謀られた補講

 あっという間に午後の授業が終わった。

 今、私は、ホームルームが行われている教室の窓から外を眺めている。

 

 陽射しが弱まってくると、なんだか寂しい雰囲気になってきた。

 私が学校の屋上から落ちていく写真に映っている空もこんな感じだったのではないだろうか?考えれば考えるだけ体中が震えてくる。


「今日は、前回の確認テストの補講を行います。今から言う皆さんは、ホームルームが終わったら、進路相談室に来て下さい。いいですね。まずは神田さん、高野さん、持田さん、宮原さんの四名です。筆記用具を忘れずに」


 湯河先生は、私を含む四名の名前を呼ぶと、足早に教室を出て行った。


 ホームルームが終わる午後四時過ぎに、校門近くのコンビニで妹尾さんと待ち合わせをしていたのだが、とても行けそうにない。

 私は、慌ててスマホでメッセージを送ると「了解。気を付けて」とすぐに返事が来た。彼が私の近くにいる、、、ただそれだけで勇気が湧いてくる。


「入りまーす」


 指名された全員で進路相談室に行くと、先生は小さなホワイトボードに前回の確認テストの問題と答えを書いているところだった。


「はい。それでは、皆さん、これを見て下さい。前回のテストですが、この問題を皆さんは間違えていました。本来ならば簡単な式を二つ使うだけで、答えは導けるのです。だが、皆さんは出来なかった?それはどうしてでしょう?その辺りをもう一度おさらいしてみましょう」


 湯河先生の説明は、流石にわかりやすかった。ただ、釈然としない・・・。


 その時、急に疑念が湧いてきた。なにかおかしいのでは・・・。

 何故なら、私は、いつも先生の授業を真面目に聞いている。なのに、こんな基本的な問題を何故間違ったのだろう?

 

 いや、ホワイトボードに先生が書いてる答えと同じものを私は回答したはずだ・・・。

 

 そんなことを考えていたら、先生はプリント用紙を配りだした。


「それでは、復習テストをします。ここにある二つの問題を解けたら帰っていいですよ。出来た人から私に提出してください」


 私は、プリントを見つめる。


「えっ?全く分からない。こんな問題、今まであっただろうか?」


 それでも、私は鉛筆を走らせ必死で考えていた。ただ、何度考えても全く糸口も掴めないでいた。

 すると、「先生出来ました!」と宮原さんがうれしそうにプリント用紙を先生に渡した。そのプリントをじっくりと見た先生も、「はい。合格です。よく出来ました。気をつけて帰りなさい」と声をかける。


 その後、高野さん、持田さんも、問題を解いて部屋を出て行った。

 私だけが残された部屋で、先生は、「なんでこんな簡単なものがわからないのですか?」と冷たく聞いて来た。私は、試験ではいつも上位に入っている。勉強には正直自信があった。いつも真面目に授業を聞いているし家で復習もしている。なのに、何故・・・。

 私は、自分だけが出来ないことに打ちのめされていた。


「神田さん、やはり、夜遊びが過ぎたのではないですか?」


 湯河先生は、また妹尾さんのことを言ってきた。


「いえ、そんなことは絶対に関係ありません!」


 強く否定するも、薄笑いをした湯河先生は、「まあまあ、そう怒らず、ほらこれでも飲んでリラックスしなさい」とお茶を出してくれた。


「あ、、すみません。本当に関係ないんです。本当に」


 私は、湯呑みを両手で持ち、熱い緑茶をゆっくりと飲んでいく。

 確かに、頭がスッキリしてきた感じがした。


「ほら、じゃあ、この問題も解答をしていきますよ」


 湯河先生は、ホワイトボードに、マジックを走らせていく。

「カン、コツ、カッ、キッ」とリズム良く・・・。


 その音を聞いているうちに、私はなんだか眠くなっていった・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る