ハッピーエンドから始まるラブストーリー

ハッピーエンドからハッピーエンドへ

「これからも、君と一緒に生きていきたい」

祈るような気持ちで送ったスマホのメッセージに、一瞬で既読が付いた。

「いいよ♡結婚しよう」

笑顔の絵文字が付いた彼女らしいメッセージ。それがうれしくて、愛おしくて、ほっとして……。俺は地面に両膝をついて、人目も気にせずに涙をボロボロとこぼした。

震える指で、スマホの通話ボタンを押す。

「久しぶり」と、彼女がいたずらっぽく電話にでる。

「いま、どこ？」。俺は鼻声のまま、声を振り絞る。

「いまね。親戚のおじさんの家に来てるんだ」と、彼女が言う。

「それ、どこらへん？」

「えっと・・・東中学校の裏の駄菓子屋の近くだよ」

そこは中学生の頃、帰り道に２人で買い食いをして、担任から大目玉をくらった思い出の駄菓子屋だった。

「わかった。今からすぐに行く。１５分ぐらいで着くと思う。電話はつないだままで良いから」

俺は汗と砂埃にまみれたスーツ姿で、道路に駆け出した。

「本当に鎌倉に帰って来たの？」と、彼女が驚く。

「当たり前だろ。メッセージ見ただろ」。走りながら、荒い息で返答する。

「うん。メッセージたくさん送ってくれていたんだね。でも、怒ってる？」と彼女が心配そうに尋ねる。

「そんな訳ないだろ。うれしいんだよ」と、答える。

「この『ずっと好きだった』って、いつからの事？」。彼女は、俺が送った一つ前のメッセージに反応した。

「俺にも分からないよ。高校の終わりかもしれないし、大学卒業の後かも。いや違うな。多分、中学校の時ぐらいかも」

「私も中学校の頃から好きって言ってたじゃん！」と、彼女があきれたように返答する。

「あの時は、自分の気持ちが分からなかったんだよ。今になって、やっと分かったんだ」

「何それ。遅すぎるよ」と、彼女が笑う。

「ねぇ。いつからこっちにいるの？」

「それもメッセージで送っただろ。『いま、どこ？』の時だよ」

「え？１８時間も前のやつじゃん。午前３時のメッセージだよ」と彼女が驚く。

「それじゃあ、名古屋から鎌倉まで車で来た感じ？」

「そうだよ」

「そこから、ずっと探してくれていたの？」と、彼女が申し訳なさそうに言う。

「あぁ。探してた」。走りながら電話していたので、だんだん息が上がってきた。

「私の家、どうなってた？」と、彼女が小さな声でつぶやいた。

ちょうど目の前に、彼女の住んでいた家が見えてきたタイミングだった。走る速度を緩め、歩きながら息を整える。

「今、目の前に着いたところ。もう全部壊れてるよ。家の形も残ってない……」

昨晩、俺はここの瓦礫の中に飛び込んで、彼女を必死に探していた。

「そう･･････。２人でたくさんご飯食べた場所だったのにね」と、彼女が残念そうに言う。

彼女の家は、鎌倉で人気の定食屋だった。俺の家は両親が共働きで、小さい頃から夕飯はいつも定食屋の端の席で、彼女と並んで食べていた。

俺が自分の気持ちに気づけなかったのは、きっと幼少期の「幼なじみ」の感覚が抜けなかったせいなんだと思う。

「お父さんとお母さんは無事か？」

「うん。私と一緒に少し早めに避難したから。誰もケガしていないよ」と、彼女が答える。

「そうか。良かった」

「いま、三角公園ぐらい？」と、今度は彼女が尋ねてきた。

「そうだな。もう少しで公園が見えるところだよ」

「ふふっ。私を初めてフッた思い出の場所だ」と、彼女がちゃかすように言う。

入り口に植えられていた大きな桜の木は、根をむき出しにして横たわっていた。これも昨日の深夜の隕石群の影響だろう。

思い出の場所や大事な物、そして大切な人。人はいつも失う時になって、ようやく気づく。

「おーい！」。スマホから響く大声と重なるように、彼女の肉声が道の先から聞こえてきた。

徐々に暗がりの中に、人影がはっきりと見え始める。

彼女に会うのは５年ぶりだった。

髪は肩まで伸びて、少し日焼けした肌が白のワンピース姿によく似合っていた。

「えっ！？手、ケガしてるじゃん！大丈夫？」と、彼女が心配そうに聞いてくる。

「大丈夫。汚れたくないなら俺に触るなよ」と、ふざけて返す。

その言葉には返事をせず、彼女は抱きついてきた。

俺も、ぎゅっと彼女を抱きしめた。

「これからも、君と一緒に生きていきたい」。俺が送ったメッセージと同じ言葉を彼女が声にした。

電力が途絶えた街は、深い暗闇に包まれていた。

少しキスをした後、２人で夜空を見上げた。見たこともない満天の星が広がっていた。