第38話

翌日、あたしはクラス内で孤立していた。



誰に話しかけてもクスクスと笑われるだけで相手にしてくれない。



仲良くしていたヤヨイまで、あたしから遠ざかってしまった。



「一緒に勉強をしよう」



と声をかけてみても、ヤヨイは「ごめん。やめとく」と短く返事をして、他のクラスメートのところへ行ってしまう。



バレー部のアキホに運動を教わろうとしても、似たような感じて断られてしまう。



教室にいる時間は苦痛だった。



みんながあたしを見て笑っている。



「アンリ、行こうか」



ようやく放課後になってイブキに声をかけられたとき、あたしは解放された気分になった。



イブキへ笑顔を向けて勢いよく立ちあがる。



誰もあたしの相手をしなくなっても、イブキだけは変わらない。



イブキはあたしのことを数字では見ていないのだ。



それに比べてゴウは……。



あたしは友人たちと会話しているゴウへ視線を向けた。



ゴウは数字が見え始めた途端、あたしを見て笑うようになった。



言いたいことがあるなら言えばいいのに、なにも言わないままただ笑っているのだ。



きっと、あたしがゴウからの連絡を無視し、一方的に別れたのが原因だと思う。



今になって地味な仕返しをしているのだ。



あたしはすぐにゴウから視線をそらせた。



ゴウがあんな人だとは思わなかった。



早い段階で別れていて正解だったのだ。



あたしはそう思い、イブキと手をつないで教室を出たのだった。


☆☆☆


今日はとてもいい天気だった。



空には雲ひとつなくて気持ちがいい。



イブキはあたしの隣を歩きながら頻繁にスマホを気にしている。



「ねぇ、誰かからメッセージでも来てるの?」



「うん。友達」



イブキはニコッとさわやかな笑みを浮かべて頷く。



「ねぇ、こっちに行こう」



不意に手を握られて露地裏へと入っていく。



「どこに行くの?」



路地裏にあるのは飲み屋街で、今はどこのお店も閉まっている。



「こっちこっち」



イブキがあたしの手を握ってどんどん歩いて行く。



どこへ連れていく気だろう?



そう思ったとき、イブキが立ち止まって振り向いた。



「どうしたの?」



「やっとひと気のない場所で2人きりになれた」



「え?」



周囲を見回してみると、確かにあたしたち以外に人の姿は見えない。



「ずっと、2人きりになりたかったんだ」



イブキがあたしの肩に手をかける。



その瞬間、あたしの心臓はドクンッとはねた。



緊張が一気にせり上がってきて、イブキの顔を直視することもできなくなった。



「な、なに……?」



ちょっと笑って雰囲気を変えてみようと思ったが、うまくいかない。



気がつけば、イブキの顔があたしの顔のすぐ近くまで来ていた。



唇があと数センチで触れ合ってしまいそうだ。



あたしは覚悟を決めて目を閉じた……。



その瞬間だった。



唇のぬくもりを感じることなくイブキが「プッ!」と、噴き出したのだ。



驚いて目を開けると、「もう限界!!」と大声で言って笑い始めた。



なにがあったのかわからず、あたしは呆然として立ち尽くす。



イブキはあたしから体を離すと、その場に転げまわって笑い始めた。



「イブキ……?」



眉を寄せて聞いたとき、建物の蔭から数人の女子生徒たちが顔をのぞかせ、そして笑いはじめたのだ。



その中にはイツミとアマネの姿もあり、あたしは愕然とした。



「あははははは! アンリマジうけるんだけど! 本気でイブキ君に相手にされてると思った!?」



イツミが涙を流しながら笑う。



「アンリの顔、笑えるよね!」



アマネも同じように笑っている。



体温がスッと冷えていくのを感じた。



頭の中は真っ白で逃げ出すこともできなかった。



なに?



なにが起こってるの?



「お前さ、自分の数字まじで知らないの?」



イブキが立ちあがり、あたしに手鏡を突きつけてきた。



しかし、そこには自分の顔が写っているばかりで数字は見えない。



「ダメだよイブキ君。自分の数字は自分じゃ見えないんだから」



イツミの言葉に「あ、そっかぁ」とわざとらしく笑うイブキ。



「じゃあ特別に教えてやるよ」



イブキはそう言うとあたしの耳元に顔を近づけてきた。



「お前の数字……たったの10だぞ?」



え……?



あたしはすぐには反応することができなかった。



あたしの価値は10?



そんなことあるはずない!



あたしは価値の高いクラスメートと友達に持って、価値の高い彼氏がいるんだから!!

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