自分の息子に恋します!

神原 怜士

第01話 女の子になってしまった。

 佐藤太郎(38)。平凡な家庭に育ち、大学も適当に卒業し、結構早くに結婚し、16歳の長女と12歳の長男がいる。決して裕福ではなかったが、家族4人幸せな日々だった。


 そんな俺は、今日死にました。


 死因は交通事故、車同士の正面衝突だった。相手は居眠り運転だが、あの感じでは多分生きていないだろう。


 はぁ…マジでツイてない。稼ぎ頭の俺が死んだら、嫁はどうなるんだ。一応アルバイトはしてるけど、扶養から外れない程度の給料だから、子供達を育てるには厳しいだろう。

 問題はそこじゃない。祖父の時代から受け継いできた農地はどうなる。親父がいくら健在とはいえ、60歳を過ぎて早期年金生活しちゃってるからな。俺がいるから安心しろっていつも言ってたけど、まさかこんな形で裏切ることになるなんて。

 子供達は農業に興味なさそうだし、嫁は土地の所持すら興味が無い。親父まで死んだら適当に売られてしまうに違いない。


 いっそ異世界転生してくれたら、そんな事全て忘れられるのになぁ…。


… … …。


無いか…。ああ、もう目の前が真っ暗だ…。目が覚めたら…。覚めたら…。さめ…。


「はっ!!!」


 私は急に目が開いたように感じに見舞われる。しかし周囲は真っ暗。手も足も…動く。でも、周囲を探って見ると、何かに覆われている感触がする。


(ここは…どこだろう。)


 せめて言葉が出せれば、誰か近くにいるかもしれない。


「a … a …?what?」

(おかしい。日本語で考えているはずなのに、日本語が巧く話せないどころか、脳内に自分じゃない記憶がどんどん入ってくる)


「Help…。Help…。」

(英語は…話せる…らしい。むしろ、英語しか話せない?)


 これはもう異世界転生決定か!?私はそう思った。ちょっとワクワクしたけど、今の現状はちょっとヤバい気がしてくる。私はできるだけ全力で声を振り絞ってみる。


「(※英)助けて!!!!!」


 すると、急に周囲がざわめき出した。

『(※英)な…なんだ!?棺桶から声が聞こえるぞ。』

『(※英)生きてるんじゃない?誰か!医者を呼んで!救急車を!』


(棺桶?私が死んでる?いや、確かに死んだけどさ。生き返るとかおかしくない?それに、聞こえてくるのは完璧に英語みたいだけど、ちゃんと何言ってるのか理解できちゃってるな。)


 そう思っていた刹那、いきなり目の前に光が差し込んでくる。どうやら自分が入っている棺桶が開けられたらしい。


『(※英)シェリー!!ああ、なんて事でしょう。』

『(※英)奇跡だ!奇跡が起こったんだ!シェリー!』


(うん。私ってって言うんだ。まぁよりマシだけど。)


 自分自身がどれくらい棺に眠っていたのか。今がどんな世界なのか。それは分からなかったが、少なくとも私は生きていて、そのあとすぐに気を失ってしまったようだ。


 次に目が覚めると、私は全く知らない病院らしきところに寝ていた。


『(※英)シェリー!目が覚めたのね。』


 目の前には肩まで伸びたブロンドヘアーに、目が綺麗に灰色がかった美しい女性がいて、記憶によればらしい。母は大粒の涙を流しながら、私を強く抱きしめる。


「(※英)ママ…。」


 私は彼女の背中を軽く撫でながらそう言った。空腹感はあったが、恐らく点滴による栄養補給のおかげで飢えて死ぬことはないだろう。


「(※英)ママ…。私は治ったの?ねぇ…手術は?成功したんだよね」


 私に蘇った記憶の最後は、

1、今いる場所がハワイの州立病院であること。

2、入院している病名は心臓病で、心臓の移植手術を行ったこと。(その心臓は私の生前の心臓であること。)

3、名前はシェリー・ウィリアムズ。12歳。

4、女の子。


 である。


『(※英)ええ、確かに成功したの…。でも、翌日いきなり苦しみだして…先生は拒絶反応だって言ってたんだけど…。それで緊急処置が施されたの。けど…その時は心臓も止まったって…。ああ、私は貴方が死んだと思って、遺体を飛行機に乗せてサンディエゴに戻ろうとしていた途中だったのよ』


「(※英)ママ…心配させてごめんなさい。今はとても気分が良いの。心臓もね、私に生きてほしいって懸命に動いてくれているわ」


 私は母の手を持つと、自分の心臓のそっと乗せる。棺から蘇生後、再び緊急処置が施されて、グルグル巻にされた包帯の上からも、母には心臓の鼓動が伝わっているようでした。


(それにしても女の子…かぁ。しかも長男と同い年。漫画で確かがあったけど、たしか胸に凄い傷が残るんだったよな。)


 彼女の記憶と自分の記憶。どれが本当なんて実際分からない。しかし、体は女の子であることは間違い無いので、私はこれからとしての人生を歩まなければならない。

 実際、臓器移植した人で、特に心臓を移植した人間に、提供者の趣味嗜好が移る事が稀に報告されている。


(漫画のヒロインも、時々心臓の元持ち主が恋人に話しかけるシーンがあったしな)


 けど、意識まで変わることは聞いたことがない。


(はぁ…つまり、私は死んで心臓だけが遥か遠いハワイの地で、12歳の女の子に移植されたと言う事実が分かったわけで。確かに免許証裏の署名はしてあるから、内蔵は有効活用してもらってるんだろうと思うけど、そう考えると、今は私が死んでからそんなに経ってないよ?。)


「はぁ…」


 私は病室から見えるハワイの空を見ながらため息を漏らしました。このあと更にショッキングな記憶を思い出すなんて、この時はまだ知る由もなかったのです。

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