第11話 宮野悟はどうして野球を辞めてしまったのか

どうして……

 何があったんだ……

 とにかく………2人を……運ばなきゃ………

 肘が痛てぇ……投げ飛ばされた時にか……

 そういえば………お前の最後の願い……叶えてやれなかったな……芽衣。

 

第11話 宮野悟はどうして野球を辞めたのか

 俺が野球を始めたのは小2の時からかな。

 普通に楽しそうだからやり始めたのがきっかけだった。

 地毛が金髪なのもあってめちゃくちゃ目立った。

 あっ一応この金髪は地毛だよ?うちの高校髪染めるの校則違反だからね?!

 そんな感じで野球をやり始めたんだよ、最初は大変な事も色々あった。

 それでもやろうって思えたんだ。

 それで続けて行き、中学2年の夏の時。

 俺は、恋をした。

「あの、暑いので水飲んでくださいね?」

 それが彼女と僕の初めての出会いだった。

 笹崎 芽衣ささざき めい

 彼女は中2の春から転校してきたらしく、俺とは別のクラスなので来た時はあまり印象に残らなかった。

 肩ほどの髪を後ろに束ねたポニーテールでおっとりとした顔立ちをしている。

 この時はマネージャーの服を着ていて、クーラーボックスに入れてキンキンに冷えたスポーツドリンクを僕に渡していた。

「あ、ありがと」

「ここ最近暑いですからね……あっあと塩分も忘れずに取ってくださいね!!」

 まだ入ったばかりなので少し慌てているのがわかる。

 すると、向こうから女子マネージャーの先輩が聞こえ、芽衣は慌てて向こうに行ってしまった。

 そして隣で冷たいタオルを顔面に載せていた仲間がタオルを取って俺に話しかけてきた。

「なぁお前、笹崎の事どう思う?」

「いや別に……The新人って感じだな〜」

「へ〜あいつ彼氏居ないらしいよ?付き合えば?お前イケメンだし」

「いや〜どうだろ」

 俺は正直人付き合いが辛いと思い始めてた。

 確かに俺は顔が広い、でもそれはその分その人達と上手くいかなければ悪いイメージもすぐに広がる。

 アイツらが俺の事をどう思っているのかは分からない、だから心の隅でこうしないと、みんなから嫌われるんじゃないかって。

 そんな日々を感じていた6月の平日。

 帰り道に彼女と2人になった。

 正直気まずい。

 まだあまり仲良くないと言うのに、いきなり深入りする様な話をしても引かれるかもしれないし。

「あの……」

 意外な事に彼女から話しかけてきた。

「な、何?」

「明日、暇ですか?部活休みですし」

「え、うんまぁ」

 すると、芽衣は両手を握って俺にこう言った。

「私と、行って欲しい所があるんですけど!」

「ほえ?」

 俺は思わず腑抜けた声を出した。

 そして、翌日。

 俺は何故かドームに居た。

 芽衣の推しのアイドルのライブらしい。

 芽衣は隣でハチマキを巻き、ケミカルライトを持って大興奮している。

 まさかとは思ったが、こんな所に俺が来る事になるとは……

「ねぇ!今推しが私にウインク!!ウインクしたよ!!」

「え、誰推しって」

「あの黄色の髪の人!!!」

 すげぇないつもの芽衣じゃねえ。

 後半になると俺も楽しくなってきて最後には完全に沼にハマった。

 意外とライブ楽しいわ、また行きてえ。

 予備知識とかあればさらに楽しいんだろうな。

 そんな事を思ってた帰り道。

 いつもの感じに戻っていた芽衣は俺にアイドルのプロマイドを渡してきた。

 しかも黄色の髪の人のなので彼女の推しである。

「あの……迷惑でなければ……また一緒にどうですか?」

「あ、うん。また一緒に行こうかな」

 そう言うと、芽衣は少し俯き、こう言った。

「私に無理しなくて良いですよ」

 俺は内心驚いた。

 こういう人ってだいたいこう言ったらそのあとこういう関係は無くなり、一生関わらなくなると思っていた。

 今思うとそうなるが、当時の俺にはそんな考えは無く、いつもの感じで言っていた。

 でも、彼女はそれに気づいていた。

 俺が無理してるって事に。

「好きになったんなら好き。興味湧かなかったら湧かなかったでいいんです。嘘ついて無理して興味無い物に向き合うのとか、そういうの良くないと思うんです」

 俺は少し戸惑った。

「あ……まぁ」

「本当の事、言って貰えますか。少しおこがましいかもしれませんが」

 俺は、本当の事を言った。正真正銘の。

「好きだな、俺は。曲も良いし。これからもライブあったら連れてきて」

 芽衣は笑顔で俺に抱きついた。

「はい!」

 その日以降、俺と芽衣はよくそのアイドルの話をする様になり、仲もかなり深まってきた。

 そんな日々が続き、中3の夏。最後の大会がやって来た。

 監督がスタメンの発表をする。

「ピッチャー宮野」

 一応今までもリリーフ(先発の繋ぎをするピッチャーの事)をしていたが、先発は初めてで少し嬉しかった。

 全員のスタメンが発表され、芽衣と俺は一緒に下校していた。

「初めて先発じゃないですかさとっち」

 この時になると、芽衣は俺の事をさとっち、俺は芽衣の事をめいっちと呼んでいる。

「まさか先発取れるとは思いもしてなかったよ」

 俺らはその日の帰りは喜びあっていた。

 しかし、大会2日前。

 大会に向けて追い込みをしている俺を見ている芽衣、でも、顔がいつもより暗く感じる。

 俺の気の所為なんだろうか?そんな事を考えながら投げていると、ボールがキャッチャーミットからは遠く離れた所へ飛んでいってしまった。

「何やってんだ宮野〜」

 キャッチャーの声がマウンドに響く。

「あっ……ごめん」

 昼休憩に入り、俺は迷惑かなと思いながら、芽衣に話しかけた。

「なんか、あった?」

「引っ越す」

 芽衣はそういった。

「え?」

「この大会終わったら、外国に引っ越すの、私の両親よく出張してて……」

 俺は、心に穴が空いた様に思えた。

 少し冷たくなるけど、そうなんだ。と思った。

 仕方ないなって、親の事情なら。事情なら。

 事情なら……

 なのになんだろう。この悲しみは。

「………そっか」

「でもさ、LINEとか交換してるし、会えなくても話は出来るよ」

 そうだ、そうなんだよ。

 たとえ離れていても、話せるじゃないか。

 話せるじゃ……ないか。

 俺は自然と顔を伏せ、涙を流していた。

 でも、俺は、同時に決心した。

「芽衣、俺。絶対勝つから」

 そうして、俺は大会に限りない闘志を燃やした。

 そして、1回戦、2回戦、準決勝と勝ち進み、決勝へ進んだ。

 そして、決勝2日前のこと。

 ピッチングを練習していると、少し右肘に痛みを覚えた。

「どうした〜宮野」

「あ、いやなんでもない」

 この時俺はちゃんと監督に言えば良かったと後悔してる。


 決勝当日。

 俺は軽く投球練習をし、試合に臨む。

 試合は8回裏まで1-1と接戦を繰り広げる。

 そして、9回表。俺はマウンドに達、外角低めに投げた。

 その時、俺の右肘に鋭い痛みが走った。

 俺は倒れ込み、そのまま膝を地面に着いた。

 仲間が心配しているのはわかっていた。

 でも、それ以上に肘の痛みが強くて、何を言っているのかわからなかった。

 そして、俺はマウンドから降り、急遽リリーフで後輩が出る事になっていた。

 それ以降の意識はもやもやで俺でも分からない。

 でも、ただ1つ、分かることがある。



 もう、芽衣とは会えないって事は。






 …お………い………おー………い……おーい宮野さーん。

 宮野は目が覚めた。

 そこは蓮の部屋で、ケラトがお粥を作って用意していた。

 隣には蓮と朱天羅も寝ていた。

「どうして……ここに?」

「いや、ちょっと友人の所に行っていたら、倒れているあなた達を見つけたので近所の方と一緒に部屋まで運んだんです。まだ安静にしておいた方が良いですよ。宮野さん肘痛めてますよね?しかもちょっと宮野さんの肘を触診したんですけど野球肘ですよね?」

「なんでわかるんだよ……」

 宮野は唖然としてしまった。

「一応竜世界では竜騎士団二番隊隊長兼医師団副団長でしたから」

「あぁ、なんかすごい地位の人なんだね」

 宮野はもう理解が追いつかなくなって行った。

「そういえばなんで怪我したか言ってなかったな実は」

「怪人ですよね」

 ケラトはきっぱりと言った。

「え……なんで」

「ここ最近スポーツ選手が襲われる事件が多発してて、宮野さんもそういう格好してるから、狙われたのかなって」

「ケラトお前………主夫やってねえで医者やれ」

 宮野は心の声が漏れ出た。

「ははは……」

 ケラトは失笑してしまった。

「……あのさ、ケラト」

 宮野はケラトの目を見て言う。

「はい?」

「無理にして欲しいんじゃねえけど……俺の最後の登板、護ってくれないか」

 ケラトは快く答えた。

「もちろん」




 とある社長室に一人の男が入る。

「入るぞ」

 その男は髪と目が青く、凛々しい顔つきをしている。

 机に座って居る黒髪の男は、

「どうしたんだい?君が提供してくれた実験体が何か故障でもしたのかい?」

 青髪の男は拳を握りしめるも、冷静な口調で言った。

「いや、ただキラーがどこにいるのか気になってな。あいつは落ち着きが無いからな」

「ああ、そういう事ね」

すると、黒髪の男のパソコンに一通のメールが届いた。

「おっ、キラーに渡した連絡用携帯からメールが、なになに……」

 黒髪の男はため息をついた。

「内容はなんだったんだ」

「もう作る予定無かったのにデータロイド作れだってさ……アノマカリス型の奴で最後にする気だったのに……しかも性能も指定してるし……」

「そういうことか、あいつが無事なら良い。俺は地下室に戻る」

「そうか」

 青髪の男は部屋を出た。

 そして、しばらく歩くと、壁に拳を思い切り叩きつけた。

「済まない……ケラト……みんな」

To Be Continued

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