第三章 卑弥呼
龍神様と神龍さん
数年後の春
♬ ジェットアフターバーナー音
夏 仲尾台中学校3年生 りん 立野小学校4年生
姉妹は横浜市中区の根岸森林公園にきています。
芝生広場に寝っころがり青空を見上げる夏は今日も飛行機の観察をしているようです
夏のとなりで同じように大の字に寝っころがっているりんは空をながめながら物思いにふけっていました。
「洞窟はどこにあったのかなあ?あのことがあってから何度か森林公園に来てみたけどそれらしき洞窟は見当たらないし・・・
平和なクニができたことはゆきが鏡で知らせてくれたんだけど・・・」
りんはまぶしい青空に目を細めながら夏に小声で尋ねました。
「ねえちゃん 間違いじゃないよね ふたりで弥生のクニに行ったこと。この森林公園の森の洞窟から行ったよね」
飛行機の観察をしているようにみえた夏も実は同じことを考えていたようです。
「うん あのことは今も考えていたよ。間違いじゃないよ 夢なんかじゃない。でもだれも信じてくれないね。おかあさんでさえ未だに半信半疑だもんね。ここの森の洞窟を探してまた弥生のクニに行ってみようかとも思ったけどその洞窟も見当たらないし。元町公園の出口の洞窟も見当たらないし」
「ねえちゃん 元町公園にも行ったの?」
「うん、部活でテニスコートに行ったとき一人で斜面に入って探したけどわかんなかった。不思議なことだね」
二人の会話はそこで途切れ、しばらくそのまま広場に寝っころがっていましたがポカポカ陽気の芝生広場でいつのまにかお昼寝をしてしまったようです。
「あら!こんなところで大の字になって眠ってるよ!」
二人を探しに来たおかあさんもすっかり寝入っているふたりを見つけて呆れ顔です。
春休みになるといつものように家族は岡山県の真庭市に帰ってきました。
吉念寺の丘の雄大な大桜は五分咲きです。
「おかあさん 私たちおじいちゃんのお墓に行ってるからね」
午後、田舎の家に着くや否や二人は早速、丘に向かいました。
「わたしも後からお線香とか持って上がるから菜の花畑のお花摘んでお墓に持って行ってね。掃除や草取りもお願いね」
「は~い」
♬ めぐる季節 (魔女の宅急便 ピアノ)
二人は畑で満開の菜の花を摘みとると水の入ったやかんを持ち丘を目指します。
咲き始めた丘の大桜の枝先がピンク色に染まっています。
「おじいちゃん また来たよ~ お天気良いし大桜がきれいだね~菜の花も摘んできたよ」
お墓に眠るおじいちゃんに話しかけた二人はお墓を水で清めて花入れに花を挿すと少し伸び始めてきた草を取り始めました。
「おお!ようきたね~」
近くの畑で鍬を打つ近所のおじいちゃんから声がかかりました。
この村の生き字引といわれる人で今は大桜の桜守りをしているおじいちゃんです。
「こんにちは ことしも大桜を見にきました。よろしくお願いします」
「ああ ことしも大桜がよう咲いたよ ゆっくり見ていきんさいな」
おじいちゃんはしばし手を止めると汗を拭き拭き大桜を見上げてそう言いました。
村人たちはこの弥生桜を大桜と呼んで先祖代々大切にしているのです。
そのうちおかあさんも丘に上がってきました。三人はロウソクとお線香を供えてお墓に手を合わせました。
「ゆきの大桜ね。もうじき満開ね」
おかあさんも青空に広がる雄大な桜を見上げて微笑みます。
「美しい桜の花を見て不機嫌になる人っていないね。皆んな笑顔になるね。平和のシンボルって言うけどその通りだな」
夏はそう思いました。
「おかあさん 先に帰っていいよ。私たちはもう少しここにいるからさあ」
「じゃあ私は帰って夕ご飯の支度してるからね」
おかあさんはしばらく桜を眺めていましたがおじいちゃんのお墓に一礼すると丘を下っていきました。
「りん 龍神さまの祠に行ってみようか?」
「うん」
二人は大桜の向こう側の龍神さまの祠に行ってみることにしました。
向こう側といっても大桜の幹下なのですが何しろ直径3mはある巨大な桜なものですから。
そしてそのピンクの枝先は祠までも覆いつくし、まるでふところで優しく抱(いだ)かれているかのようです。
♬ イマジン
「神龍さんはあれからどうしたのかな?弥生のクニに帰ったのかな?連絡取れないからわかんないね。ゆきはどうしてるかな?でも千八百年も前のことだから二人とも亡くなっているよね」
歩きながらりんがつぶやきました。
「そうだね」
夏もそう答えるしかありません。
「それにしてもこの弥生の大桜は凄いね。千八百年も生き続けているなんて・・・千八百年だよ!りん、数えられる?千八百」
「多分無理だと思うけど・・・ じゃあ、ねえちゃんできる?」
「私も無理かもね きっと眠くなるわ はははっ」
おしゃべりしながら太い幹の向こう側に回り込むとすぐに桜の花で覆いつくされた小さな祠の前に着きました。
「たくさんお花の付いた太い枝はゴツゴツしてておじいちゃんの手にそっくりだわ。それにこの祠、まるでおじいちゃんの大桜に守られているようだね」
りんが頭上に覆いかぶさる桜の枝を見上げてつぶやきました。
「でもこの桜が今でも元気なわけはね。 私たちのご先祖様が千八百年もの間 ご神木として大切に守ってきてくれたお蔭なんだよ。これからも大事にしていかなきゃあね。・・・でも太い枝が枯れているところもあるから少し心配だね」
夏は枯れて折れている枝があるこの大桜のことが気がかりのようです。
「あのゆきの鏡はちゃんとあるかな?」
祠に向かって手を合わせた二人はそ~とその小さな扉を開けてみました。
♬ ぎぎーっ
祠の中央には龍をかたどった龍神さまの像が、そしてその横に
「あった!」
鏡は以前のまま片隅に立てかけられていました。
りんは大切なものを取り扱うように両手でそっと取り出します。
「すこし埃っぽくなってるね。拭いてあげなきゃあ」
りんはポケットからハンカチを取り出すと鏡を丁寧に磨き始めました。
「りんのハンカチじゃあ少し問題があるな」
夏はそう思いましたがだまって見守っています。
しばらくすると鏡はりんのハンカチですっかり輝きを取り戻しました。
「この祠には龍神さまが祀ってあるっていうけどきっとあの神龍さんのことだよね。龍神さまって逆さ読みしたら神龍さんだもんね」
その言葉に夏がぴくっと反応しました。
「りんはたまにびっくりするようなこと言うね。確かに逆さ読みすると神龍さんだね。私気付かなかった」
「神龍さんはおじいちゃんの大桜とこの村を守ってるんだよね。でも長いこと会ってないな~死んじゃったのかなあ?でも村と桜を守ってるんなら死んでないってことだよね?でもこの村ではだれも神龍さんの姿見たことないらしいよ。恥ずかしがり屋で人前には姿現さないからね・・・ゆきが呪文みたいなもの唱えてたけどあの時教えてもらっとけばよかったね。今となってはそれもできないけど」
そう言いながらりんは鏡に自分の顔を写してみました。
「へへっ 少しはおねえさんになったかな?おかあさんに似てきたかな?」
片耳のピアスに手を添えてポーズをとり、嬉しそうに鏡を見るりんでした。
その時、りんは気づきませんでしたが遠くで雷鳴がしました。
♬ どど~ん 雷鳴
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