さようなら....

影武者

さようなら……

ここは、とある国……


経済情勢により、隣国との紛争へ突入して2年が過ぎていた。

だが、情勢はますます悪化し、全面戦争なるか、という時期にになっていた。

戦況は乏しく、兵隊達にもかなりの疲労感が出てきていた。


こうした中、進軍中の部隊があった。

陸軍東部戦車師団、第3中隊所属の、第7小隊であった。

全小隊、歩兵50人、戦車6両、兵員輸送車5台、ジープ5台、という戦車師団最大の戦力を持つ小隊だ。


数日後に行われる大きな作戦にむけて、作戦位置への移動中である。


「よーし!!ここで休息をとる!!」


隊長らしき人物が叫んだ。かなり大きなレストラン風の店の前だった。

しかし、全員入るのは無理そうだ。


「伍長以下5名は、警備に立て!」


「はっ!!」


「A班、B班は休憩だ、終わり次第C班D班と交代しろ」


警備を命じられたのは伍長だった。

部下は5名連れているが、皆若い兵士ばかりだ。

短く刈った髪がまだ真新しいので、おそらく新兵だろう。


店の前では子供達が、ボール遊びをしていた。

まもなく日も暮れようとしているが、親は迎えに来ないのか、

見張りの兵士達は不思議そうに、何気なく見ていたのだった。


と、其のとき、ボールが伍長の足元へころがってきた。

取りにきたのは少女だった、まだ8つぐらいだろうか、伍長が気づくと、少女は急に立ち止まり、恐る恐る様子を伺っている。

伍長は、微笑んで、ボールを少女に渡した。


「ありがとー!!」


少女の顔から緊迫感が抜けた。

伍長は、こんな時代でも無邪気でいられる子供達が、羨ましくも思えた。

しかし、そんな子供達を見ていると心が和むのである。


しばらくすると、中に入って行った兵隊達が出て来た。

見張りをしていた伍長達には、簡単な食料が配給され、他の兵士達は休憩を交代する。

子供達は今度は戦車のそばで遊んでいた。


そこへ、出てきた兵隊がやって来た。


「どけっ!!じゃまだっ!!」


どうやら少尉らしい。

子供達に足蹴りしたり、突き飛ばしたりしている。

無論さっきの少女もその中に入っていた。


それを見ていた伍長が、見かねて止めに入った。


「少尉殿、ひどいじゃないですか、やめて下さい!!」


「なんだと貴様!それが上官に対しての口の聞き方か?!」


「しかも、かってに持ち場を離れやがって!!ちょっとこいっ!!」


伍長は少尉にひきずられ、そして殴り、蹴るの暴行がしばらく続いた。

子供達はそれを、息をひそめて見ていた。

伍長はかなり、傷め付けられた様子だった。

少尉は、そんな伍長にはかまわず、サッサッと自分のジープに乗った。

交代した兵士達が出てきたのを確認すると、


「出発するぞっ!!さっさっと乗れ!! 」


起き上がってこない伍長に、少尉は冷たく命令する。


子供達は、伍長の所へ駆け付け心配そうに声をかけていた。

その中にはあの少女もいた。


「大丈夫?血が出てるよ」


「ははは……だ、大丈夫さ、心配すんなよ!」


伍長がニッコリVサインを出すと、子供達は安心した様子だった。


「じゃあな!」


「うん、『さようなら』」


腹を押さえてジープに駆け乗る伍長に、少女は答えた。

だが、幼いながらも、戦場に向かう伍長に、またどこかで逢えると言うより、

もう2度と逢えないと言う意味の、『さようなら』だったと少女は悟っていた。



この後、北東一の激戦地でこの、第7小隊が全滅したのを、少女が知る由もなかった。

そして、さらに2ケ月後、終戦を向えた。



今、この街は高層建築物が建ち並び、7年前の戦争の傷跡を思わせない程、経済は回復していた。


そして、あの少女は、春から高校生になるのであった。


入学式にて担任の挨拶が行われようとしている。

その壇上に映った者に、少女は目を疑った。


「あの人!!」


壇上にはあの伍長だった兵士がいた。

あの後、上官に受けた傷が元で、野戦病院にて終戦を向えていたことが判った。


少女は、心の中でつぶやいた。


「また、『さようなら』が言える……」


「今度は、また逢えると言う意味の、『さようなら』を……」

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