第28話 いざ、実食なのです。

『なぁ…今、<チキンヌードルスープ>で検索したんだけど、麺も入れるのか?』


 竜也は私達の話を聞いて、スマホで検索してくれていたみたいです。


「麺、ありますか?あれば…入れます。」

『頼む。あ、今持ってくるよ。冷凍のうどんがあったはずだよ』


 竜也はリビングとは別の部屋に設置している冷凍庫から、冷凍うどんを持ってきました。


「センキュー竜也。」


 私は冷凍うどんの説明を見てみます。当たり前ですが日本語で書かれていました。私は、日本語の読みには少し自信がありましたので、その記載内容を理解することが出来ました。


(うーん。読めるってやっぱり重要。ちゃんと勉強しておいて良かった。)


『シェリーさん大丈夫?読める?』


 葵がそう言ってすぐに来てくれました。私は自分がしっかりと読めているのか知りたくて、葵に説明を読んで聞かせました。


『おー。ちゃんと読めてるんだー。うん。全然合ってる。大丈夫みたいだね。』

「良かった。」


 私は説明の通りに、冷凍うどんを電子レンジへ投入します。その間、葵は自分の料理を鍋から大皿に移し替えています。


(葵の"肉じゃが"は、煮汁が半分以上無くなっているし、スープというよりはサイドディッシュ(おかず)なのかな?)

 私はそう思いました。


 白米も炊き上がり、私は夕食が並べられたテーブルを見て驚きました。


(うわっ。このテーブルって座卓なの!?)


 日本のテーブルは足が短く、イスもありません。まるでダイニングテーブルのソファー抜きと言うイメージです。


(どうやって座るの?床に直接?それとも…)


『あ、もしかして、シェリーさん和式は初めて?』


「以前来た時は、テーブルがありませんでした…」


『あー夏場だったから、片付けてたんだよ。今はちょうどコタツの布団を片付けていたところだから、最近はここで食べてるんだよね。』


 私にはまたひとつ分からない単語が出てきました。


「コタツ?」


『日本の暖房器具だね。アメリカには無いの?』


 葵の質問に、私は自宅の暖房器具を思い浮かべてみました。


「あー。暖炉fireplaceや日本のエアコンを使います。」


『え?ファイヤ?』

『暖炉って事だよ。葵』


 竜也がすぐにフォローしてくれます。


『さすが、毎回英語満点のたっちゃん。って…シェリーさんとお話ししてたら当たり前かぁ』


 葵はそう言って私の方を見てきます。


「今では英語で会話が普通。どちらも分からない時に、相手の言葉で聞く。竜也が英語English、私が日本語Japaneseで話す事もありました。」


『うわあ本格的じゃない。』

『そりゃ俺だけ英語覚えてもしょうがないだろ?シェリーにも日本語を覚えて欲しかったからね』


 いつの間にか話題が逸れてしまっていたので、竜也がそっと私の場所へ、ふっくらとした四角いクッションを添えて案内してくれました。


(ふふっ。こういったさりげないレディーファーストも素敵です。)


『では、いただきます』


 竜也はそう言って真っ先に食べ始めました。私はいつも通り両手を握り、目を閉じてお祈りから始めます。


「God is great. God is good. And we thank Him for our food. Amen.」


『へぇー。アメリカ人ってやっぱりお祈りするのね。』


 目を閉じていても、葵が興味本位で私を見ていると感じました。


 さすが日本人だけあって、二人共器用にお箸を使って食事を口に運んでいきます。


(はぁ…。お箸は私も練習しましたけれど、まだ上手く物を掴めないのよね…)


 葵の肉じゃがは、フォークで刺すとすぐに溶けてしまうくらいに柔らかく煮込まれ、私は仕方なくスプーンで食べる事にしました。


『んーーー。シェリーさんのポトフ、すんごい美味しいー。』


「葵の肉じゃがも、美味しいです。」


 元々料理で優劣を決める気はありませんでした。ただ、葵が竜也に向けている気持ちを知りたかった。それだけなのです。


『こいつぁ。どっちもうめーな。肉じゃがは今までも良く作ってくれたもんな』

『でも、半分はお母さんに手伝ってもらってたから、正直一人で作るの初めてだったんだ。上手に出来てよかったぁ。』


 葵はそう言って胸を撫で下ろす。もちろんそれは私も同じで、自宅では上手くできない事が多かった流れで今回の挑戦。自分でも50:50の自信しかなかったので、二人の笑顔にとても気持ちが楽になりました。


『なぁ、これ誰が判定するんだ?』


 竜也が私達に聞いてきました。もちろん、私達の視線は竜也に向けられています。


『お…俺?』

『たっちゃん以外に誰がいるの?』


 私も葵に賛同し、2度頷きます。


『あ~。ん~どっちも美味かった。それじゃダメなのか?』

「竜也、それは答えになってない。」


『いや、甲乙つけがたいと言うか…。その…。二人共仲良くしようぜ?』


 竜也はとても照れながら言いました。

 

『…。』

「…。」


 変な空気がそこに流れていました。しかし、そんな性格がと、私は思いました。それは恐らく、幼馴染である葵も感じていたのでしょう。私達はお互いの顔を見つめ合うと、まず先に葵の方から手を差し出しました。


『私とお友達になってくれますか?』

「イエス葵、マイフレンド」


 私は葵の手を固く握り、私にとって日本人二人目の友人が出来たのでした。


「葵、ここに泊まっていかないか?竜也と一緒にお風呂、入ろう」


『だからぁ~なんでそうなるんですかぁシェリーさん~。』

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