第37話

でも、もし家に帰って両親にも数字が見えるようになっていたら?



あたしの数字を見て落胆してしまったら?



今度はそんな不安が生まれてきた。



「どうしよう……どこへ行けばいいの?」



周囲を見回してみても、あたしの行き場はどこにもないような気がした。



学校にも家にもいられない。



街へ出ても、きっと誰かがあたしの数字を見ることになるだろう。



不安で汗がにじみ出してきた。



足が小刻みに震えて、立っているのもやっとだ。



「アンリ!!」



声をかけられて振り向くと、そこには息を切らしたイブキが立っていた。



「イブキ、どうして……?」



「様子がおかしいから追いかけて来たんだよ。本当に、どうしたの?」



イブキは心配そうな顔であたしを覗き込む。



あたしは咄嗟に視線を反らせていた。



「イブキには……本当に見えてないんだよね?」



「だから、見えてるってなんのこと? ちゃんと説明してくれないと俺わからないよ?」



「……わかった。ちゃんと説明する」



それからあたしとイブキは近くの公園へ来ていた。



時間が早いから公園に子供たちの姿はない。



2人でベンチに座ると、あたしは恐る恐る額の数字について説明をし始めた。



「なにそれ? ちょっと待って、俺もネットニュース見るから」



イブキはあたしの話を途中で遮り、スマホを確認し始めた。



その表情はみるみるうちに驚きへと変化している。



「人の価値が見えるようになる植物なんて、本当にあるんだ……」



「うん。だけど、自分の価値は自分で確認することができないの」



「なるほど。それで気にしてたのか」



イブキはそう言うと大声で笑い始めた。



あたしは驚いてイブキを見つめる。



「どうして笑うの?」



「だって、自分の価値なんて普通見えるもんじゃないだろ?」



イブキは笑いを押し殺して言った。



あたしは言葉の意味が理解できなくて瞬きを繰り返す。



「どういう意味?」



「どんな努力だって、成果がついてこないと目には見えないだろ? コンテストで入賞するとか、テストでいい点を取るとかさ。でも、いつもでも成果が出るとは限らない。



テスト当日に熱を出して、実力を発揮できなかったりもする。だけど、それで価値がないって判断する?」



イブキの言葉にあたしは左右に首を振った。



努力はしていても成果がついてこない場合がある。



運が悪かったと思っても、本人に価値がないだなんて思わない。



「そういうことだよ。価値なんて見えない。数字に惑わされることなんてないんだ」



イブキの言葉に自分の心が軽くなっていくのを感じた。



他人の数字が見えるようになってから、あたしは少し価値を気にしすぎていたのかもしれない。



「それよりさ、明日の放課後デートしない?」



イブキはスマホを鞄に戻してそう聞いてきた。



「え……うん……」



「今度はどこ行こうか? どうせだからアンリが元気になるような場所がいいね」



本当に楽しそうにそう言うイブキに、どんどん心の中が晴れていく感じがした。



きっと、イブキならあたしの価値が見えたって気にしないだろう。



こうして、ずっと一緒にいてくれるはずだ。



そう思うとようやく安心することができた。



でもあたしは気がつかなかったのだ。



イブキが時々、あたしの額へ視線を向けていることに……。

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