04、パルメンの行方
部屋の中は女の子が好みそうなかわいらしい色のカーテンや家具があり、さっきまで誰かが遊んでいたような気配すらある。そっとドアを閉めて部屋に戻って待っていると、リフがお菓子とジュースを盆に載せて戻ってきた。
「ねぇ、リフには他に兄妹とかいるの?」
「どうして?」
「さっき物音がしたから見にいったら、女の子っぽい部屋が見えて」
「黒ネコのシンパだよ、うちで飼ってるねこさ。うん、まぁ……君にはまだ言っていなかったけど、実は妹がいるんだ。びっくりしたよ! 君ってば相変わらず鋭いんだから」
「びっくりは僕の方だよ。いるなら言ってくれればよかったのに」
「ウン――妹がいる。何度も言おうか迷ったよ。でも、なかなか言えなかったんだ。君たちを信用していないとかじゃなくて、話せばきっと心配するだろうから」
リフは少しさみしそうに言った。
「リフ? なにがあったの?」エシルバは話し掛けた。
「ほら、やっぱり」
「そりゃあするさ! 親友じゃないか。それにリフ、君がどんなことを言っても僕は受け止めるよ。なにか悩んでいることがあったんなら、いつでも僕に言ってよ」
「えぇと」リフは煮え切らない様子で言葉を詰まらせた。
「パルメンって言うんだ。今、家にいない。僕が昔ここに住んでいた時、ある日突然姿を消した。家が火事になって……って、俺はなにを言ってるんだろう。君にこんな重たい話なんてして」
リフはエシルバが真剣に聞いている姿勢を見て、笑ってごまかすのをやめた。
「それ以来、犯人も捕まらなくて。捜索も打ち切られた。俺はその日、ロラッチャーの整備をしに出掛けた。僕がいない間に事件は起こったんだ。どうしてパルメンだけを狙ったんだろう。俺やロウでもよかったはずなのに」
「つらいね」
「もう、後悔だよ。自分のことばかりで、妹には構わず外にばかり出掛けていたんだ。もう少し目を掛けてやればこうならなかったのかもしれないって」
「犯人は? 誰も見なかったの?」
「うん。だから動機も分からない。お金だって一ロクも要求されなかったんだ。あの日からすっかり変わってしまったよ。ロウだって、昔は学校にも通って学年トップの成績で町の人気者だった。
だけど、重度のやけどで死にかけてから、妹の話も一切しなくなった。それでも父さんはバラバラになっていく家族を必至につなぎとめようとしてくれた。
だけど母さんは、すっかり気が触れてしまったんだ。なにをしても駄目だった。母さんは僕らさえ拒絶して、妹が帰ってくることだけを願っている。両親の離婚も、これが原因だったんだ」
エシルバは聞き終えてから心にポッカリと穴が開いてしまった気がした。彼の心の痛みが、話を通して伝わってきた。
「でも……パルメンは必ずどこかで生きている。俺はそう信じてる。これを見てよ、去年リニューアルしたサイトなんだけど」
リフはゴイヤ=テブロで【パルメン|イルヴィッチ 捜しています】という少女の顔写真が載ったサイトを見せてくれた。
「よくできているよ、リフ! すごい、これ全部自分で作ったの?」
「うん。いろいろアドバイスを受けながらだけど」
リフは照れ臭そうに言った。
「きっと見つかるよ。僕が手を打つさ」
「君が?」リフはキョトンとした。
「具体的には、僕の知名度を使ってもっと世界中にアピールするんだ。そうだよ、こんな時くらいしか僕の知名度なんて役に立たない。でも、そうすることできっと有力な情報が寄せられるはずさ!」
「ありがとう」リフは感無量といった感じでほほ笑んだ。「でも君は捜査局の役立たなさに気付いてないよ。本当に動いてくれないんだ」
「彼らが動かないのなら、僕らで動こう。それに、役人のつてをフル活用すればうまくいくはずさ。もしパルメンが見つかって犯人もお縄になれば、捜査局の動かなさを世間に知らしめるいい機会になるかも」
リフはやる気にみなぎるエシルバに気圧されていたが、やがて勇気をもらったのかいつもの陽気な声色になって言った。
「君に打ち明けてよかった。なんだかモヤモヤしてたものがすっかり吹き飛んだよ。君はやっぱり頼りになる男だ」
その後、エシルバは出発するまでリフと盛大に妹捜索計画を練った。リフが当初行っていたプランは「ネットによる捜索掲示板による情報呼び掛け」「捜査局に対するメールでの再捜索依頼」「父親や親戚に頼んでの呼び掛け」この三点だった。
そこでエシルバが提案したプランは「再捜索要請の大々的な署名活動」「役人のつてによる情報拡散」「サイトの文面だけでなく動画による呼び掛けも検討する」の三つだった。これらを総合的に鑑みた結果、署名活動を続けつつとにかくつて探しに奔走することをメインとした。
「俺たちは確かに役人だけど、すべてのお偉いさんと仲良しなわけじゃない。グリニアも忙しそうだし、俺たち平役員の願いなんてろくに聞いてくれないよ」
「そういえば、ウリーンのお父さんって捜査局の関係者じゃなかった?」
突然リフが思い出したように飛び跳ね、顔をパッと明るくした。
「思い出した! そうだよ。確か局長だった。局長ってば一番えらーい人なんだと思うよ。あと、忘れがちだけどウルベータも彼の子だからね」
「こんな時にジュビオレノークをやり込めればうまくいきそうなんだけど。彼女、彼のためならなんだってお父さんに甘えてくれそうだし」
「まぁ、娘の声で捜査局の方針が変わる方が問題大アリだけど」
「残念ながら、僕はジュビオレノークから目の敵みたいにされているし……そうか、ウルベータにお願いすればいいんだ」
「ウリーンの方が効果てきめんとみた。お父さんってのはだいたい娘に甘々だからね」
「息子の方に甘々かもしれない」エシルバは言った。
「とにかくジュビオレノークを介してなにかするってのが一番癪だから、分かった。ウルベータ甘々作戦でいこう」
「彼とはトロレルの別荘で合流するんだ。僕の方から事情を話して、お願いできないか話してみるよ」
「同じ弟子同士だもんな。助かるよ」
リフはそう言ってニッと笑った。
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