第2話 生命の樹

■作者のねらい:普段、村人からシエラがどんな扱いを受けているかを表したシーン。この国に出てくる植物は、ゼフと言う魔法使いの力が宿っており、枯れると色が無くなって白く変色する。また、生命の根源である生命の樹と呼ばれる木も白い。白樺しらかばのような感じ。


■登場人物

   シエラ

   シエラ(N)

   ユーリ

   村の男

   盗賊の親方

   ツンツン頭の子ども(11歳)





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




ユーリ「悲鳴が聞こえたけど、虫でも出たのか……って、おい! お前、なにやってるんだ!」


シエラ(N)『わたしを見つけたユーリは、ただ事ではない状況を察し、手に持っているカゴをひっくり返しながら駆け寄ってきた。収穫した木の実があたりに散乱する』


ユーリ「シエラから離れろよ!」


SE ドンッ


シエラ(N)『ユーリは男の手を払い落として、両手を広げて立ちふさがった』


シエラ「ユーリ……!」


村の男「ふん! 枯れ木を駆除したところで誰も困りはしない。むしろ、村がきれいになったってみんな喜ぶさ。はっはっは!」


ユーリ「でたらめを言うな! シエラは俺の妹だぞ! それ以上ひどいことを言うと、俺が許さないからな!」


村の男「妹だ? そいつは生命の樹から生まれた妖怪だって噂だろ。血がつながっていないのに、何が妹だ。ケッ」


シエラ(N)『吐き捨てるように言うと、男は去っていった。男の背中が見えなくなるとユーリがわたしの手を取り、ちょっとだけ血が出ている手のひらをみて息を吹きかけてくれる。このとき、わたしの心の中の重りが砂利と一緒に飛んで行くのを感じ、こぼれそうな涙をグッとこらえることができた』


ユーリ「大丈夫か? シエラ。もっと早く来ればよかったな、ごめん」


シエラ「ううん……すぐ来てくれたから大丈夫! それより、あんなおっきい男に立ち向かっていくなんて、まるでピンチを助けに来てくれたヒーローみたいだったよ! やっぱりユーリはかっこいいなぁ!」


ユーリ「ヒ、ヒーロー? ははは、そうか? シエラが大丈夫なら良いんだけど」


シエラ(N)『わたしはできるだけ心配をかけないよう、わざと明るく振るまった。本当はわたしも、ユーリみたいに強くなって、孤児院のみんなを守ってあげたい。しかし、こんな目立つ見た目で村をうろちょろすれば、今日みたいに悪意に晒される。いっそのこと、生まれ変わってしまえばいいのに』


シエラ「はぁ、なんでわたしだけ色が白いのかな」


ユーリ「そんなこと気にする必要なんかないよ。母さんも、『シエラは生命の樹から生まれた神様の子どもだ。髪の色が薄いのは、その証だ』って言ってたじゃないか。それに、満月の日だけ葉っぱを茂らせる不思議な木から生まれたなんて、すごいじゃないか! 俺は神秘的で好きだよ」


シエラ「ありがとう……。ユーリがそう言ってくれるから救われるよ」


シエラ(N)『ユーリのおかげで元気が戻ってきたわたしは、エイッと立ち上がって髪の毛を縛りなおし、服の汚れを払った。見落としていた右肩の汚れをユーリがきれいに払ってくれる』


シエラ「よし、これで大丈……ん?」


SE 草の音


シエラ(N)『わたしは何かの気配を察して振り向いた。すると、遠く離れた草むらに、こちらの様子をうかがっているツンツン頭の子どもが見えた。また村の子どもか? 度重なる嫌がらせに思わず身構える』


ユーリ「ん? どうした、シエラ?」


シエラ「あそこに男の子が」


ユーリ「どこだ? 誰もいないぞ?」


シエラ「……あれ?」


シエラ(N)『ユーリに向けた視線を草むらに戻すと、すでに子どもの姿はなくなっていた』


シエラ「……気のせいだったみたい」

 

ユーリ「早く日が暮れる前に、マルベリーマッシュルームを取って帰ろうぜ」


シエラ「そうだね。あと、ユーリが散らかした木の実も集めないとね」


ユーリ「げ! そういえば、全部散らばっちゃったんだったぁぁぁ! いっぱいあったのにぃぃぃ!」


シエラ「あははは! 二人で拾えば魔法みたいにあっという間だよ」


シエラ(N)『ぺちゃくちゃおしゃべりをしながら木の実を拾い集めてるうちに、わたしはツンツン頭の子どものことをすっかり忘れてしまったのだった。その頃、ツンツン頭の子どもは……』




〇村のはずれの小さな酒場


ツンツン頭の子ども「はあ、はあ、はあ、急いで戻らなきゃ、親方に殺される」


SE ドアを開ける


ツンツン頭の子ども「遅く……はあ、はあ、なりました!」


盗賊の親方「おい」


SE グラスを叩きつける


盗賊の親方「3分遅刻だぞ。てめぇぶっ殺されてぇのか。せめていい知らせを持ってきたんだろうな」


ツンツン頭の子ども「……噂の通りです。孤児院に、青白い色の女の子がいました!」


盗賊の親方「やっぱりいたか! おい、てめえら。仕事だ!」


SE 椅子から複数人が立ち上がる音


盗賊の親方「孤児院を襲撃するぞ。ヘッヘッヘ。久しぶりに暴れてやる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る