第20話 おかえり祖国。

 帰りの飛行機は格安航空を使っての乗り換え移動。祖国アメリカへ到着するのに12時間以上も掛かります。勿論、乗り換えの空港まで迎えに来てもらえば良いというわけでもありません。


(飛行機で1時間以上掛かる国内線距離を車で移動なんて…多分半日掛かりになる…よね…。)


 つまり、例え乗り換えの待ち時間が2時間あっても、乗り換えた方が断然早いわけです。


 日本を出発して9時間。私は今、サンフランシスコ国際空港にいます。


「(※英)今、サンフランシスコに着いたよ。ナツミ、何してる?」


 空港からLINEを飛ばしてみます。返事はすぐ来ました。


『mjd?』

『あ、空港?サンディエゴじゃないの?』


(…あ…。日本語で送らなかった…。)


 日本ではちゃんと日本語で返事したのに、祖国へ戻る途中で言語を切り替えていたため、日本語で送るのを忘れてた私に、ちゃんと日本語で返してくれるナツミはやっぱり日本人なんだなと思いました。早速私は、スマホの変換を日本語に切り替えて返事を出します。


「のりかえです ここから家まで 車は半日w」

『げ~。それは無理~どのくらいいるの?』


「2時間です。」

『OK~♪。空港内で良かったらちょっと話そうよ』


「来れるの!?」

『30分くらいで行けるよ。』


 急にLINEしたにも関わらず、ナツミはその宣言通りとまでは行きませんでしたが、空港まで来てくれました。


『ええ~!?それじゃ日本あっちで彼氏できたわけ?』

「彼氏…んと…婚約者fianceかな?」

『マジ?だってまだ14歳じゃない。早いよシェリーちゃん。あ~私だってまだ結婚できてないのに~』


 大まかな内容は伏せつつ、私が日本で経験した出来事を話すと、彼女は興味津々で私の話を聞いていました。彼女の友人は、どうやら転勤中の彼氏さんみたいで、彼女自身が暇を作って会いに来ていたようでした。


「ナツミ、結婚したら、式に私も呼ぶ。必ず行く」

『勿論よ。だから~、シェリーちゃんも私のこと呼んでくださいよ?』

「イエス、ナツミ」


 私達は笑顔で抱き合い、近い未来での再会を誓いました。


 ナツミと別れ、再び飛行機で2時間のフライトの後、私はようやく自分の地元サンディエゴへ到着しました。


『(※英)シェリー!!』

「(※英)ママ!ただいま!」


 空港にはママが出迎えてくれました。


「(※英)ごめんなさい。心配かけさせちゃって…。」

『(※英)いいのよ、無事に帰ってきたんだから。それに…、いつも迷子になって泣いていた娘が、一人で旅して帰ってくるなんて、思いもしなかったわ』


「(※英)もう…昔の話よ。それに…ちゃんと計画練って行ったんだから、帰って来れるのは当然でしょ?」

『(※英)それで?旅の目的は?ちゃんと達成できたの?』


 母にそう言われ、私は満面の笑みを浮かべました。


「(※英)もちろん!」

(さすがになんて言えないし…)

『(※英)そう…貴女がそう言うなら、問題なさそうね…。』


 一瞬、母の顔が険しくなるのが見えました。恐らく、兄の事で今は大変な時期なのでしょう。そんな中で、私の事を迎えに来てくれたのは、親として当然のことです。


「(※英)…兄は…。どうなった…んですか?」

『(※英)彼自身に、薬物を持ち込む意思が無かった事。入手経路など詳しい内容をしっかりと日本の警察に話した事。なにより捜査に協力的だったことで、罰金と保釈金を合わせた金額を日本側に支払い、しばらくの間は日本へ入国を禁止されるに留まったわ。けれど…。』


 現実は辛いものでした。兄自身の精神的な落ち込みが酷く、現状のままでは帰国が難しいと判断。日本警察の監視下で入院しているそうです。


(…私がなんて言わなければ…)


 私が落ち込んでしまったのを母はすぐに察して、私の頭を優しく撫でました。


『(※英)昨日も言ったけれど、あなたのせいではないのよ?シェリー。あの子の父もまた…薬物中毒だったわ…。だから、せめて同じ運命にはさせまいと必死に教育してきたのだけれど…。どこで間違えてしまったのかしら…。』

「(※英)ママ…。」


 辛いのはママの方です。再婚するまでは女手一人で育ててきた息子が、同じ血が繋がった父と同じ罪で警察の世話になってしまう。ただでさえ、私の入院や手術費用だけでも家計は逼迫ひっぱくしているはずなのに…。


「(※英)ママ…、私…You Tubeもっと頑張る。家族のために今は少しでも収入が欲しいでしょう?」

『(※英)ありがとうシェリー。でも、無茶な事だけはしないでね。貴女まで失ってしまったら…。』

「(※英)…分かってるわ…。私はまだ未成年だから、収入は父やデイブ兄さんが管理しているけれど、いつかきっと、自分の収入だけで食べて行けて、みんなの生活も助けられれば良いなって思ってる。」


 この時の私は、自分がこれまで受けてきた手術が、どれだけ家計を苦しめてきたのか、ざっくりとした数字でしか考えていませんでした。

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