ♪ピロリピロリ♪


 ≪こどもポッチ≫の着信音が流れはじめた。それと同時に鳩子のものとは異なる≪こどもポッチ≫の着信音もした。不思議に思った鳩子は、そちらの方を向いたのだった。


 ――ピロリピロリ♪ピロリピロリ♪


 やがて鳩子はその持ち主が着信を無視しているように思えてきた。その証拠に、延々とピロリ♪がやまない。鳩子は試しに自分の≪こどもぽっち≫の「かがみくん」を停止してみた。

 すると、音がなりやんだ。


「ワザト無視してるの?はーちゃんが≪こどもポッチ≫を無視したから?」


 そこはちょうど古い小さな公園の前だった。

 ブランコも何もかもところどころハゲているのが、その外からでもうかがえた。


『いいかい?もう、公園は危ないから入っちゃダメなんだよ?わかった?』


 鳩子の脳裏には、そんなパパの忠告が一瞬だけよぎった。

 しかし、音のした方角は間違いなく公園の中からだった。――鳩子はすこしだけ頭がモヤモヤしたが、結局はよく考えられずに、立ち入り禁止の公園の中へと入ってしまったのだった。

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