第4話 不穏の始まり

■作者のねらい:この時点では二人とも魔法を知りません。

楽しい雰囲気から一変、後半で不穏な空気をまといます。

自分に自信がなく、居場所が孤児院にしかないシエラにとって、孤児院が全てです。なので、孤児院失う=死 と言う感覚に。ショックで現実を受け入れられません。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユリミエラ

   ユーリ


■シエラの特徴

普段は明るいのですが、出生に劣等感を感じているシエラは第一章では自分に自信がありません。なので、袖を摘んだり、顔を見たり、無意識にユーリを頼ろうとします。


■ユーリの特徴

「ユーリ足遅い」は後の成長と比較するための布石。この時点ではまだ身体的な能力が低く、ユーリの自信がないポイントです。それでも最年長としてみんなの先頭を切ろうとする頑張り屋さん。いじらしさがあります。



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



〇裏山・ショーハの池(夕方)


シエラ(N)『池に落ちそうになったわたしは、誰かに手を引っ張られた。そして、ダンスのようにくるりと一回転してその人の胸に倒れ込む』


シエラ「うわぁっ」


SE 尻もち


ユーリ「いてて……」


シエラ「ユーリ!」


ユーリ「ごめんごめん、ちょっと驚かせようとしただけなんだ。いてて」


シエラ「もー、すっごいびっくりした! 本当にお化けが出と思ったじゃん!」


シエラ「ユーリがペロッと舌を出してごめんねのポーズをとった。いつもは頼りになる兄だが、たまにこのようないたずらをする。わたしは怒りながらも、お化けじゃなかったことに内心ほっとしつつ、灯花を摘み始めた」


ユーリ「うわぁっ!」


シエラ「うわぁぁっ! ……って、驚かせるのはもうやめてよ!」


ユーリ「違う違う、そうじゃない。花が……花が光ってるんだって!」


シエラ「そりゃそうでしょ、灯花なんだから。……って、うわぁっ本当だ! いつもよりピッカピカになってる! 綺麗〜! こんなに光ってるの、初めて見た」


ユーリ「これだけ明るかったらしばらくは持ちそうだな!」


シエラ「そうだね! ……でも、たまにはこの光景を見に来たいなぁ」


ユーリ「おいおい、頼むからもう一人で飛び出さないでくれよ」


シエラ「ふふふ! だって、ユーリってば足遅いんだもん!」


ユーリ「なぁにぃ? 俺は普通だ、お前が速すぎるだけだろっ。それに、本当にお化けが出ても知らないからなっ」


シエラ「おぉ……おばけなんて怖くないもん!」


ユーリ「言ったなぁ? じゃあ教えてやろう。むか〜し昔、この裏山には……」


シエラ「うわぁぁっ、やめてぇぇぇ!」


ユーリ「ははははっ! やっぱり怖いんじゃないか……いてっ、やめろシエラ!」


シエラ(N)『冗談を言いながら慣れた山を下り、孤児院が見えて来た時、いつもと違う雰囲気を感じ取った二人の顔が曇った』


ユーリ「なあ、何か様子が変じゃないか?」


シエラ「ユーリもそう思う?」


ユーリ「うん。おかしな」


シエラ(N)『ほとんどの人は日が暮れる前に家に戻る。それなのに、今日はなぜか村がざわめいていた。わたし達の耳に聞こえてくる物音や怒鳴り声。どうしたんだろうか。いつもと違う様子に、昼間のことを思い出したわたしは体をブルッと震わせた。そして、あたりを睨んでいるユーリの袖をそっとつまむ』


ユーリ「孤児院の方から聞こえてくる。早く戻ろう!」


シエラ「うん!」


SE 走る音


シエラ(N)『二人で山道を駆け降り、孤児院まであと数十メートルのところまで来た時』


SE 草の音


シエラ(N)『何かが勢いよく草をかき分けて来る音で、二人は同時に足を止めた』


シエラ「なんだろう、こっちに走ってくる……!」


シエラ(N)『一気に心臓が高鳴る。背中を冷や汗がつたい、地面に足が貼り付く。危険を感じた時、わたしの持ってる花が二人の居場所を照らしていることに気が付いた。ユーリがとっさに灯花を投げ捨て、そのままわたしを背中に隠すように前に出た』


SE 草から出てくる音


ユーリ「誰だ!」


ユリミエラ「ユーリ……シエラ……」


シエラ「お母……さん?」


SE 倒れる音


シエラ(N)『わたしたちを見つけると、母はその場に崩れ落ちた。髪と服が乱れ、明らかに様子がおかしい。わたしはすぐに駆け寄ってそっと母の肩を抱いた』


シエラ「お母さん、どうしたの⁉︎」


ユリミエラ「ユーリ……急いでここに行きなさい。シエラと一緒に!」


ユーリ「どうしたんだよ、母さん! 一体何があったんだよ!」


ユリミエラ「孤児院が……盗賊に襲われた…………!」


シエラ「やだ、お母さんったら! なに言ってるの? ちゃんと灯花採ってきたよ。帰ってご飯食べようよ」


シエラ(N)『わたしの声は、二人には聞こえていなかった。しかし、必死に母に話しかけているユーリの声も、母の声も、わたしには聞こえてこない。まるで夢の中にいるように、二人が遠くに見えた』


ユーリ「二人で地図の場所に行けって、母さんはどうするんだよ。他の子どもたちはどうなるんだよ! 置いていけるわけないだろ⁉︎ なんだよ盗賊って、獲るものなんて何もないのに!(可能であれば音量を下げてフェードアウト)」


シエラ「……ねえ、ユーリ。大丈夫だよね?」


シエラ(N)『裕福でもないのに、なぜ襲われる理由があるの? 他の子どもたちはどこにいるの? ……わたしの孤児院いばしょは、どうなるの?』

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