06、休暇明けの初任務

 さて、そんな昼下がりの午後。ルバーグに呼び出されたエシルバは船内のサロンに訪れた。彼は丸窓の縁にもたれかかって横に流れる雲の行方を目で追っていた。


「あの」と声を掛けるとルバーグは立ち上がった。


「君に朗報だぞ。エシルバ、休暇が明けたら初の任務だ」


「任務、それはつまり……」


 エシルバは彼のひと筆書きしたような眉をじっと見つめた。


「内務ではなく外務の方だ」


 エシルバは両手で口をおさえて叫んだ。「やった!」


「使節団員は外務と内務をこなせてこそ一人前に近づく。君は今年から二年目ということで師のジグや他団員と共に外務を経験しておくべきだ。あいにく同行予定のシィーダーの弟子、ジュビオレノークは家族の都合があって同行できないらしい」


 それは朗報だ! とエシルバは終始にこにこして話を聞いていた。つまる話、内務に飽き飽きしていたのだ。だけど、なにしろ経験がないので喜びはすぐ疑問に変わった。


「外務って何をするんですか?」


「これだ」


 そう言うと、ルバーグは通信機器のゴイヤ=テブロで3Dホログラムの電子資料を見せてくれた。エシルバはそれを空中で受け取ってスクロールしながら目を通した。


【トロレル国際博覧会への派遣(重要)】


 博覧会だなんて聞いただけでワクワクする催しだが、まさかこれに任務で参加できるというのだろうか? エシルバはそんな期待を込めてルバーグを見返した。


「アマクの女王は現在昇降機「マンホベータⅡ」の新しい技術をアマクに導入したいとお考えだ。マンホベータはトロレルが最初に開発した国重要技術。その輸入には国同士の交渉が不可欠だ。そこで、政府は使節団をトロレルに派遣し博覧会での視察を命令したというわけだ」


 エシルバは資料の〈博覧会場図〉を見ながら頷いた。

会場はトロレルのシクワ=ロゲン本部、砂宮城の敷地内だ。資料の企業一覧を見る限り、博覧会にはアマクの有名商社も参加しているようだ。


「エシルバ、博覧会にわれわれが参加する意義とは?」


 いきなり質問がとんできた。


「分かりません」エシルバは言った。


「少しは考えなさい。世界各国から有名な企業が集まる博覧会に参加することは、国際社会において他国の理解を深める絶好の機会となる。使節団は国の代表であることを忘れてはいけない」


 ルバーグはさらに続けた。


「わが国が有する最先端技術が地球規模の課題に対して、どのように貢献できるのかを発信していく機会でもある。アマクの魅力を発信することにより、世界各国への貿易投資促進や、関連産業への相互連携の発展に寄与する」


 なんだか難しい話だなぁ、と思いながらエシルバは聞いていた。


 エシルバはその後、船内で与えられた自室に戻った。通信機器ゴイヤ=テブロのメッセージに新着が入っていたので確認すると、ポリンチェロだった。


【こんにちは! 長期休暇は楽しめている? 私は今ブルワスタックの実家にいて、おじいちゃんたちと過ごしています。色々大変なことがあって、迷惑もかけたけど、本当にあなたには感謝しているわ。ところで、オレンジカップを見たんだけど、リフが大活躍だったわね。とにかく彼が無事で良かった。そういえば、去年一緒に撮った写真を送ります。また会いましょう、よい休暇を】


 添付された写真には、歓迎パーティで笑顔を見せるエシルバたちが写っていた。エシルバは

【よく撮れているね、良い休暇を!】と返信した。


 そんな感じでカヒィやダント、アーガネルにもメッセージを返信した。このメールというのが思いのほか面白かったので、エシルバは文末に付ける絵文字選びにもこだわった。

 そう言えばブルウンドからメッセージが来ない。そこで、エシルバは屋敷では元気にしているのかをメッセージに記しながら、変顔をした自撮り写真を一枚撮って送った。完全なおふざけだったが、どんな反応が来るのか楽しみに待つこととしよう。


 エシルバが何百ページもあるシクワ=ロゲン規則を眠たそうに読んでいると、誰かがドアをたたいた。


「はい」


 ドアを開けても誰もいない。エシルバは首をかしげてドアを閉めた。


「あの!」という声が同時に聞こえたので、エシルバはもう一度開けた。やっぱり誰もいない。


「誰なの?」

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