チュロスと配達員

「呆れた配達員だ。生かして置けぬ。」

 チュロスは、単純なお菓子であった。まぶしてある砂糖を、少しずつ落としたままで、ちょこちょこ配達員に近づいて行った。しかし所詮は人間とお菓子、追いつける筈もない。チュロスは諦めてトラックで待っていることにした。

 しばらくすると、デートを終えた配達員が帰ってきた。しかし、トラックを出る時と違うトランクの様子に疑問を抱く。そして、バレバレな所に置いてあったチュロスを捕まえた。

「トランクの中をめちゃめちゃにして何をするつもりであったか。言え!」リア充配達員は静かに、けれどもリア充オーラを以て問い詰めた。その配達員の顔は崩れていて、緩んだ口元は、吐き気がするほどキモかった。

「お菓子をはよ届けろや! クソが!」とチュロスは悪びれずに答えた。

「おまっ、チュロスが喋って…w クッw ちょっと待って…w」 配達員は、爆笑した。「ちょ…w おもろすぎ…ww 待って笑い死にそう…w」

「笑うな!」とメロスは、いきり立って反駁した。「お菓子のことを笑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。配達員は、美味しい美味しいチュロスのことさえ笑って居られる。」

「だってw こんなん笑うしかないって…w お前たちがやったんじゃん…w お菓子なんて普通喋らない。……プッw お菓子は、もともと食べられるだけなのさ。喋るのは、おかしい。」 配達員は腹を抱えながら呟き、ふぅーっと一息ついた。「俺だって、リア充を望んでいるのだが。」

「何が非リアだ。八股してるくせに。」チュロスは普通に許せなかった。「結婚する気のない女性と複数関係を持って、何が非リアだ。」

「だまれ、非リアの民。」 配達員は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんなリア充アピも出来る。俺には、それがイキって嘘ついてるようにしか見えねぇ。おまえだって、いまに、リア充アピしても信じないぞ。」

「ああ、お前は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、食べられるまで独身でいる覚悟で居るのに。リア充アピなど決してしない。ただ――」 と言いかけて、チュロスは足もとに視線を落とし瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、お前に食べられる前に三時間の時限を与えて下さい。たった一リットルの油を、捨てる瞬間が見たいのです。三時間のうちに、私はカップルに食べられ、生まれ変わって必ず、ここへ帰って来ます。」

「ばかな。」 と配達員は、ナメた口調で笑った。「とんでもない嘘を言うなァ。逃がした小鳥が帰ってくるとでも?」

「そうです。帰って来るのです。」チュロスは必死で言い張った。

「私は約束を守ります。私を、三時間だけ許して下さい。油が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この楽園にポップコーンというお菓子があります。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三時間目の五十九秒まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

 それを聞いて配達員は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うなァ。どうせ帰ってこないに決まってる。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代わりのポップコーンを、三時間目にパクパクするのも気味が良い。お菓子は、これだから喋る筈がないと、俺は悲しい顔をして彼女たちに話すのだ。世の中の、非リアとかいう類の奴らにうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三時間目には五十九秒までに帰ってこい。おくれたら、その身代りを、きっと食べるぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠に許してやろうぞ。」

「なに、何をおっしゃる。」

「HAHA。カップルじゃなくて俺に食べられたくなかったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

 チュロスは口惜しく、(心の中で)地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

 竹馬の友、ポップコーンは、一分後、配達員に買われた。リア充配達員の面前で、佳き友と佳き友は、久しぶりに相逢うた。チュロスは、友に一切の事情を語った。ポップコーンは無言で一粒はじき飛ばし、チュロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。ポップコーンは、縄打たれた。チュロスはすぐに出発した。初夏、リア充満天の楽園である。

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走れチュロス きのこ @mushroomdayo

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