Break Time ― 神様の永き思考と検証の果て

「世界を創るって難しいわね……」


 なにもないただただ白い空間。


 上下左右の感覚すら感じないその場所で、椅子に座りテーブルに頬杖をついた『神』と呼ばれるその存在は呟く。

 椅子に座って、というのはあくまで『椅子に座りテーブルに頬杖をついた』ような姿勢に見えるだけで、実際にはなにもない。


『神』は悩んでいた。


 自分が構築・管理をしているいくつもの世界がことごとくうまく機能しないのだ。少なくともこの『神』には寿命という瑣末な概念はないから、気の遠くなるような時間さえかければ世界はうまく機能して、あとは見守りつつ気まぐれにわずかな干渉をすれば好転する、そう考えていたのだが。


「結局争ってしまうのね……」


 うまく機能する、というのはあくまで『神』の基準である。その世界で争いが起きても、やがて終息し、それを糧として間違えることなく繁栄に向かってくれれば……。それが『うまく機能する』ということに他ならないのだと『神』は定義付けていた。


 しかし世界は『神』の思惑と理想には程遠かった。


 どの世界もうまく機能せず、形・時間の差はあれど、確実に滅亡もしくは終焉という『機能停止』を起こしてしまうのだ。

 

「ならば検証してみましょうか……」


 ある世界では見て見ぬ振り、つまり放置。

 ある世界では細やかに助力、つまり過干渉。


―――――――――――――――


 『神』は再び悩む。


 放置をすればあっという間に争いが世界を覆い、全てが瓦解した。

 かといって過ぎた干渉をしてもそれは対症療法でしかなく、一瞬――という名の長い時――で再び争いを起こし滅亡した。

 争いが生まれる世界は、遅かれ早かれ確実に滅亡もしくは終焉を迎えるのだ。

 『神』はこんな事象を幾度となく見てきているし、今回もまた同じ結果となってしまった。


「どうすればいいのでしょうか……」


 どうしたら理想とする世界が創れるのか。永き思考と検証の果てに、『神』は朦朧とした仮定を無造作に並べ始める。


 言葉が多様だから同種間での争いが絶えないのだ 

 思想が多様だから同種間での争いが絶えないのだ


 そういう思いで『神』が新たに構築した、すべてに中途半端な手を抜いた世界。そうした未熟で歪な世界を『神』は敢えて創った。


「今度はうまくいくかしら……」


 まず『神』はこの世界の主役たる人類に、最低限の文字と数字、たったひとつの大きな大地、そして信奉の対象たる『神』の存在を与え、ほかにはなにも与えなかった。


 これまでに構築そして終焉していったいくつもの世界に、『神』は多種多様な繁栄を期待し、身を削って少しずつ形を変えたいくつかの『自らの分体』、つまり複数の信奉の対象を人類に与えていた。ところが複数の信奉は複数の思想を生み、結果譲り合いのない醜い争いが起き、例外なく終焉していった。


 だから新たに構築したこの世界にはの信奉しか与えないことにした。そうすればこの世界はひとつになり、争うことなく繁栄が永遠と続く、うまく機能する……、『神』はそう信じて疑わなかった。


―――――――――――――――


 途方のない時間が流れ、やがてこの世界がこれまでの世界同様うまく機能していないことに『神』は落胆した。繁栄は続いているが想定以下の繁栄で停滞しているのだ。なぜだ、どこで何を間違えたのだと頭を抱えながら、やがてひとつの仮定に辿り着く。


『時には争いというものが良い結果を産むことがある』


 認めたくはないが、『神』はこれが足りないのだと考えた。しかしながら、争いはほかの世界で嫌という程見てきた。『神』にとって争いは好まざるものにほかならない。ゆえに『神』にとってこの選択はあってないようなものだった。


『神』は、争いなくしかもほんの少しの干渉程度で繁栄を続ける世界が見たいのだ。悠久の大海を穏やかに航行する世界が欲しいのだ。


 であれば、この世界に何を与えればいいのか。


『神』はほんの少し――物理法則に照らせば途方もないが永遠というほどではない時間――思考し、一つの可能性をすくい上げる。


「ならば私ではない『何者か』に託すのはどうだろう?」と。


 そして『神』は、自ら管理する世界のひとつからを見出した。

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