第6話 それってチート級じゃないですか

あれ?おかしいな。

ちゃんと話したんだけどな。いい報告のはずなんだけどな?

っていうかこの感じ、さっきやったばっかりなんですけど。

また、時が止まった。

同じこと繰り返し言うようだけど実際は止まってなくて、その場が死んでしまったかと思うくらい静かで3人とも固まってしまったという事なんだけど。

うん。これは予想外だ。…どうしよう?

ルクスもこの状況に戸惑っているようだ。

その重苦しい空気を感じたのか、きゅうきゅうと私の腕の中から不安げな声がする。

その声を聞き私は打開策を思いつく。あ、そうだこの子達の説明がまだだったんだ!

私はなんとかこの空気を変えるためにとにかく明るく元気な声な声を出す。

「えっと、カイ君です!!!」

あ。意識し過ぎて無駄に大きな声が出ちゃった。

急に大きな声を出すもんだから一気に視線が私に集中する。それに何を言い出したのかとめちゃくちゃ怪訝そうな顔…。でも、ここはもういくしかない。

「あ、えっと…この子ね、見た通りこの世界では海の三日月…だっけ?私達の前世ではイルカって呼ばれてるんだけどさ、ほらその姿をしていて…でも!色とか、サイズとか羽根が生えてたりとか、ちょっと違うというか…。あ、覚えてるかな?力が覚醒したら力に呼応して使い魔が生まれるって話!実際【青ぐ】での使い魔は竜の姿だったはずなんだけど…それは~きっと、使い魔は主の想いを具現化したものだっていう設定があったから私が大好きなイルカになった思うんだよね~不思議だよね~!」

そこまで一息。

…うん。反応なし。怖いほど静寂まま。…いや、むしろさらに状況が悪化した?

ヤバイ。反応がなんか怖くて早口でペラペラ喋りすぎたか?身体から嫌な汗が一気に出ているのがわかる。どうしよう、えっと、そうだ、ルクス!ルクスに助けてもらおう。

「ほ、ほら、ルクス、ルクスも紹介しないとね、その子」

「あえっ!?あ、うん…そうだね」

ひやひやしながら私を見守っていたルクスは急に話を振られ声がひっくり返ってしまった。なんかごめん。

「わ、私の使い魔もルトスと同じで竜の姿じゃないのは見てもらったらわかると思うんだけど、この子は、羽の生えたたれ耳兎の姿をしていて、名前はマオっていうの!あ、因みにマオって名前は前世で私達が好きだったアニメのキャラの名前を拝借してて、カイって名前はそのマオってキャラのバディからとってるんだけど、あ!そのバディっていうのは何かというと」

「ちょ、ちょっとまってルクス、今はその話は後回しでいいんじゃないかなぁ?」

ルトス、貴女テンパっているのね。非常に伝わったわ。ほんとごめん。

「あ~…そうだよね!ごめん、ついつい余計な事を言いそうになっちゃった~!もうアレだね、好きな事になるとすぐ語ろうとするからね、ヲタクって奴は~あははは…」

「も、も~そうだよルクスったら!ま、私も人の事言えないんだけどね~あははは…」

あ、終わったかも。

私達の乾いた笑いだけが部屋に響く。3人の視線がめちゃくちゃ痛い。

くそぉ、なんでだよ、なんだなんだよ。

確かに覚醒したって話を先にしなかったのは悪かったと思う。けれど、昨日生まれたばかりのこの子達は赤ちゃんみたいなものでほとんど寝てるし、起こしちゃったら可哀想だからちゃんとタイミングをみて話そうって思ってたんだよ。

っていうかいい話、超朗報だったでしょ?だって光と闇の力覚醒したんだよ?

これで私達も強い力を持って状況を有利にもっていく事ができたるんだよ!

なのに、なんで!?

特に、タソガレ…なんでそんな今まで見たことがないくらい苦し気で苦虫をかみ殺したみたいな顔してるの…?

とにかく、また何か考えなきゃ、えっと何か言わなきゃ…えっと。

そしてやっと私が口を開こうとしたその時だった。

「ルトス、ルクス」

「は、はい」

黙り込んでいたフウリに名前を呼ばれ私達は思わず背筋をのばす。

「…大丈夫なの?」

「え、ん?」

「あの…何が?」

予想外の質問に上手く返せずにいるとフウリが続ける。

「身体…いや、心もかしら?何か変わったと感じる事はない?」

「それは、う~ん…よくわかんないんだよね…?」

「うん、確かに昨日覚醒したであろう瞬間は信じられないくらい体中が熱くなって違和感がすごくて、それから変な声が聞こえて…」

「でも気が付いたら目の前にこの子達が誕生してて、あんまりにも可愛くてそっちに夢中になってたら、なんか落ち着いてきちゃって」

「そうだね、何か手に入れたんだと思うんだけど、結局この力をどうして発揮するかもわかんなくて、とりあえず3人に相談してからって思ってたんだけど」

「なるほど。…という事は、とりあえずは大丈夫そうなのね。苦しいとか、辛いとかそういう事はないって事ね?」

フウリが凄い圧を持って問い詰めてくる。

「え、まぁ…。それは」

「それで?屋敷の様子は?貴女達が覚醒した後、不審な動きはなかった?」

「うんと…それも何も変わらないかな…」

「皆、通常運転だったよね、まぁ表向きはだけど」

「そう…なのね…あぁ…よかった」

フウリは深い安堵のため息を漏らす。

そこで初めて、私達はフウリの言葉の意味をやっと理解した。

もしかして、これは。

「何も、感じなかった」

タソガレが重い口を開く。

「今、その使い魔を前にするとその者達から感じた事もない不思議な力を感じる…。なのにその籠からは何も感じなかったんです」

悔しさをにじませながら言い捨てた。

「その籠には皆で食べようと思って作ってもらった焼き菓子が入っているという話を疑う事もなかったね…どうしてだろうね」

アカツキが賛同しつつ籠を見つめると。その言葉を聞きルトスがぽそっと呟く。

「…もしかしてだけど、私達のせいかも」

「え?」

「私達さ、この子達に絶対にここから出ちゃだめだよって言い聞かせたじゃない?それからさ、絶対にバレませんようにって想いを込めてその籠の蓋閉めたよね、私達」

「うん、でもそれが何?」

「思い出してよ、光と闇の力ってその宿主の想いを強く反映するものじゃない?もしかしたら私達は無意識のうちにその籠に封印みたいなものをかけたのかも」

「えぇ…?そんな事あるかなぁ…?」

「でも、無いともいいきれないでしょ?」

「まぁそうだけど…」

私達のやり取りをみて自嘲気味にタソガレが笑う。

「なるほど。無意識のうちに俺達でさえ気が付かないようにしてしまうとは…。これが光と闇の力の凄さか…いや俺がそれほどまでに未熟って言う事か…」

「…ねぇ、タソガレ?これは俺達の仮説が正しかったって言う事にならない?やっぱりそういう事だったんだよ」

彼等は一体何を話しているのだろうか、仮説とは?疑問を浮かべている私達にアカツキが説明してくれる。

「不思議だと思いませんか?」

「何が?」

「今日まで、この話し合いが、外部に漏れなかった事」

「…え?」

「それは、しっかり人払いをしてこうして部屋の真ん中に集まってこっそり話しているから…」

「ルクス様、ルトス様、その可愛らしい御声は意外によくお通りになるのですよ。それにいくら人払いを済ませたところで部屋のすぐ外にはコットとウィネ、護衛騎士といった誰かが必ず控えている。それからこのお部屋に防音設備は整ってもいない。だから外に漏れ聞こえていることもあるでしょう。もしかしたらよからぬ場所から怪しまれ、盗み聞きや監視されてしまっている可能性も大いにある」

「そんな…」

「それに、貴女方はお屋敷でもお2人でよくお話になっているのでしょう?隠れているように見えても同じようなものです」

「う…でも、何も、起こらなかったよ!?」

「4年前、俺と、タソガレは貴女方から真実をお話いただいた後すぐにその確認と対策に動いた。でも、何も出来なかった、いや…何もしなくても、もうよかったんです。…我々は不思議な力によって守られていた」

「不思議な、力?」

「えぇ、まるでこの5人、または貴女方2人でお話になっている場所がそのまま違う空間に隔離されているようにね」

「何、それ…」

「不思議な力、初めは俺達もぞっとしました。この全ての出来事が最初から黒幕の掌の上で踊らされているだけなのではないかと…でも気が付いたのです」

そこまで言うとアカツキはルトスをじっと見つめた。

「その力からは貴女の匂いがしました」

「…え?」

「俺にはルトス様の匂いがした」

「匂いって…」

「だからこそ、俺達はその力を信じる事にしたんです。そしてこう推測しました。いくら力が覚醒していないとはいえ、貴女方は計り知れない力をお持ちになっている。恐らく貴女方が自分でも気が付かないうちに無意識で力を発動させているのではないか、と」

「いや、そんなすごい事、やってるつもりは…」

「ルトス様、先ほど貴女もおっしゃったではありませんか?光と闇の力は宿主の想いを強く反映するものだ、と。貴女方は常々何を考えてこの話し合いに臨んでいらっしゃたかを思い出してみてください」

「それは…」

「絶対に、誰にもバレないように…?」

アカツキがにっこりと笑う。

「そして、今回の一件でそれが証明されたというわけです。恐らく貴女方が覚醒された事にまだ誰も気が付いていないのも恐らく同じように力を使っているからなのでしょう、無自覚に」

マジか…。私達ってすげぇ!あぁ…じゃなくて。

なんだそのファンタジーな話は…いや、実際ここはそういう世界な訳なんだけど。

そもそも当時まだ6歳だったタソガレとアカツキがどうやって動いて確認できたのかとか、私達の匂いってどういう事なのかとか気になる事ばかりだし…。

というか、確かになんで今指摘されるまで私達はこの部屋が安全だと思い込んでいたのだろうか。ただでさえ危険が溢れているこの世界で無頓着すぎる。もしその力がなかったら?

タソガレとアカツキが動いてくれていなかったら?

考えただけでもぞっとする。

そもそも力を覚醒させたいという気持ちに囚われていたけれど、確かにあんな馬鹿みたいに勝手に覚醒させて、もし、何かあったらどうしていたんだろう。

何も考えていなかった。フウリにあんな顔させるまで、気が付かなかった。

なんて自分勝手なんだろう。情けない。馬鹿だ。私。

カイとマオが一気に落ち込んでしまった私達の顔を優しくなめる。

今はその優しさが、辛い。

「ごめんなさい…」

そういうと涙が溢れて止まらなかった。

泣いてばかりだ、私は。本当何をやっているのだろう。

とにかく自分が恥ずかしくて穴があったら入りたい。でも涙も止まらない。

「泣かないで」

そう言うとフウリは、力の限り私達を力いっぱい抱き締めてくれた。

「ねぇ、2人はきっと少しでも自分達も力になりたくて、力の覚醒を急いだのよね。なにか行動しないと不安だったのよね?…そして、それは私の、私達のためだったのよね?」

フウリの温もりが、言葉が胸にしみる。言葉にしようとしても声にならない。

「ありがとう。…でもね?これからはちゃんと私達に話してね?本当に、本当に何もなくて、2人が無事で、よかった…」

「…フ、フウリィッッッ~!!!」

「ごめんなさぁ~い!!!!」

私達はフウリの胸の中でとにかく泣いた。赤ん坊のように。フウリはただただ優しく背中をさすってくれていた。




それからひとしきり泣きに泣いて少し落ち着いたところでタソガレとアカツキにも改めて謝罪と感謝を述べた。

「本当にごめんなさい。これからは改めて気を引き締めます」

「2人にも迷惑をかけてばかりで本当に申し訳ないんだけど、これからもどうかよろしくお願いします」

ルクスと頭を下げ、気持ちを伝える。私達が悪いのだから彼らから何を言われても受け止めようとしていた。しかし返ってきた言葉は想像と違っていた。

「どうして、貴女方が頭を下げるのですか?」

「え、だって…」

あれ?タソガレから何かよからぬものを感じるんですけど。

「勝手に力の覚醒を急ぐほど追いつめられていらっしゃったというのに、何も気が付けなかった…」

「あ、いや、あれは、確かにそれもそうなんだけど、深夜テンションっていうのもあって…」

いつもにこやかな表情を絶やさないアカツキなのに、そんな苦しそうな顔するなんて。

「俺は、いくら強力な力が発動しているからと言ってルトス様の変化に何も気が付くことが出来なかった…自分が、情けない」

「タソガレ…?」

「何が護衛騎士なんだろうね、自分がどれだけ慢心していたかよくわかったよ…俺達はまだまだ弱いね」

「いや、アカツキ達、多分めちゃくちゃ強くなったと思うよ?多分本来の【青ぐ】での9歳の2人とはもう比べ物にならないくらい!」

ルクスのフォローもむなしく、2人には届いていない。

「ルトス様」

「あ、はい何でしょうか?」

「俺は、貴女をお慕いしております。愛しております」

「…え?」

タソガレから怖いほどの熱情を急に向けられる。

「ルクス様、俺の命は貴女のものです。貴女は俺の全てです。愛しています」

ルクスはアカツキの熱烈な愛の告白に固まっている。

これまでも何度も何度も私達は彼らにさすが乙ゲーの攻略キャラと言わんばかりのゲロ甘台詞を向けられてきた。

人は慣れる生き物だというけれど、これだけは慣れない。

むしろその愛の告白は日に日に熱を帯びてきている。

前世でイケメンからとてつもなく最悪な目にあわされて、イケメンや恋愛事に本気で嫌気がさしていた私達でさえ、ほだされていくほどの心の奥から向けられる想い。

「必ずやこの後悔を胸に、貴女をお守りできるよう強くなります」

「貴女の望むもの全てを、俺が貴女に捧げます。だから、どうか見ていてください」

もうこうなってしまったら何も言えない。

私とルトスは顔を真っ赤にして頷く事しか出来なかった。

「あらあら、こんな事、前にもあったわねぇ…」

とフウリがその様子をみて笑う。

彼女の膝の上にはすっかり安心して眠りについたカイとマオが可愛い寝息をたてて眠っていた。

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