第2話 怪異としてしか生きられない

 コロナ過により、業種によってその明暗はわかれた……

 飲食業界は緊急事態宣言により、アルコールの提供をやめるように要請がでたり、営業時短の短縮を求められ『もろ』に影響を受ける一方。

 ケンタッキーなどはテイクアウトの流れにのり、もうきっと経営者はウッハウハだと思う。


 道には、高速で走り抜ける『Uber Eats』と書かれたでかい鞄を背負った人を頻繁に見かけるようになった一方で。

 巷では、テレワークなる。家で仕事をすることで、エンカウント系の怪異に大打撃を与えている。



 そして、あまたの怪異の中で今回のコロナウィルスでの打撃を一番受けたのはこの私。

 マスクがトレードマークの――――口裂け女なのでございました。



 トイレでおなじみの花子ともこの前会ったんだけど、あっちも学校が休校になって、死ぬかも……とか言ってたけれど。大丈夫かしら……

 トイレ指定で受け取りにしてUber Eatsでピザでも頼んで女子会ができたらよかったんだけど。

 怪異ゆえに、物を頼んでも電波障害や怪異ゆえに会おうと思っても会えるものではないらしく……まともに届くことが少ない。

 配達員を霊感が強いタイプとか選べたら確実に届くから女子会ができるんだけど。



 さてさて、人の心配をしている場合ではなかった。




 武蔵野は口裂け女の怪異がはびこる前から、雄大な自然が残る土地だ。

 開けた土地とは違い、自然が残る土地というものは道沿いならともかく、ちょっと森の中へと足を踏み入れると灯りのない私にとって好都合な闇の世界が広がっているのだけれど。



 お前のせいだよ、チームラボ……!



 私は森の中に並ぶ色が変わる大きな卵に大きな戸惑いを隠せなかった。


 しかも、夜になると卵たちは光り輝き色をかえ、柔らかく木々を照らす。

 もうね完全に世界観がファンタジーになっちゃっている。



 コロナ過に追い打ちをかけるように、怪異の存在を殺しに来ているとしか思えないわ。

 そんな自分にとって致命的な灯りにも関わらず私はうっとりと眺めた。

 まじかで見る移り変わる闇夜を照らす光が私にとって新鮮だった。




 世界はこうして変わっていくのだ。

 ここ武蔵野を我が物顔で歩いていた、武士たちは戦に敗れれば落ち武者の霊になり唯一変わらぬ月夜を眺め、そして自分が霊として消えゆくときを待ち。時が来て、今は次々と消えていった。




 幻想的な光景をぼんやりといつまでもいつまでも眺め続けた。

 もう、マスクをつけている女と夜道に遭遇しても恐怖を見せる人は誰もいない。

 私は景色の一部となったのだ。



 その時だ。灯りが消えた。

 どうやら一晩中森を照らすものではなく閉園となったようだ。



 私も潮時が近いのだろうか。やることは無くなり、落ち武者のように何かをぼんやりと眺めて消えるときを待つのだろうか……




 森の中で行き場など他にない私がたたずんでいると、スマホのライトが私を照らし若い男が私に話しかけてきた。

「お姉さんも出そびれたんですか? なんか消える前にアナウンスがあるはずですけど。なんかこの辺スピーカー壊れてたのか聞こえませんでしたよね?」



 スピーカーが壊れたのではない。私が怪異であるからその影響が近辺に出たのだろう。

「お姉さん? ちょっとなんか言ってくださいよ。怖いじゃないですか~」

 灯りが手元のスマホのライトだけであり、目の前の男は周りが灯りもろくにない森ということもあり恐怖を感じているようで声が少々震える。



「ねぇ……」

「はい?」

 私はもう何度言ったかわからないセリフを目の前の少々雰囲気に怯えている男性に問いかけた。

「私、綺麗?」

「へっ? 綺麗っすよ。って俺ナンパで声かけたんじゃないですから」

「ありがとう……」


 消える前に存分に今の人生……都市伝説生を楽しんでやろうと思った。

 いろんなものを食べたし。金を出し人々が集まる場所へも足を運んだ。

 でも、私の心が満ち足りることはなかった。



 そんな私の心は今満ち足りていた。

 ゆっくりとマスクに手をかけて、目の前の男にもったいつけるかのように見せつけた。

「これでもぉぉぉおおおおお?」

 男の絶叫が森の中に木霊し、何事かと森に灯りが再び灯る。

 そんな中私の裂けた口角は満足そうに上がって。

 景色の中に溶け込むようにして消えた。



 あぁ、私にとって生きがいとは、私が存在する意義とは……





――――結局人を驚かせることしかないらしい。





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口裂け女のたわごと 四宮あか @xoxo817

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