第4話

T美のアパートと隣り合わせの、ファミレスで待ち合わせ、説得した。

暗く沈んだ顔にはMの言葉に康応する力はなかった。T美はすでに2杯目のコーヒーを注文し、カフェインの力を借りてかろうじて、座っているようだった。甘いものには目がなかったのに、注文したカップケーキに一向に手を付けようとしなかった。

「皆、君のことを待っているよ、短い時間でいいから出勤してなれるといい」

T美はぽつぽつとうなづくばかりで、はっきり返事をしなかった。そのうち、失礼しますといってトイレに向かった。

待ち構えていたように、Mは例の薬をカップの中にいれた。無味無臭の人差し指に乗る程度の粉末だった。

帰ってきたT美は薄く黒ずんだ唇で、そのコーヒーを飲んだ。やがて底がみえるようになると3杯目を注文をした。

----あとはA子の仕事だ。


午後6時を回り、モニターが順に落ちて、スタッフがぼつぼつ帰り支度を整えた頃、A子はT美に声をかけた。

「先生は短時間出勤で、リハビリのつもりで言ったのに。こんな遅くまで、T美さん、やっぱり、真面目ね。感心するわ」

スタッフが気をつかって手持無沙汰なT美に、励ましだったり、事件とは関係のない雑談を申し込んできたので、いつの間にかこんな時間になっていた。体にはどっと疲れがよぎったが、それでもしばらく人の目を避けてきた身としては、周りの優しさに触れてほどよい安堵感が湧いていた。

「これから、食事でもどう」

戸惑うT美に、A子が「先生のご指示もあるの」と重ねると、彼女はぎこちなく頷いた。

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