第10話 サトルベースボール

悠里の1件から3日経ち、遂に夏休みも8月に突入。日射しは強くなり、蝉が生き急ぐ様に鳴き続ける。

 夏なのでスイカを冷やしに川に行くケラト、友人とプールに行く小夜。

 そして高校から出される八百万(過剰表現)の課題に追われる蓮。

 古典のワークを進めている蓮の元に一通のLINEが届く。

 「………悟?」


 LINEの内容はこうである。

『暇か?暇ならちょっと公園来てくんね?』

 蓮はとりあえず古典のワークに一区切り付けて、公園へ向かった。

 そこには、野球部の練習着と思われるユニフォームを着た悟が居た。

 左手にはしっかりとグローブをはめており、ジューズも野球用のスパイクだと思われる。

「いきなり呼んでどうした?野球したくなったのか?」

「いや、実はちょっと練習に付き合って貰いたくて」

「練習?」

 悟は蓮にグローブを渡す。蓮はそれをはめ、構える。

「実は俺昔野球やってたんだ」

 悟は蓮にボールを投げる。

 蓮は多少ぎこちないもののボールを取って投げる。

「そうなんだ」

 蓮はさっきボールを投げた悟を見て確かに、野球を経験している人の投げ方だと思った。

 蓮はボールを悟に投げ返す。

「今はちょっと事情で辞めてたんだけど、知り合いの草野球チームに出てくれないかって言われて」

「ふーん」

「だから、ちょっと調子戻そうと思って」

 キャッチボールを続けていると、蓮がボールを暴投した。

「あ〜ごめーん」

 悟はボールを拾いに向こうへ行ってしまい、蓮は1人になった。

 すると、自転車が1台通りかかる。

 その自転車には見覚えのある人が乗っていた。

「希愛智……」

「あら、蓮じゃない」

 朱天羅はショートパンツにへそ出しのシャツ、つばの広い帽子を被り、シャレたサンダルを履いていた。

「へそ出しとか着るんだ……」

「暑くて出来るだけ露出したかったから。日焼けするのは嫌だけど。って言うか、蓮は何をしてるの?壁あて?」

「あーそれはな」

 蓮は公園でやっていたことを説明する。

「ふーん、金髪くんって野球してたんだ」

「悟の事金髪くんって言ってんのかお前……」

「いや、ここで金髪って珍しいから」

「まぁわからなくもないが」

 すると、悟がボールを拾って戻ってきた。

「おーいもう1回や……って朱天羅さんじゃん」

「あら、噂をすれば金髪くん」

「そんな呼び方なんすか?!」

 朱天羅が悟の金髪に目を向けて言う。

「だって金髪じゃない」

「ま、まぁそうですけど。って言うか何してたんすか?」

 そう言われると朱天羅は自転車のカゴからレジ袋を出し、中からアイスを取り出した。

「コンビニアイスを買ってたの。食べる?」

 アイスは色んな種類があり、ガリガリ君やスーパーカップもあった。

「あっありがとうございます」

 悟はガリガリ君ソーダ味を手に取る。

「んじゃ俺はこれで」

 蓮はチョコミントアイスを取る。

「それ歯磨き粉の味するやつじゃん」

 そう言った瞬間2人の目付きが鋭くなった。

「お前……」

「逆鱗に触れたわね……」

「ほえ?」

 その頃、ケラトは川で冷やしたスイカを持って蓮沼の居るマンションの部屋にいた。

「いやーすみませんスイカなんか貰って」

「いえいえ、普通に安く売ってたの買いすぎちゃって……」

 蓮沼の部屋は少し散らかっており、机の上には中古のノートパソコンが置かれ、ゴミ袋も23個、床に置いてある。

「ここで曲作ってるんですか?」

「はい、良くここでギター使って。でもたまにうるさいってお隣さんに言われてたり」

「大変ですね」

 ケラトは明るく応えた。

「あっそういえばケラトさん」

 蓮沼がケラトに聞く。

「はい?」

「いや、貴方がチップ渡す時にこの世界のルールとか言ってましたけど、どうゆう事ですか?」

「多分、信じて貰えないかもしれないんですけど……」

 ケラトは竜世界の事を話す。

 蓮沼は多少ついていけない感じだったが、ある程度理解したようだ。

「そんな世界が……あるんだ」

「まぁ、はい」

 蓮沼は貰ったスイカを切り、塩を軽く振りかける。

「せっかく貰ったので一緒に食べます?」

「はい!いただきます」

 ケラトは快く答えた。

 スイカを食べながら、蓮沼はある事を聞いた。

「あなたの他にも竜人って居るんですか?」

「はい、居ますよ。写真は無いのですが、パキケ・ファロさんと、ガストロ・ガソさんが同期に居ます。2人とも明るくて、一緒にいて楽しかったんですけど、ある日消えちゃって………」

蓮沼は少し悪い事を聞いてしまったと思い、申し訳ないと感じた。

「ああっそこまで気にしなくて良いですよ」

蓮沼は、ケラトにはっきりと伝えるようにい 言った。

「もし、売れたら……あなたに幸せになって欲しい……」

「蓮沼さん……」

「あっ、別にそういう訳じゃないんですけど、こんな知らない事だらけの世界で大変そうだなって……」

ケラトはスイカの種を皿に飛ばし。

「ありがとう……優しくしてくれて」


 そして場所は戻り蓮達は。

「よーし、金髪くん、こーい」

 朱天羅は金属バットを構え、蓮はキャッチャーミットをはめ、しゃがんでキャッチャーの構えを取り、悟はボールを持って構えていた。

「って言うかお前ってピッチャーだったんだな」

「まぁな」

 悟は振りかぶって、第一球。

 悟が投げた球はまっすぐ蓮のキャッチャーミットに入り、朱天羅は思い切りバットを空振った。

 そのままバットは宙を飛び、そのまま地面に落ちた。

「朱天羅さん危ないからバットを投げ飛ばさないで!!」

「そうは言っても振り切ったらすっ飛んじゃうのよ」

 朱天羅はバットを拾ってまた構える。

「怖いなこの人。殺人バッターじゃねえか……」

 悟がボヤきながらも第二球を投げようとしたその時。

「ちょっとタイム」

 朱天羅がタイムを宣言し、バットを地面に置いた。

「どうした?朱天羅。体調でも悪くなったのか?」

 蓮が、心配しようとすると。朱天羅の腰にバックルが出現した。

「え」

「竜装」

 朱天羅は竜装し、武器を置いてバットに持ち替え、再び構えた。

「よし、来なさい」

 悟は唖然とし、ボールを落としていた事さえ気づいて居なかった。

「えっちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと?!!!朱天羅さん竜騎士だったの?!フェ?!」

 蓮が悟に朱天羅が竜騎士である事を伝えていないのを思い出した。

「あ〜そういえば言ってなかったな悟」

「早く投げなさい。金髪くん」

「わ、わかりましたよ……」

 悟は振りかぶって第二球を投げる。

 球は少し左に曲がり、キャッチャーミットに吸い込まれる。

 そして朱天羅のバットはまた空振り、キャッチャーミットにボールが入る音と同時に思い切り空を切る音が公園に鳴り響いた。

 しばらくして、朱天羅の舌打ちが聞こえた。

「こっわ……」

 悟は小さく呟いた。

 その時、空から怪人が飛び降りてきた。

 その怪人は真っ黒な大きな目を持ち、口の周りに2本の大きなひだを持った触手をうねらせ、その奥にある口を開閉させていた。

 その姿はまるでカンブリア紀に猛威を振るった生物の様だった。

 怪人は悟の方に近付き、首を掴み、悟を持ち上げる。

「何すんだ……お前」

 悟が必死に声を出すも、その声は弱々しい。

「まじかよ、竜装!」

 蓮は竜装し、剣を持って怪人から悟を離そうとするが、朱天羅がそれを止める。

「ちょっ、何すんだよ希愛智!!」

「あいつは悟を人質にしてる。もしも蓮が動いて金髪くんに何かあったら元も子も無い」

「で、でも!!」

 すると、怪人は悟の右肘を注視し始めた。

「………弱い!!」

 そう言うと怪人は悟を投げ捨てる。

 悟は地面に転がり、土まみれになる。

「大丈夫か悟!」

 すると、悟は右肘を抑えてもがき苦しみ始めた。

「がっ……いって……」

 怪人は悟の事など関係ないのか、2人に襲いかかる。

「蓮は金髪くんを、ここは私が」

「頼む!」

 朱天羅は地面に置いた盾を素早く拾い、盾から剣を生やす。

攻撃形態オフェンスモード

 朱天羅は剣で怪人を斬ろうとするが、怪人は朱天羅の剣を両手で防ぎ、それを弾き返し、ドロップキックを朱天羅に放つ。

 朱天羅は吹き飛ばされ、地面に背中を思い切り叩きつけられ、大きな衝撃が走る。

 さらに怪人はそのまま朱天羅を地面に引きずり回し、木の幹に向かって唸り声をあげて投げ飛ばす。

 朱天羅は木の幹に激突し、木の幹にヒビが入り、朱天羅背中に車に吹き飛ばされたかのような痛みが走る。

「ぐっ……あっ……」

「希愛智!!」

 朱天羅の兜の隙間から血が垂れ落ちていた。

「このやろっ!」

 蓮は悟を避難させ、剣に炎を纏わせ、斬り掛かるが、怪人はそれを片手で掴み、そのまま剣を一回転させ、蓮を転ばせる。

 そして、倒れた蓮の胸に足を乗せ、思い切り踏み潰す。

 鎧にヒビが入り、蓮にじわじわと痛みが来る。

 蓮が痛みのあまり、気を失うと、怪人は蓮を蹴り飛ばし、その場を去る。

「そんな……」

 右肘を抑えながら戻ってきた悟はその光景を見て、愕然とした。



 その頃蓮沼は、ケラトが帰った後、新曲の作成をしようとしていた。

「次はどういう曲にしようかな……」

 自分が昔から使っているノートに向き合い、テーマを考えていると、ケラトのあの笑顔が浮かび上がった。

「あの人みたいな明るい曲を……」

 その時、窓の方から声が聞こえた。

「よぉ、そこのお前」

 蓮沼が恐る恐る振り向くと、そこには白髪の青年が居た。

 服は黒いシャツ上に白いダウンベスト、下には黒いショートパンツを履き、靴は白いスニーカーを履いていた。

 目も全てが白く、ひょうひょうとした印象を与える。

「お前、有名になりたいか?」

 蓮沼は怪しいと思いながらも、恐る恐る答える。

「まぁ……うん」

「それじゃお前に有名になるチャンスを与えてやる」

 蓮沼は携帯電話を取り出す。

「おいおいおい、俺は別にお前の金を奪うとかする気は無いんだぜ?俺はお前に美味い話を持ってきたんだ」

「んじゃ………名前を言え」

 蓮沼は覚悟して聞いた。

「俺はあんまり自分の名前が好きじゃないんでね。俺はこう自分を名乗ってる」

 男はこう名乗った。

「キラー」

To Be Continued

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