第6話 困った時は、MyTuber

「で、これがその報酬って訳か……」


 Fランクダンジョン《木こりが暮らす水辺》。

 俺はそのダンジョンのボス魔物、【木こりの地縛霊ファントム】を攻撃させる前に倒すという、完封勝利を成し遂げた。


 目的は、持っているだけで運の値を倍にして、さらに魔物を倒した際に得られる金額を1.2倍にするという、金策には重要なアイテム、【金の斧】。

 だが完封勝利した俺には、全然情報のなかったドロップアイテムが報酬の1つとして並んでいて、俺はそれを選択した。


 それがこの、【召喚 レベルアップ可能】というスキルである。




 ===== ===== =====

 【召喚 レベルアップ可能】(スキルレベルⅠ)……【召喚士】が召喚獣を召喚する際に使うスキルに作用し、召喚獣をさらなる高みへ連れていくだろう

 効果;召喚獣1体を対象にし、レベルアップ可能状態へ変更します。それ以降、その召喚獣は送還しても、効果を引き継ぎます

 ===== ===== =====



 これは俺が【召喚】で呼び出した召喚獣1体に対して、"レベルアップ可能"という項目を付与するというスキルだ。

 レベルが一切上がらないために外れモノとして扱われてきた召喚獣。

 それをレベルアップ可能にするんだから、このスキルの壊れっぷりが分かるという物だろう。


 ----だが、問題がある。

 それはこのレベルアップ可能状態に出来るのが、たった1体だけって事だ。


 《スキルレベルⅠ》ってあるから、恐らくはこのスキルレベルとやらを上げれば、2体以上、あるいは全ての召喚獣がレベルアップ可能になるかもしれない。

 しかし、このスキルの入手条件自体がほぼイレギュラーであり、なおかつどうすればスキルレベルが上がるのかが分からない以上は、この1体目とやらは慎重に選ばなくては……。




「とは言え、どいつにすべきか」


 ダンジョンの中で考えたら、魔物に襲われると考え、自室へと帰って早速思案という形にしたのは良いだろう。

 たった1体だけしか選べない以上、いつ、今は倒せないレベルⅡ以上の魔物に襲われて死んだら、元も子もないからね。


 召喚獣と一口に言っても、その数は膨大だ。

 【召喚士】レベルⅠで、まだレベルⅠの召喚獣しか呼べない俺でも、呼べる種類はざっと1000を軽く超える。


 その全てを俺は網羅している訳ではなく、ただ市役所で【召喚士】認定された際に貰った冒険者パンフレット(※1)に書かれていたオススメを試しているだけに過ぎないのだ。


「そう言えば、確かあのパンフレットに……」


 机の上にあった、全部を読むのを半ばに諦めたパンフレットを、さらさらーっと読み進めていくと、最後の方のページに、URLが載っていた。

 【召喚士】同士の交流の場、つまりは攻略情報を載せる有志達のページだ。


 早速、パソコンにURLを入力して検索をかけると、すぐさま目的のページは見つかった。


 ----【召喚士になった! けど、不遇にも負けないぞぉ~! の広間】。

 なんともしょっぱいフォントが、【召喚士】の残念具合を物語っているような気がする。


「なんかもう、この時点で負け感が半端じゃないけど」


 気を取り直して、情報収集、っと。

 Webページを開いてみると、まず見えてきた項目の中に【召喚士が不遇の理由とは?!】みたいなのが見えてきてしまった。


 どうやら【召喚士】がハズレであることは、誰の目にも明らからしい。

 わざわざ冒険者支援を目的としている、市役所主導----もとい、国主導のページでこれが消されていないって事は、【召喚士】のヤバさっぷりが見えてくる。


 でもまぁ、今見ておきたい項目はそれじゃないので、スルー。


 下の方を見ていくと、【召喚獣、なにが一番可愛い?!】や【召喚士だからこそできる、簡単荷物持ちのやり方】などというしょうもないネタが続いていき、そして----


「……あった」


 一番最後の方に、1本の動画を見つけた。


 動画タイトルは、【レベルⅠ召喚獣 元勇者が教える人気召喚獣トップ5】。

 動画投稿者は、既に60万人ものファンがいるという大手冒険者MyTuberのマイマインさんという人らしい。


 このマイマインさんは、嘘か本当かは分からないが、どうやら別世界で勇者として活躍していた経験を持つ超凄腕の冒険者さんらしい。

 実際、彼1人で他の冒険者がパーティーを組んでも成し遂げられていない功績をあげている。


 例えば、一流冒険者が100階層にも辿り着けない中、彼1人で1000階層の魔物を余裕で倒す動画を上げていたり。

 あるいは、本職の生産職(※2)さんが知らないレシピを多く公開していたり。

 また、自分の職業ジョブが【なし】という俺達以上のハズレなのにも関わらず、【召喚士】を初めとしたあらゆる職業の情報を知っていたり。


 兎にも角にも、あり得ないくらいの功績をあげて、冒険者系MyTuberのトップを進んでいる人。

 それがこの動画の投稿者の、マイマインさんという方らしい。


「(自分で考えても埒が明かない。とすると、ここはやっぱり、優秀な先輩さんのお話を参考にさせていただこうじゃないですか)」


 俺はそう思って、動画再生ボタンを押した。






(※1)冒険者パンフレット

 市役所に用意されている、初心者向けの冒険者用パンフレット。それぞれの職業ジョブの特徴や、ダンジョンの潜り方などの基本的な要素だけではなく、ドロップアイテムを売る換金所、ダンジョンマップの購入方法など、市役所目線で作られた要素も多い

 ページ数は20ページほどと少ないのだが、文字がぎっしりと書き込まれているため、読み辛いとの評判


(※2)生産職

 武器を作る【鍛冶職人】や、薬などを錬成する【錬金術師】など、物を生み出す性質の職業ジョブの総称。ダンジョンの外などで、物を作り出す際に様々なアドバンテージを発揮する

 ダンジョン内においては、武器の耐久度を大幅に減少させる代わりに威力を上げる【壊心の一撃】や、アイテムのドロップ率を上げる【素材収集】などで、パーティーの一員として活躍する

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