第2章 新しい世界②

 家族に会えるかもしれない、との思いにふけっているときだった。

 それをかき消すように、女が答えてきた。


「はい。AIがAIを開発したことで、科学と技術が人間の予想を超えて進化したのです。その素晴らしい科学技術のおかげで、あなたは再生することができたのですよ」

 柔らかい口調での説明だったが、どこか恩着せがましくも聞こえた。


「AIが、AIを開発?」

 オウム返しのように、訊き返した。


 オウムと違ったのは、女の言葉が妙に、胸に引っ掛かった。人間の代わりにAIがAIを開発すれば、確かに技術が劇的に進歩するのは間違いない。だが一方で、進む道を踏み外せば、あのハリウッドのSF映画のような世界が現実のものとなる恐れもある。AIにAIを開発させるのは、あらゆる最悪の事態にリスクを完全に排除し、慎重の上にも慎重を期さなければならない。


 まさかとは思うが。嫌な予感が増してきた。


「はい、そのおかげでテロや戦争、自然破壊も完全になくなりましたよ」

 女が胸を張るようにしながら、今度は誇らしげな顔をして答えてきた。


 だが、その言葉には、どこか影が、裏があるようにも、思える。

 俺の、考えすぎか? そう自分に言い聞かせようとしたが、嫌な予感が押し寄せてきて真っ黒い影が俺の頭を覆った。


 その黒い影の正体を、女が未開に住む現地人や子供にでも1から教育するかのように、社会で起きたことを説明してきた。その説明で一番驚かされたのは、アメリカ、ロシア、中国、そして日本が、世界の全ての国が無くなり世界が一つの国家になった、ということだった。


 だが人類の文明が存続し続けるかぎり、絶対にあり得ない話だ。そんなSF映画の物語のような話は、この眼で直に確かめるまでは、とても信じられる話ではない。

だが、彼女の口振りは、嘘を吐いているようには見えなかった。すると、急に不安を覚えた。眠りにつく前に気になっていた、世界を覆う不穏な動き。


 アメリカと中国、ロシアとの対立の激化。EU諸国ではネオナチの連中がゾンビの群れのように増殖し、そして日本でも民主主義を脅かす差別、排外主義の極右勢力が台頭していた。


 そんな排外主義が、俺が眠っている間にさらに世界中に拡散、蔓延し、まさかあの悪魔の化身、ヒトラーのような独裁者が表れて、今度は世界を征服し支配しているのだろうか?


 俺の胸は強く、ざわつきだした。

 

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