第9話

「え、話してくれたの!?」

「え、キモいって言われなかったの!?」

 昼休み、バンドメンバーで集合がかかった。中等部の時に結成したバンド・餡蜜。結成した時にミヤが餡蜜を食べていたので餡蜜。ボーカルはミヤ、ギターが朔太郎、ベースが水嶋明仁あきひと、俺がドラムの4人バンドだ。

 会議らしいが明仁が来ないので、この前の話の続きを迫られていた。その女の子変わってんなぁ、と朔太郎が呟く。

「悪い遅れた!」

「明仁テメーが遅れたせいで俺がコイツらに虐められてたんだがそれに対する謝罪とか無いのか」

「いや虐めてないよ?ただの質問じゃん」

「明仁来なくても聞いてたことには変わんねーよ」

「え?何の話だよ」

「良いから!会議するぞ!議題は何だミヤ!」

「あー、新春ライブの話なんだけどね」

 新春ライブ。それは1月4日にライブハウスを借りて龍聖学園高等部のバンドオンリーのライブをする。

「取り敢えず餡蜜は出演で良いでしょ?セトリとか決めたいんだけど今日の放課後とか良い?」

「あー、今日はパス」

——放課後また会いましょう!

 その言葉を裏切りたくない。

「何、例の彼女と?」

「そうだよ」

 詮索するな、そういう思いで投げやりに答える。さっきまで茶化し倒したからだろうか、その意味を汲んで黙っててくれる2人と空気の読めない明仁。

「え!?恭介に彼女!?え!?何で俺だけ知らないの!?」

「うっせ明仁。てかお前今英語補習だろ?」

「あーじゃあ結局来週まで出来ないのかー。来週の月曜日の放課後は?まあ用事あっても開けてね。そこまでに各自やりたい曲3曲は考えてくること!歌えるのは4曲です!来週中にはセトリ決めて練習入れるようにしたい」

「わかった。これで終わり?次の英表予習終わってないから帰っても良い?」

「どうぞー、あとのことは任せて」

「任せられないんだが?言うなよ」

「わかってるって」

 ミヤのわかってるは信用ならない。明仁は遅刻ギリギリだが港町線ユーザーなのでもしかしたら、という危惧はある。

「おい恭介話していけよ」

「まあまあ。きょーちゃんにも春が来たってだけよ」

「?今は秋じゃん?」

「そういうとこだよ明仁……」

 その会話を聞きながら、ありもしない英表の予習のために教室に戻った。

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