第2話 ― 異世界転生ってやつか?

「……は?」

「こんなこと言ってもすぐには信じられないかもだけど。とにかく死んじゃったのよキミ」


 いきなり死んだとか言われてもまったく実感が湧かないのだが。なにしろ体が透けてるわけでもないし、足もしっかりあるのだ。おまけに直前まで着ていた服もそのままだ。さらに言えば、丸一日何も食べていないのもあってちゃんと空腹感もある。こんな状態なのに死んだと言われて、はいそうですかと納得できる方がどうかしている。


「まぁまずはワタシの話を聞いて。キミ、過労死したの。で、それをワタシが見つけて、なんか可哀想になっちゃって」

「はぁ……」


 そんなに可哀想に見えたのか俺って。しかもたまたまとか。

 要は『神々のきまぐれ』ってところか。というかなにがなんだかさっぱりで、さっきから「はぁ……」しか言ってない俺。こんなに語彙力なかったっけ? 仮にも校正士なのに?


「だから、生き返らせてあげようかなって思ったの」


 そうか、そういうことか。言われてみれば思い当たらないこともない。実際ここ最近はほとんど寝ていないし、RPGで言うなら『蓄積ダメージ』も相当溜まっていただろう。過労死しても不思議じゃないかもな。


 仕方ない、ここは死んだことを認めないと進む話も進まない。しかしまさか自分が過労死とはね。ブラック企業で働いてもいないフリーの校正士が過労死か。もうこれ自己管理できてないダメなやつだな俺。


「でもね、キミの生きていた世界へ再び生き返らせることはできないのよ」

「あー……、それって異世界転生ってやつか?」


 もう異世界転生モノそのままじゃないかこれ。本当にあったのかこういうの。いざ自分がとなると、意外と冷静でいられるものなんだな。

 死んだあとのことなんて誰にもわからないし、否定も肯定もできないか。とにかく話を聞くしかない。情報くれ情報。


「そう、キミの世界の言葉で言うと異世界で概ね合っているかな。だから、キミはこれまでの世界じゃないところで生き返る、ってことね」

「そうか……、まぁそれはいいけど、それよりも」


 本当はよくないよな。できれば元の世界で生き返って、残りの仕事とか片付けたいし、結婚とかしてみたいし。でもそれはできないって明言されちゃったし。

 つまり未練タラタラってやつだ。


「なにかな?」


 俺は仕事の合間、少ない時間を使って、投稿サイトにライトノベル、というにはあまりにも稚拙なモノを書いていた。しかもありがちな異世界転生モノだ。『書いていた』というのは、途中で挫折したからだ。俺の創造力なんてこんなものかと痛感して、第二話を最後に投稿してそのまま放置していた。


 というか第二話そのままの内容がまさに今そのままに進行してるんだが……。

 そんな経験則をフルに活かして俺はいくつかの疑問を解消することにした。


「まず、転生したとして、その世界で俺は会話とか読み書き、そういうのはできるのか?」

「それは大丈夫。あくまで『その世界の住人』として今回は転生させるからそれは問題ないわ」

「次に、前世の記憶とかはどうだ?」

「それも問題なくできるわよ。でも、人によっては前世の記憶を持ち越さずに真っさらな状態を望む者もいるようね」


 必ずしも人は皆幸せではないから、前世なんかどうでもいいやつもいるのだろう。ならば前世の記憶はいらない、という気持ちも腑に落ちる。


 そして神は続ける。


「で、その記憶なのだけれど、持ち越す度合いも調整できるわよ」

「……? どういうことだ?」

「つまりね、持ち越す記憶の個々の優先度プライオリティって言うのかな? 人によっては性別を優先する者もいれば特技なんかを優先する者もいる。これはどういうことかっていうと、前世の記憶と転生先の記憶……って言えばいいのかな? それの比率を変えられるってこと」


 なるほどな。うーん、俺ならどうする? やり直しとか効かないのを前提で考えると、なるべく前世の記憶は持ち越した方が得策か。

 

 ならば……


「じゃあこうしてくれるか? まず名前はいらない。あと性別もだ。職業も任せる。それ以外の経験・知識なんかは持っていくことにする。それでできるか?」

「えぇ、それなら問題ないわ。むしろ調整は楽よ。楽なぶん少しサービスしてあげる」


 サービス? チートスキルでもくれるのか? まさに俺TUEEEEじゃないか。ということはアレか? 守ることしかできないのに勇者になれたりスマホ使ってチートし放題とかできたりするのかよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る