第3話 緑の話

 僕は悪魔だ。二百五歳。ダエモン株式会社で働いている。まだまだ新人だ。

 この会社は、仕事と給料が釣り合ってないように思う。いつでも人手不足だし、いろんな所に出歩かなくてはいけないし、変態扱いされるし。精神的にやられることもある。先輩は、気にするなと言うけれど、落ち込んでいる時に色々言われたり、ミスをしたりすると、泣きそうになる。もう、涙なんて出ないけど。

 僕のパソコンに通知が来た。また依頼だ。

 しかも、二通。最近は上手くいっているから、二つ同時に進めてみても良いかも。 

 両方とも高校生からの依頼だった。一通目は「苅野かりの 結奈」、二通目は「岸川きしがわ 敦也」という人からだ。一応、打ち合わせ兼確認の為、本人たちに会いに行かなければならない。

 僕は先輩に「外出てきまーす」と断りを入れて屋上に出る。

 今日は晴天、川は反射してキラキラと光り、カモメたちが戯れている。

 命ほど尊いものはないのに。何にも変えられない、世界でただ一つのもの。

 この広い宇宙の、小さな惑星で、ゆっくり、でも正確に動く奇跡。それをどうして失くして良いものか。

  憎い相手の命が消えても、この地球は何も知らずにまわり続ける。

 そんなに消えて欲しいの? そんなにこの世界が嫌いなの? 命の灯火を消してまで? この上ない奇跡から逃げるの? 「キレイゴト」と言って目を背けるの?

 すべてを照らす朝日、透き通る青い秋の空、雨の音、貴方の涙。いくつもの奇跡が折り重なり、貴方と会えること。

 全部、尊いものだよ。全部、全部、大切なものだよ。

 風薫る五月。これからどんどん気温が上がり、日差しもきつくなるのだろう。

 僕はおもいっきり伸びをした。

 そして、消えた。

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青東風 朝凪千代 @tiizu

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