セカンドフェーズ


 -夏季十月十三日・西門前



 -《イレツ森林》での事件から二日後。…あれから特に何も起こらず、街にはいつもの日常の空気が流れていた。

 そんな穏やかな日の朝方。俺-ドミニクはニーナお嬢と共に西門の前で、馬車が来るのを待っていた。…なんで、二人して門の前で馬車を待っているのかと言うと-。


「ーそろそろかな」

 お嬢は、騎士服のポケットから懐中時計を出して時間を確認し《スコープ》を使う。

「ー…お。来た見たいだね」

 俺も《スコープ》を使った。

 すると、遠くに大きな馬-《レギュラーホース》の牽引する、《準高速馬車》が程よいスピードでこちらに向かっているのが見えた。…しかしいつ聞いても、凄い振動だな。

 かなりの距離があるはずだが、馬の走る振動は既にこちらに伝わり始めていた。

 それから徐々に、振動は大きくなっていき-。

「-ブルゥゥーッ!」

 数分後。低く重い鳴き声を放ちながら、馬車は門前の停留所に止まった。

 そのタイミングで、お嬢と俺は停留所に向かって歩き出した。

「-お忘れ物をなさいませんよう、お気を付けくださいっ!」

「…っ」

 …あれがー。

 乗務員の案内を聞き流しながら停留所に着くと、お嬢は『目当ての人物』を見つけたのか足を止めた。

 俺も足を止め、お嬢の視線の先を見た。


 ー…そこには、青いマントとライトグリーンのマントを身に着けた、タクトと同い年くらいの二人の男女がいた。…噂には聞いてたが、マジで『若い』な。

 そんな感想を抱いていると、二人もこちらに気付き走って来た。

「-…えっと。

 アクウェル様と、アルエ様ですか?」

 開口一番、青いマントを纏った男子が聞いて来た。

 お嬢と俺は、直ぐに頷く。

「ああ。

 -そちらは《中級回収士(ミドルキーパー)》のシュウ=ミツハシ君と、ルプア=リヴィエルさんだね?」

「「はい」」

 -ホント信じられないよな…。この二人が、俺達騎士と似たような訓練と実戦を経験してるなんて……。…お嬢の口から聞いてなきゃ、俺は鼻で笑っていたかも知れん……。

「…では、詰所までご案内します」

「「宜しくお願いします」」

 二人はお辞儀をしつつ《白いロテュス》の刻印が刻まれた《クリスタル》を取り出した。…見るのは初めてだな。



 …そして、お嬢を先頭に、ミツハシ、リヴィエル、俺の順番で門へと向かうのだった-。




 ☆



 ー詰所



 ーっ!…すげ、外からでもはっきりと『分かる』な。

 その日の午前。俺はニーナさん(本人が許可をしてくれた)に呼ばれて詰所に来ていた。…正確には、今朝到着した『ブランロース』の人が俺との面会を希望したからなのだが……。…なんか、《気付かれそうな予感》がするんだよな。

 そんな確信めいた予感を抱きながら詰所の中を進み、応接室の前に着いた。

「-ニーナさん。タクトです」

『ああ。入って良いよ』

 ノックをして名乗ると、許可が返って来たのでゆっくりとドアを開けた。

「ーやぁタクト。…もう、大丈夫みたいだね?」

「はい。…ご心配をお掛けしました」

 中に入ると、開口一番にニーナさんは聞いて来た。…『あの後』、ミリュー氏の『説明』もあって随分と心配を掛けてしまったからな。…悪い事をしてしまった。

「「ー……」」

 申し訳なさでいっぱいになっていると、『ゲスト』の視線が突き刺さって来た。

「(…うん、『的中している』な。…にしても、随分と若い人達だな。)あ、すみません。

 ー初めまして、《コントラクター》のタクトと申します」

 多分、俺の『銀』に反応しているであろう二人に簡単な自己紹介をした。


「…っ!こちらこそ、初めまして。

 ブランロース所属の《ミドルキーパー》、シュウ=ミツハシです」

「同じく、《ミドルキーパー》のルプア=リヴィエルと申します」

 二人はハッとし、即座に名乗り返して来た。

 ー…《ミドルキーパー》、中級って事か?…それにしても、近くで見るとホント『凄い』な。

「…さ、タクトはこっちに座りなさい。あ、今紅茶を淹れるね」

「はい(…なんか、どんどん待遇が良くなっているな)」

 言われた通り、ニーナさんの隣に座ると彼女は丁寧な所作で紅茶を準備した。

「ー…さ、どうぞ」

「ありがとうございます…。…………、フゥー」

「…さて、それじゃあそろそろ本題に入るけてど大丈夫かな?」

「はい」

 すると、彼女はゆっくりと立ち上がりテキパキとティーセットを片付け始めた。…スペースがあるのに、なんで片付けるんだ?

「…ああ。

 まぁ、知らなくても当然か…」

 俺の視線に気付いた彼女ははテキパキと片付けを済ませ、ポケットから《メモリークリスタル》を取り出した。

「《これ》って、凄く繊細でね。

 近くに《起動中》のクリスタルがあると、動作不良を起こす事があるんだよ」


「…なるほど(精密機器みたいなものか)」

 そして、彼女はティーカートを離れた所に置いた後ソファーに座り《メモリークリスタル》に魔力を注入した。

 ーすると、《ウィンドウ》が空中に投影された。

「-まずは、改めて今までの経緯を説明しましょう」

 ニーナさんは、《ウィンドウ》を大きくして説明を始める。

「…事件が起きたのは、二日前。場所は、街の東に位置するイレツ森林の全域です-」

 -その説明を聞いていた二人の《キーパー》表情はは、先程までとは打って変わって真剣なモノだった。

「-…ですが、『協力者』のおかげで大事にはならずに済みました。尚、『彼』によると実行犯は『取り逃した』との事です。

 …以上が、経緯になります」

「ありがとうございます。

 …では、早速『捜査』を始めるとしましょう」

 ニーナさんが経緯を説明し終えて《クリスタル》を片付けると、ミツハシさんがそう言ってこちらを見た。

「…確か、タクトさんはそのミリュー氏とコンタクトが取れるのでしたよね?」

「はい。…ただ、『彼』曰く『あまり多くの人前では-話さない-ように』と言われています」

「…そうですか。…では、『次は何処が襲撃されそう』なのか『後で教えて下さい』」


「(ー…スゲーな。今の俺の発言でニーナさん達に『隠している』のを察したのか…。)分かりましたー」

「ーっ!ちょっと失礼…。

 …どうしたのかな?」

 そんな時だ。ふと、部屋にある通信機が鳴り出しニーナさんは立ち上がり通信に出た。…すると、彼女はだんだんと『困惑』した様子になっていった。

「ー…分かった。

 直ちに、全員広場に集合させてくれ。…では」

「…何かありましたか?」

 通信が終わった直後、俺は不安を募らせながら聞いた。

「…いや、《この間》のような事態ではないよ。

 ーどうやら《農場》の方で、《リトルスタンピード》の兆候が出たようなのだ」

「「…っ!?」」

 彼女の言葉に、キーパーの二人は驚愕する。

 ー《スタンピード》…。…なるほど、確かにかなりの『トラブル』だな。けど、『リトル』ってついてるから彼女達からしてみたら少し『困惑』する程度の事なのだろう。

「なので、申し訳ないけれど私はこれで失礼します。

 …とりあえず、片付き次第それぞれの宿に連絡をしますね」


「了解です」

「「分かりました」」

「それではー」

 こちらが頷くと、彼女は素早くそして静かに部屋を出て行った。…うーん、『偶然』とは思えないな~。

「…あの、タクト『殿』。…今、『協力者』の方々に連絡をしては頂く事は可能でしょうか?」

 どうやら、彼らも『嫌な予感』が頭を過ったようだ。

「分かりましたー」

「「ーっ!?」」

 俺は直ぐに、《マスク》を装着し《コンタクト》を取る。すると、二人は驚愕した。

(《ーこちら、タクトです。ミリュー殿、聞こえますか?》)

(《…ッ!タクト殿、チョウド良カッタ。今シガタ-農場-ヲ哨戒シテイル同胞カラ連絡ガ来タノデスガー》)

 ー…おいおい、マジかよ。

 その報告に、俺は困惑するのだったー。






 

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白銀のフラグクラッシャー~こんな平和な日々がずっと続けば良いな…と思ったので今日もバッドエンドフラグをぶちのめす~ 星乃河 昴 @mafinn53

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