閑話02.失意のアイオン②

 アイオンは茫然ぼうぜんとしていた。

自分を無下むげにに扱い、門前払いをしようとしていた刀匠マサラが急に態度を変えたからだ。

家の中に入ってゆくマサラを見送ったところでアイオンはハッと我に返る。


「は、はい!

 今、行きます!!!」


 急いでマサラの家に入るアイオンは、その独特な内装に目を奪われた。

土の玄関を抜けると、独特な香りのする草のようなものでできた床の部屋があった。


「早くこっちにこい。

 靴はその土間どまで脱ぐようにな」


 土間とはどこなのだ?と思ったアイオンであったが、土の玄関にマサラの靴が置かれていたので、そこに脱いで部屋へと入った。

アイオンがマサラの前まで歩み寄った時、マサラの隣にある【刀】が再び妖しい光を放った。


「マサラ殿……

 その妖しい光を放っている見慣れぬ形状の剣? は何なのでしょうか?」


「これは剣などではない。

 これは刀という。

 ワシに刀を打たせたくて来たのではないのか?」


「これが話に聞いた【刀】というものなのですね!!

 なんというか……

 禍々しさまがまがしさを感じますね……」


「こいつは特別だ、禍々しさを感じ取れはするのだな

 普通の刀はそっちの壁にかけてあるようなものだ」


 マサラが指差す先には、一本の刀が壁に掛けられていた。

その刀からは確かに禍々しいものを感じることはなかった。


「こいつは、妖刀【時雨】。

 刀自身が意思を持ち、興味を持つとこうやって妖しい光を放ちやがるんだよ」


「俺がその刀に興味を持ってもらえたと……」


「そのようだな」


 アイオンは刀に興味を持たれるということに若干困惑しつつも、マサラと話せる機会を得たことに感謝した。

そして、ここまで来た経緯から話し始めた。


 王都の鍛冶屋たちから刀という武器をつくれる刀匠の噂を聞いたあと、ここまで来たことを説明した。

刀というものがどのようなものか、そしてその刀を作る刀匠マサラがなぜ隠居しているのかに興味を持ったからだ。


「刀とは剣とは全く違った方法で作る武器のことだ。

 剣より薄いやいばを持っており、耐久性は劣るものの、しなやかさと切れ味なら刀の方が勝る」


「使いこなすのが難しいが、使いこなせれば剣よりも優れた武器…… ということですか?」


「優れているかどうかではないな。

 どういう闘い方をして、どういう武器を好むのか…… だけだ。

 【時雨】が興味を示したから少しは期待してみたが、その程度か」


 マサラはアイオンの答えに失望したことを隠そうともしなかった。

しかしそのことはアイオンの気分を害するどころか、マサラへの興味を一層搔き立てた。


「そんな考え方をしたことなかったです!

 是非、色々と教えてください!!」


 アイオンは聖剣せいけんアークを顕現させて、マサラに見せた。


「俺は女神さまよりこの聖剣を賜りました。

 しかしまったく使いこなせていません。

 俺に武器を扱うということをご指導くださいませんか!!!」


 マサラの視線は聖剣せいけんアークに釘付けになっていた。


「女神さまの聖剣……

 これほどの武器は見たことないな。

 しかし、どれほどの業物わざものも使い手が貧弱であればただのなまくらだ。

 ぼうず、外にでろ!

 ワシが手ほどきしてやる」

 

 マサラはそう言って席を立った。


「マサラ殿!?

 剣や刀を扱えるのですか!?」


「刀匠を舐めるな、自分が作った刀を扱えないなど刀匠失格だ。

 ぼうず如きでは稽古の相手にもならんわ!」


 マサラのこの言葉にイラっとしたアイオン。

見返す気満々で挑んだアイオンであったが、手も足も出ず、ただ地面に転がされるだけであった。


「神より賜った剣を扱うというから期待したが、まるで話にならんな」


「うそだろ、こんな爺さんに一撃すら当たらないのか……」


「お前の事情なぞ知らん。

 だが刀匠として剣が泣いている状況を見過ごすわけにはいかん。

 仕方ない、その聖剣のために少しお前を鍛えてやる。

 聖剣に恥ずかしくない程度になるまで帰れると思うなよ!」


 こうして、マサラによるアイオンの剣術の特訓が始まった。

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