第12話 発足。臨時攻略本制作委員会

追加攻略キャラ、追加シナリオDLC(ダウンロードコンテンツ)配信があったと思えば、結局謎が増えるばかりで伏線回収には至らず、さらには次の日には次回の追加攻略キャラ、追加シナリオDLCの告知がしれっと行われ大炎上。なんやかんやいいつつも、もはやお互いが楽しんでしまっているのではないかと思うほどのお決まりの攻防が運営とプレイヤー間で繰り広げられ、このやりとりがネット民にネタにされるまでに至るまでそう時間はかからなかった。

あらゆるところで各々がお互いにお互いを煽りあった結果、生まれたものは発売時では考えられないほどに増えに増えた攻略キャラや登場人物、そしてこれでもかというほどの鬱で残酷なエピソードの数々。

こうして最終的に【青いバラを君に捧ぐ】は他の乙女ゲーとは明らかに一線を画したカオスゲーへと変貌を遂げたった。

「改めてみるとさ、本当に多いよね。攻略キャラ。最初は6人でそこからどんどん増えて行って最後には50人ってさ…凄いよね…まるでアプリゲーだよね」

「しかも50人全員に濃厚エピソードがてんこ盛りに詰め込まれてるから恐ろしいよね。運営のバイタリティというか…もう熱意というか執念というか」

「途中有料になったとはいえ、これを無料でやってたっていうのも怖いよね。どれだけこのゲームに全てを注ぎ込んでんだろうって思ったもん」

「うん。普通に考えてこのボリュームだったらナンバリングに分けちゃえばよかったのにあえてその道を選ばなかった運営。そして受け止め続けたプレイヤー達。全員が猛者だね」

「まぁ、かくいう私達だってそうだからね」

「確かに。前世では【青ぐ】に全てを捧げてた」

「そしてそんな私達にこんなものを頼むなんてね、タソガレはどこまで分かって言ってるんだか」

「さぁね、けど、とにかく、私達には時間がない。フウリが入学するまでにこの攻略キャラオリジナル取り扱い説明書を完成させなきゃいけないんだから」

「うん。こればっかりは【青ぐ】廃プレイヤーと言っても過言ではない私達にしか出来ない事だもん。頑張ろう」





「あの、ゴメン、それってどういう事?」

さぁ、いよいよこれからが本番だ。といきこんだ私達にタソガレが告げたまさかの攻略キャラの取り扱い説明書作成依頼。思ってもいなかった話に私とルクスは意表を突かれていた。

「まず、貴女方のお話では、いわゆる主人公であられる御二人に深く関わり恋人というような存在になりうる人物が50人もいるという事。そしてこれらの人物が全て絡み合った糸のように繋がっていておりささいな行動一つでその先が変わっていってしまうという事。さすがにこれを全て把握し、対策して動いていく事は容易な事ではありません。そんな状況で少しでも我々が物事を有利に動かすにはまずはくどいようですが情報が必要なのです。幸いにも、貴女方はその50人全てを把握されている。ならばその持ちうる情報全てを我々にも共有していただきたいのです。どんな些細な事でも構わない。そしてそれがこの先に単独で学園に乗り込む事になるフウリ様の大きな武器にもなる」

「…なるほど…そういう事…」

「確かに、これから出会う攻略キャラの事はしっかり理解してもらっていた方がいいよね。じゃなきゃ打てる手も打てなくなる」

「うん。この先は本当に繰り返し行われたアップデートのせいでめちゃくちゃややこしいものになってしまってるし」

そうなのだ。ただでさえ最初から話が壮大過ぎてあちこちに伏線やらフラグを張り巡らせていたくせに、毎回毎回もう無理じゃないかなと心配になるほどの追加のエピソードを持ってきた事により、お目当ての攻略キャラのルートに入る事がとにかく難しく、ほんの些細な事で全く自分が望んでいないルートへ突入したかと思えば、もうどんなエンディングルートに入ったかさえも理解できなくなっていたなんて事がザラに出てしまうという超鬼畜ゲームに変貌を遂げた。だからこそ私も攻略サイトを漁り、仲間達と情報を交換し、どうにかお目当てのルートに辿り着けるように血反吐を吐くような努力をしたものだ。

だからこそ、このタソガレの提案はとても理に適っていると思ったし、私達が望む未来に辿りつくためにはとても重要な任務であると認識した。

そして、結局は守ってもらう事がほとんどで無力感を常に感じていた私達にとってそれは初めて自分達だけが出来る事のように思えて自然とやる気が満ちてくる。

「よし!公式真っ青の最強の攻略本作ろう!」

「うん!ヲタクの本領発揮だね!」

私とルクスはその場に飛び跳ねながらお互い手を握り合い決意を口にした。

一方でそんな私達をタソガレ達は微笑ましく見守ってくれていると思っていたがまたもや黒い笑みを浮かべていたようだ。

「ルクス様と恋人になりうる人物か…改めて聞くと虫唾が走るよ」

「我慢しろ。全てはルトス様達の為だ」

「分かってるよ。もちろんしっかり勉強させていただくよ?少しでも俺達の間ゴミが入らないように綺麗にしとかなきゃ」

「あら、アカツキったら怖い顔」

「そういうフウリ様だって、何やらお考えがあるようですが?」

「何のことかしら?ねぇ、タソガレ?」

「貴女は俺なんかと比べ物にならないほど視野が広く頭がキレる。だからこそ貴女が思うようにお進みください」

「ふふ。さて、何の事かしらね」




早速私達はその日から攻略本作成に取り掛かった。

リミットはフウリが入学するまで。でも出来るならその前には完成させて自分達の口から詳しく解説も加えたい。そうなるとさらに期限はさらに短いものとなる。

とにかく前世の記憶を全力で手繰り寄せ、空いた時間は全て作成に充てた。

だがそのスピードは思ったよりも上がらない。なぜなら【青ぐ】の場合、ただそのキャラの基本情報を書いていけばいいというものではないからだ。

あるルートでは優しく紳士的だったキャラが他のキャラと絡むことで冷徹な敵キャラとなり得る。細かな絡みが一人一人を大きく変えてしまう。そしてこの【青ぐ】では100%情報が分かっている事の方が少ない。ここはプレイヤーの想像にお任せします。なんて事のほうが多いくらいなのだ。

だからこそ解釈の違いによる論争は常にあちこちで行われていたし、その全ての回答となったであろう設定資料集もあのクソ野郎のせいで私達は見る事が出来なかった。

そのため、2人だけでその答えに限りなく近づけなくてはならない。

つまり、私達は夜な夜な激論を交わしながら丁寧に精査しながら1人1人の攻略を綴っていかなくてはならない。そしてそれは想像よりも遥かに時間と労力をかけるものだったのだ。

「まぁ、ぶつくさいってもしょうがないよね、とにかく進めなきゃ。それに今日はとにかく骨が折れるキャラなんだから…いよいよ来たね」

「…そうだね、ついに。ってところだね。…50人いる攻略キャラの中でもトップクラスで難関だし問題のあるキャラの登場」

「因みにルトスはこのキャラどのタイミングで攻略した?」

「…1番最後にした」

「あぁ、やっぱり?私も一緒!初期実装キャラなのに攻略したの最後になるなんて思わなかったよね」

「それは…うん…確かに…でも私の場合は…」

「ん?」

「…あ、いや何でもない。…じゃあ早速始めようか。リイヅ=キミキについて」

リイヅ=キミキ。【青ぐ】において初期から実装されていた攻略キャラの一人で、定期的に行われた【青いバラを君に捧ぐ】公式総選挙において票数断トツで1位をとり早々に3連覇を果たし見事殿堂入りをしたという伝説を持つ人気ナンバーワンキャラだ。そして同時に彼が最も攻略が難しいキャラでもある。

見た目は女性のように美しく線が細く、いかにも典型的などこぞの王子様の出で立ちで、物腰も柔らかく誰にでも優しく好かれそれでいて自分をしっかりと持っている。さらに戦場に立てばタソガレやアカツキにも勝るほどの強さを誇り、少し戦闘狂のような片鱗ものぞかせ、場合によっては主人公に対してドSな表所も魅せる。いわゆる運営が狙ってまさにこういうの好きでしょ~と言っているような要素が全て詰め込まれたような運営贔屓攻略キャラである。

だがしかしこのリイヅ。ただでは落とせない。まず彼を落とすには他5人用意された初期キャラを落とした事が条件でさらにはとある大きな壁があるのだ。

「でも、リイヅに関しては、落とすとか攻略って言葉を使うのは違う気がする」

「え?」

「だってさ、リイヅルートに入っても心の底からヒロインを愛してくれることはないじゃない?結局はさ、もうあの子の遺言の通りにただ一緒になってくれただけだし…」

「…あのね、ルクス」

「私、密に楽しみにしてたんだけどな~リイズさんとの恋愛。でも一切甘いセリフも無ければ悲しいだけでさ~しかも最後にとって置いちゃったからなんか切なくなってさ~」

「あの、だから、ルクス」

「リイズさんクリアした後、他のキャラ何人かやっちゃったくらいだもん。乙ゲーで最後まで塩対応は辛い」

「ルクス!!!!」

「…え?」

私の大きな声に驚いたルクスは目をまん丸にしてこちらを見やっている。

しまった。こんな大声を出すつもりはなかったのに。でも。だって…。

「ルトス…?どうしたの?ごめんなさい…私なんか変な事言ったかなぁ…?」

「違う、そうじゃないの。ごめんんさい。でも、私…」

「ルトス…?」

「だって!リイヅは…リイヅは…シヤコちゃんの…シヤコちゃんだけを…愛しているから!!!」

「…ん?」

「だってそうじゃない!あんなにもお互いがお互いを必要としているのにも関わらずどんな道を辿ったって決して報われる事なくシヤコちゃんは絶対に命を落としてしまう!シヤコちゃんに命掛けのお願いをされて主人公と結ばれたって心の奥底ではシヤコちゃんを想い続けるのが当たり前なの!それが至高!それがリイヅという男!」

「あの~もしも~し?」

「二人の間には誰も入れない、入っちゃいけないの!だから本当にリイヅルートをするのが苦痛で苦痛で…でも!神運営がリイヅルートに入ったからと言って心の底からこっちに振り向く事はないっていう展開にしてくれて私は解釈一致過ぎて泣いた!」

「お、おぉ、…こんな激しいルトス久しぶりにみたかも」

私はそこまで言い切ってハッと我に返る。

しまった。暴走してしまった。でも、どうしてもこの想いは止められなかった。

「ごめんなさい・・・時間がないのにこんな…」

「いや、それは別に…っていうか、もしかしてルトスって…」

「うん…私の最たる推しカプはリイ×シヤ。そして、私の最推しはシヤコちゃん」

「…はぇ~なるほど、そうだったんだ…やっとルトスの最推しが分かったよ…」

私の最推しについては記憶を取り戻してから最初の頃になんだかんだ話すタイミングが無く、ここまできたらその人物が話題に登場するまで楽しみにしておきたいとルクスの希望もあってあえて口に出さずにいたのだが、ついに、ここで私の最推しが登場するターンとなったのだ。

そう。私の最推しはこの作品一番人気キャラと想いを寄せ合うシヤコ=ラム。

彼女はフウリと同様、必ず死を迎える事になるヒロインに負けず劣らずの不幸キャラなのだ。

そんなシヤコ=ラムは私にとって大切なキャラで、ヲタク人生において最上位に君臨する推しキャラである。

そして、彼女は私をどん底から拾い上げてくれた、人生の救世主なのだ。

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