第18話 嵐の前の静けさ
「よく、見つけたね……蓮くん」
「……俺自身が一番驚いてる」
「この家で間違いないよ。写真からでも、嫌な気配がプンプンする」
帰宅後、俺はすぐにあの老婆の家の写真を御子に見せた。
まさか、本当に突き止められるとは彼女も思っていなかったそうで、かなり驚いている様子だった。
「……薄々、感じてたんだけど。やっぱり、蓮くんもちょっとだけ霊感あると思うよ。“感受性が強い”って言うのかな。そんな感じ」
「お、俺が?」
「うん、私でも見つけられなかった場所をすぐ見つけちゃうんだもん」
俺にも霊感がある──まさか、そんなはずはない。
今まで一度も幽霊なんてものは見たこともないし、感じたこともない。むしろ、以前の俺は幽霊否定論者だった。
いや、でも──もし、その彼女が言った感受性が強いと言ったモノが俺に備わっているなら、一つだけ、心当たりがある。
それは御子を危険と判断出来たことだ。
彼女は普通の人間ではないということを感じ取ることが出来たのは──間違いない。
そう考えると、いくつか思い当たる節が次々と出てくる。
例えば、電車に乗ろうとした時に気分が悪くなり、少し休んでいたら乗るはずだった電車が人身事故に遭ってしまったり、祖父が癌になり、お見舞いに行った時に嫌な気配を感じた時は翌日に祖父が急死してしまった。
これは食べない方がいいと思った食品の賞味期限が切れていたことも。ってこれは関係ないか。
何か、段々説得力が増して来たな。
俺も、本当に霊能力者の仲間だったりするのだろうか。
もしかして──俺がこの呪いをかけられてしまったことにも、関係あるのだろうか。
「とにかく、これで準備は整ったよ。後は……直接、こっちから出向くだけ」
「殴り込み、ってやつか」
「そうそう、蓮くんも分かってきたね」
本当に殴り込みをするとは──半分は冗談だったんだが。
「今日は休んで、明日行こうか。そこで決着を付ける」
「つまり明日には……全てが終わるんだな?」
「うん! そうだよ! 大丈夫、全部私が何とかするから!」
御子は自信満々に、言い放った。
正直、呪いの家とも呼べる場所に攻め入る時の同行者として、ここまで頼れる存在も中々いない。
明日──本当に、全部終わるんだな。俺の悩みが──全て消える。
御子とも、決着を付ける必要があった。
◇
「じゃあ、蓮くん。今日はゆっくり休んでね。おやすみ」
「……あぁ、お休み」
晩飯を済まし、少し早いが、俺達は就寝を取ることにした。
明日に備えて、休眠はしっかり取った方がいいという御子の判断だ。
──言い出す時はこの
「……御子、ちょっといいか」
「どうしたの?」
「あの、この呪いをどうにかしたら……俺達、付き合うって話だったじゃないか。あれ……今でも本気、だよな」
「…………」
明日、全てが終わる。
俺は最終確認をしておきたかったのだ。御子の真意について。
いや、違うか。彼女の気持ちなんて、もうとっくに承知している。
確認をするのは──俺の方だ。
「……そう、だね。最初はそんなこと、言ったね……蓮くん。忘れていいよ。その約束」
意外な一言が発せられ、俺は思わず横になった身体を起き上げる。
御子は壁の方を向いたまま、語り始めた。
「最初は……これがきっかけで、蓮くんが私のことを好きになってくれたらいいな、って。でも……蓮くん、前からずっと、私のこと怖いと思ってたでしょ? 気付かないフリをしてたけど……やっぱり、分かってた」
「…………」
「私の力は……“呪われている”から、蓮くんにとって私は……悪霊と何ら変わりない……そんな私と、無理に付き合うことなんてないよ。私はこの数日間で、蓮くんと一緒に過ごせたことだけでも、一生分の幸せを貰えたから」
そんなことを、彼女はずっと思っていたのか。
俺は──御子の性格を、少し誤解していた。
彼女は独占的で、自己中心的な性格があると思っていたが、決して、他者を思いやる心を持っていないわけじゃない。
少し、主張や行動が激し過ぎるだけだ。それさえ除けば、歳相応の──女の子だ。
俺も、覚悟を決めなくては。
「正直、御子のことが怖いっていうのは今でもちょっと感じてる。でも、この数日間、恐ろしい経験は山ほどあったが、それを乗り越えられたのは……御子、お前のおかげだ。変な話だけど、正直……怖いところもあるが、今はそれ以上に、ちょっとお前が“気になってる”」
バサッ
タオルケットが勢い良く落ちる音がベッドの方から聞こえた。
「れ、蓮くん……?」
「御子。俺から言わせてくれ。もし、明日、無事に終わったら……」
以前、俺は御子の存在を“毒虫”と形容したことがあった。
だが、彼女は虫ではない。人だ。
確かに、少し毒を持っているのは事実かもしれないが──毒というのは少量ずつ摂取すれば、体内に抗体が発生し、身体が慣れてしまうという。
今は身に以て、それが実感出来てしまった。
「俺と──付き合って、くれないか」
「…………っ! う、うん……!」
今まで聞いたことのないような震えた声で、彼女は返事をした。
「……じゃあ、今日はとりあえず早く寝るか。明日に備えてな」
「そ、そうだね……! 改めて、おやすみ!」
そう、明日に、全てが終わるはずだ。万事解決──するはず。
だが、なぜだろうか。
この“胸騒ぎ”は告白をしてしまった直後の心臓の高鳴りだと思いたいが──多分、違う。
俺の感受性というやつはこれ以上にない、嫌な予感が収まらなかった。
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