ドーナツのような星があったなら

夕霧ありあ

ドーナツのような星があったなら

 これは、ぼくの空想の物語。


 ひょっとしたらあり得るかもしれないけれど、きっと起こりえないこと。

 ぼくの勝手な、くだらない夢でしかない。

 誰かに見てほしい訳じゃない。けれど、誰かが好意か何かで見てくれるなら、これ以上に嬉しいことはない。

 だから、ぼくはこの物語を書き記すことにしよう――。




 もしも、ドーナツみたいな惑星があったなら。

 地球から見ればぼくたちの目に入ることはないだろうし、天体望遠鏡を使ったとしても、ドーナツの形には見えないだろう。

 だけど、近づいてみると、確かにドーナツの形をしている。何もなくて、地殻がむき出しになっているなら揚げたてのようで、美味しそうだと思う。けれど、地球と同じように青と緑に覆われていたら、ちっとも美味しそうには見えない。

 ドーナツの惑星? そんなの夢の世界だけの話だろ? 理屈はあるのかい?

 そう、馬鹿にしたって構わない。これはぼくの夢の話だ。理屈もぼくなりに、考えてみるさ。

 ドーナツの惑星の重力は、誰もが立つ地面の真ん中――すなわち、ドーナツの生地の芯の所にあるのだ。だから、ぼくたちが住む星と同じように、裏側に立っていたって、落ちることはない。




 もしもドーナツの惑星に生き物がいるならば。

 はじめに、惑星は海に囲まれ、青で満ちることだろう。そこから、生き物は種を増やし、進化していくのだ。古代魚のような生き物が、ドーナツの海を縦横無尽に駆け巡っていたと想像するだけでも、心が躍る。

 それから大地というデコレーションが生まれて、大気というコーティングが、うっすらと星を覆うことだろう。

 ドーナツの惑星からも太陽みたいな星が見えて、熱と光が降り注いでいる。

それらはあらゆる方向に降り注いでいるといっても、やはり、その恩恵をあまり

受けられない場所が存在する。それが何処か、君にはわかるかい?

 そう、ドーナツの内側。だから、まず生き物が栄えたのは、ドーナツの外側だ。




 もしもドーナツの惑星に人が住んでいるとしたら。

 ドーナツの外側に住む人は、自分は平面的な世界に住んでいると思い込む。ドーナツの内側に住む人も、そう思う。もっとも、内側から見上げた空には反対側の景色が移る筈だけれども、大気と空にかかる海のお陰で、まさか人が住んでいるとは思わないだろう。

 やがて人は海を渡り、世界地図を作るようになる。その地図は平面の世界のものだから、あまり正確ではないと思うかもしれない。けれど、その平面地図はドーナツの星の大地を描くのにはとても都合がいいと後に解ることになる。

 どうして都合がいいかって? 紙を丸めて、丸めた紙で輪っかを作ってごらん。ドーナツの形になるだろう?

 この星にも研究者はいて、天体学者もいる。彼らはやがて、自分たちの住む星はドーナツの形をしていると、気付いてしまうんだ。




 そしてドーナツの惑星に住む人々が、地球の人類以上に科学技術を発達させたとするならば。

 有人のロケットを使って、ドーナツの星を縦横無尽に駆け巡ることが出来るだろう。ドーナツの穴に出入りしたり、ドーナツの外側をぐるりと回ったり。きっと、地球をロケットで巡り巡るよりも、さらにもっともっと面白いに違いない。

 さらに、ドーナツ型のUFOなんて作って、他の知的生命体がいる星に、自分達が住んでる星はこんな形をしているんだよ、ってアピールすることも出来る。もしかしたら、地球にも、やってきているかもしれないよ?

 だけど、地球にある資源が有限なように、ドーナツの星も、資源が有限なんだ。

だから、温暖化とか森林破壊とか砂漠化とかエネルギー問題とか、地球でも起こっている問題がこの星でも起こりうる。

 そしていつか、人類は滅びることになるだろう。




 ドーナツの星に人類がいなくなったら。

 それでも、荒れた環境に適応した生き物は精一杯生きようとしている。

 アリやゴキブリのように、生命力がとても強い生き物は少なからずこの星にも存在しているだろう。

 それでも、ドーナツの星には寿命が存在している。

 ぼくたちから見れば、ずっとずっと長い時間――何十億年もの時間を生きて、時の流れを見つめ続けているけれども、星もひとつの生命だから、やがて終わりが来る。無限に限りなく近いとしても、無限そのものではないってことだ。

 例えドーナツの星の命が終わってしまっても、すぐにドーナツが消えてしまうわけではない。少しずつ、星を構成している物質が空に散っていき、宇宙に還っていく。地球の生きとし生けるものが、やがて土に還っていくように。

 そしてしまいにドーナツは、跡形もなく宇宙に食べられるんだ。




 ……これで、ぼくの話はおしまいだ。

 最初にも言ったように、これはぼくの勝手な空想だから、ドーナツの星は本当に出来てしまうものかもわからない。

 だからこの物語は、君の心の中だけにとっておいてほしい。

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ドーナツのような星があったなら 夕霧ありあ @aria_yk

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