閑話01.失意のアイオン

 クラウスとフェリシアがガイア砦を通過した頃、アイオンたちはレムリアたちに連れられて王都へ帰還していた。


「クラウスがあそこまで思い詰めていたことに気が付けなかったなんて……」


「悩んでいるのはわかっていたんだけどね、あそこまで思い詰めていたとはボクも思っていなかったよ」


 クラウスが自分達と決別したことによるショックから、アイオンたちは立ち直れずにいた。

そして、王都までの帰路の間、二人はクラウスの気持ちを理解できなかった自分を責め続けていた。


「はぁ、そこまで自分を責めても仕方ないだろ。

 今から陛下に謁見となる、その場ではしっかりしてくれよ」


 二人の落胆ぶりに呆れていたレムリアが声をかけた。

国王陛下との謁見に挑む精神状態ではないことは理解しながら。


「よくぞ戻った、アイオンとファウストよ。

 レムリアより良くない状況であるとは聞いておるので、人払いはしておいた。

 一体、あの地で何があったのじゃ?」


 ルイン王に促されたうながされたアイオンは、ゆっくりとした口調でサ・イハテノ村で起きた出来事を話し始めた。


「まさかあのクラウスが人族を裏切って魔王と手を組むとは……

 しかも人族を滅ぼすつもりと言ったのか?」


「はい、そしてボクたちは一戦交えまじえましたが、全く歯が立ちませんでした……」


「ふむ……

 このタイミングで動きを始めた魔王、伝承にある文明崩壊は魔王とクラウスによってもたらさせるということなのかもしれぬな」


「俺たちの旅の目的は、魔王とクラウスを倒すこと…… ということですか?」


「状況から見て、そう考えるのが妥当であると、ワシは思うのじゃ。

 シトラス王国の国王として、勇者アイオンと大魔術師ファウストの両名に命じる。

 魔王フェリシアと堕ちた英雄クラウスを討伐せよ!」


「「!!」」


 突然なされたルイン王からのフェリシアとクラウスの討伐命令にアイオンたちは動揺した。

二人に家族同然に育ってきた親友を討つ覚悟はなかった。


「とは言えじゃ、今はまだ力不足のようじゃからな。

 アイオンとファウストは各々おのおのより腕を磨くように!

 レムリアは王国騎士団の強化を徹底し、魔王軍の相手をするのじゃ!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 その日以降、ファウストは魔術の研究のためと言って、一人で王立図書館に籠るようになった。

そして、一人でいることが多くなったアイオンは王都内の鍛冶屋を巡ることが多くなっていた。


「勇者さま、あの噂を聞いたことありますか?」


「噂??」


 アイオンに声をかけた鍛冶師によると、この世界でただ一人『刀』という特殊な武器を作れる刀匠とうしょうが存在しているらしい。

そして、その刀匠は世の中のしがらみなどを嫌って、王国北部の山脈に隠れ住んでいるらしいという噂であった。


 刀という武器や刀匠の存在に興味をもったアイオンは、彼に会いにいくことにした。

王国北部の山脈は、うっすらと雪に覆われた地であったが、人が生活している痕跡こんせきは比較的容易に見つけられた。

山の中腹部ちゅうふくぶに位置する川沿いに一軒の家が建っており、家の前には鍛冶場のような場所があった。


「ここが噂の刀匠の家か?」


 アイオンが家の前で佇んでたたずんでいると、ふと後ろから声をかけられた。


「なにものだ、ワシに何かようでもあるのか?」


 殺意すら籠っていそうな鋭い視線に睨まれるアイオン。

敵対の意思はなく、王都で刀匠の噂を聞いて会いにきたと伝えた。


「帰れ、ワシは誰とも接したくない」


 見た目は普通の老人である刀匠からすべてを拒む強い意志を感じとったアイオンであったが、そこで怯むひるむわけにはいかなかった。


「お話だけでも聞かせてください!

 せ、せめてお名前だけでも!!」


「……マサラだ」


 アイオンの真剣な眼差しに老人は名乗りはしたが、もう話すことはないというかの如く、無言のまま家へと向かう。


「マサラ殿!

 また明日も来ます!!

 お話させてもらえるまで毎日きますね!!」


 アイオンの言葉に反応を示さないマサラが無言のまま家に入ろうとしたとき、マサラの腰元が妖しいあやしい光を放った。


「ほぉ、こやつが認めたか。

 面白い……

 ぼうず、こっちにこい!」


 マサラはアイオンに家の中まで来るように伝えると、そのまま中へと入っていった。

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