番外編 子供令嬢様は雑魚寝したい

 ◇◇◇旅の前日 ロム目線◇◇◇


「もうこんな時間なんだね……」


 僕は公爵家の一室にある、壁掛け時計を見る。時刻は午後九時。外は真っ暗だ。

 公爵家での夕食はとても豪華で、魚介類やサラダ、肉料理がずらりと並び。どれも美味しかった。

 今までで初めてのご馳走は、一生忘れられないだろう――バレンとブライダの食欲は、半端なかったが……。

 お風呂は大浴場で、はしゃいだ結果、転んでしまったくらいだ。

 こんなにも有意義な楽しみは、あっという間に過ぎ去り、今はもう寝る時間。みんな二段ベッドで寝る準備をしている。


「時間って早いっすねぇ」

「たしかにそうだね……」

『あ‼ おにいたんみーっけ‼』

「フランネル‼ どうしてここに?」


 勝手に部屋へ入ってきた令嬢様。ここには男性が四人もいるのに、お構いなし。まだまだ子供なんだ。僕は優しく令嬢様の頭を撫でる。

 微笑み返す令嬢様。ぎゅっと抱き締めたくなる。いつの間にか、バレンは床で眠りにつき。レネルとブライダ、フランネルの三人は、ベッドの上でチャンバラごっこ。

 寝ている人がいるのに、騒がしい。騒がしいのに起きないバレン。相変わらず気持ち良さそうだ。

 何の夢を見ているのか。気になるくらいの表情。やっぱり、何を考えているのかわからない。


「ほら、もう寝ようよ。バレンが眠っているから。フランネルも部屋に戻って」

「えぇー。いやだ。アタチも一緒に寝たい」

「お母さんが心配するよ」

「いぃやぁあ……。ロムおにいたんとがいーい」

「で、でも……」

「おにいたんじゃなきゃやーあ。いやぁーあ。いぃやぁーあ……」


 これでは幼稚園児のワガママだ。まだまだ小さい。令嬢とは言えない。本当に生まれ変わりなのか疑いたくなる。

 でも、令嬢は令嬢なんだなぁ。そう思う時もあるかもしれない。いつになるかわからないけど……。


「ねぇねぇ。どうしてバレンおにいたんはベッドで寝てないの?」

「ど、どうして。って……」

「ん? なんか俺に……」

「バレン起きたぁー。遊ぼ遊ぼ‼」

「ちょっ、目が覚め……」


 ――ドスッ‼


 まだ眠そうなバレンに向かって、フランネル令嬢が馬乗りになる。ま、バレンはそれほど不快そうではないが……。

 なぜか、半目。そして、令嬢様は両手をグーにして遊んでいる。


「ア、アハハ…………。バレン。大丈夫?」

「ちょっ、おい‼ やめろって……」

「わぁーい‼ そうだぁ‼ お馬さんごっこしよ‼ バレンおにいたん馬やって‼」

「かか。勝手決めるなっ……」

「お馬さん‼ お馬さん‼ お馬さん‼ お馬さん‼」


(なんか、大変そう……)


 フランネル令嬢は上機嫌。どんな時でも上機嫌だ。一体いつまで遊んでいるのやら。僕も眠気が限界ギリギリ。耐えるのもやっとの状態。

 早く寝たい。今日は武器調達もしたし、よくわからないけど、槍の能力を解放? みたいなこともしたし。

 長距離移動をしていたから、身体がずっしりと重い。街の片隅でしか活動範囲がなかった僕にとっては、小さな大冒険だ。


「もう。いい加減寝ようよ……」

「お馬さん‼ お馬さん‼ やってやってぇぇぇ‼」

「わ、わぁーたって。ロムのことがあるから、少しだけだぞ?」

「やったぁー。お馬さんだ。お馬さんだぁー。バレンおにいたん、はいはいしてぇ‼」

「こうすればいいんだろ?」


 令嬢に言われるがままに、バレンはい四つん這いになる。背中にフランネル令嬢を乗せて、部屋の中を這うバレン。

 約三十分間のロデオ――バレンが馬から闘牛みたい暴れだした――に疲れたフランネル令嬢は、彼の背中で眠ってしまった。

 今ならと、僕は令嬢を部屋に戻そうとしたのだが……。


「……おにいたんと、一緒に……寝たい……。バレンおにいたん……。一緒に寝……。むにゃむにゃ……。うみゅ……」


 寝言が可愛いかったので、バレンに任せることにした。きっと好きだと思うから。夢に従い彼に預ける。

 基本、床で寝る派の彼は、寄り添う形で令嬢の枕代わりに。僕は明かりを消して、ベッドの中へと向かう。

 いよいよ始まる長い旅。フランネルのワガママがこの程度で済んでほしいと。そう願いながら眠りについた。

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