45.マサラ

「し、師匠なのですか?」


「見た目が変わったくらいで師かどうかもわからぬようになるとは情けないやつだ。

 俺は妖刀時雨こいつと同調することで、全盛期の肉体に戻ることができる、まぁわずかな間ではあるがな」


 全盛期の肉体を取り戻したマサラは、風の結界の中で舞を続けるラースを睨みつけた。


「急に私好みあたしごのみのイケメンさんになられたのですね、ドキドキしてしまいますわ。

 いい男を拝ませてもらったお礼に、こちらも気合の入った舞を見せて差し上げましょうか」


 若々しいマサラの姿を見たラースの舞は、先ほどより妖艶さを増していた。


「時間もないし、さっさとやるとするか」


 そんな変化にまったく興味もなさそうなマサラ。

ゆっくりと風の結界の前まで歩み寄ると、一歩大きく踏み込むとともに静かに刀を抜き放った。

その斬撃は形を持たないはずの風の結界をいとも容易く切り裂いた。

そしてラースの足元に何かが落下した。


「さすがですね……」


 ラースの舞が止まり、その足下には真っ二つに切断されたヴァナが落ちていた。


「まだやるかい、お嬢さん」


 片膝をついて丁寧にヴァナを拾うと、艶やかあでやかな流し目をマサラに向けた。


「そうですわね、このまま舞を踊ってたたかっていても勝ち目があるとは思えないですよね。

 いっそ、お強いあなたに甘えてしまうのも魅力的ですわね」


 囁くようにそう言ったラースは、拾い上げたヴァナを不意に投げつけ、そしてそのまま殴りかかった。


「だけど!

 さすがにフェリさまを裏切ることだけはできないのよ!!」


 投降する素振りを見せながらの強襲も、マサラの隙をつくことはできなかった。

その動きを予見していたかの如く、マサラは残念な表情を浮かべながら、ラースが全力で放った拳をかわし、みぞおちに強烈な一撃をたたき込んだ。


「見上げた忠誠心だな。

 しばらく目を覚まさないだろうし、そのまま全てが終わるまでそこで横になっていてくれ」


 マサラはラースをそのあたりに転がすと、アイオンのほうを向いた。


「何をぼさっとしている、そろそろ全てを終わらせにゆくぞ、馬鹿弟子よ」


「はい、師匠!!」


 アイオンはマサラに連れられる形で、帝城の中へと向かう。

魔王フェリシアと堕ちた英雄クラウスが待っているであろう謁見の間へと向けて。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 ファルミナ、メラゾフィス、バルト、ラース。

謁見の間には、フェリシアの魔術にて4人の戦闘が映し出されていた。

フェリシアはクラウスと共に、自分に忠誠を誓う4人の闘いを静かに眺めていた。


「あいつら……

 よくもファルミナたちを……

 絶対に許さない!!」


 静かな様子でみていたフェリシアとは対照的にクラウスは激怒していた。

今にも飛び出していきそうなほどの剣幕であったが、フェリシアに腕を掴まれており、動けずにいた。


「落ち着くのじゃ、お前さんよ。

 あやつらのために怒ってくれているのは嬉しいのじゃが……

 ここは我慢して最後までしっかりと見てやって欲しいのじゃ」


 フェリシアはクラウスが怒ってくれていることを嬉しく思いつつも、4人が自分の筋とプライドを通そうとしている姿を、最後まで一緒に見届けて欲しかったのである。

口調はとても冷静なものではあったが、自分を掴むその手が震えていることに気が付き、冷静さを取り戻した。


「わかったよ、すまない。

 本来なら俺よりフェリシアのほうが冷静でいられないはずなのにな」


「まったくじゃよ。

 隣でそのように怒っておっては、わらわは怒るに怒れぬのじゃぞ」


 揶揄うからかうような笑顔でそう答えるフェリシア。

クラウスは、自分の感情を抑えつけるような気丈な振舞いを見せるフェリシアのことが愛おしくてたまらなくなり、そのまま肩を抱きよせ、頭を撫でた。

そして、映し出されていた戦闘は終わろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る