フレアの訪問

 ヒル様が帰られた約一週間後の今日、レヴィエスト国にて、盛大な記念式典が催されていた。来賓には、隣国のシアルレ国王とモルビテ国王を招いて、三国の仲の良さをアピールする狙いもあった。


「久方ぶりだなぁ、ガリウスにウィル」

「久しぶりだねぇ、モリソンも」

「二人とも元気そうでなによりだ」


 レヴィエスト王国国王ウィルヘルム・レヴィエスト、シアルレ国国王カリクス・シアルレ、モルビテ国国王モリソン・モルビテ。この三人は仲が良く、会合がある度に酒を飲んだりしてたそうだ。久しぶりに会えて余程嬉しいのだろう、三人とも柔らかい表情をしていた。

 ちら、と横に視線をずらせば、ヒル様を筆頭とするモルビテ国使者団や、シアルレの使者もいる。

 そして、第一王女テレーゼ様と婚約者であるウィリアム・ローゼストン様が座っており、次に第二王女フレア様と婚約者ローガン・エヴィタ様が座っている。そして最後に、第三王女シャルロッテ様とユリシーズ・シアルレ様が談笑していらした。その様子はとても仲睦まじいものだった。


「来賓や、王女たちは全員来たのか? 」

「はい。これで全員揃いました」


 アランディス卿は落ち着かない様子で、そわそわとしている。こうした国全体としての行事に参加することが初めてだからなのか、緊張しているようだ。


「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ、アランディス卿」

「いや、緊張するだろ! これだけじゃないってのに…… 」


 確かにこれだけじゃない。でも、それを表に出しては行けない。心臓が凍るような、そんな感じがするけれど、やらなくてはいけない。私たち二人のためにも。私は気を引き締めた。

 やがて、式典の開会式が始まることを知らせる大砲が鳴り響いた。




「それでは、また」


 私、シャルロッテはユリシーズ殿下にそう告げ、自分のテントへと足を運んだ。今はルルーはいない。王女の侍女としてやることがあるのだと言う。王女を一人歩かせていいのか? とも思うが、何か思うことがあるのだろう。信用しているからこそ出来ることだ。

 芝生を踏み、テントの中へと入る。中は意外にもシンプルになっており、豪華な飾りなどは無かった。こっちの方が過ごしやすい、そう思った。これから着替えをしないといけないのだが、ルルーを待たなくてはならない。いやでも、着替え自体は私一人でも充分こなすことが出来る。どうしようかと迷っていたら、テントの幕が上がった。


「誰」

「私よ、シャルロッテ。フレアよ」


 なぜ、第二王女フレアが? そう思ったが、自分よりも身分の高い方なので、無下にするわけにも行かない。どうぞ、とテントの中へと案内する。


「それで、一体どんなご要件で? 」

「あら、姉である私が妹に話しかけに来ては駄目なのかしら? 」

「……そんな訳あるはずがありませんね」


 にっこり答えれば、フレア様もにこっとした。しかし本当にどんな要件だろう。


「……また馬鹿にしに来たんですか? 」

「口を慎みなさい、元平民」


 厳しい声と表情。


「……今日はそんなあなたに贈り物を持ってきたの」


 打って変わって優しい音になる。そして、取りだしたのは、水色の小瓶だった。ことり、音が鳴って、中の液体が揺れる。


「最近お疲れのようだから、ね」


 疲れを取る薬、ということなのだろうか。疑っていることを見て、フレア様は続ける。


「あなたのためを思って、わざわざ取り寄せてあげたの。是非飲んで欲しいわ」


 冷や汗が出た。こんな時、ルルーならどうする? 上手く躱すことが出来るのかしら? ぐるぐる考えても答えは分からない。それに立場上姉ということもあり、断ること、は、出来ない。


「分かりました」


 きゅぽっ。……意を決して、その瓶の中身を飲んだ。

 そして、私は意識を失った。

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