第39話 人は99.9999%お金を失うことに喜んでお金を払う[身近な確率論]

「今回のお悩みはクサイ・キュグニーさんからです。『ガチャが、ガチャが当たらないぃぃぃ! 確率1%なら、100回引いたら当たってもいいだろうがよぉぉぉ!』です。分かる、分かるぞ。ガチャは一度沼ったら、抜け出せないんだ」

 ある日の放課後。

 雑談部の部室では毎度のごとく桔梗が誰かの悩み相談を華薔薇に持ちかけている。今回はテンション高めでお送りしている。

「確率を計算したら、分かるでしょ」

「知ってるよ。俺だって掲示板とかSNS見た時にガチャで目当てのキャラが当たってない人の嘆きを見たことあるよ。そしたら懇切丁寧に確率の話をしてくれてたよ。でもさ、理屈は理解しても、人間には感情があるんだよ。計算では割り切れないんだよ、俺たちの心は」

 桔梗とて高校生、ガチャで目当てのキャラが当たらない人が一定数存在することは知っている。桔梗だって、目当てのキャラが当たらなかった経験の一度や二度はある。

「後、今回の内容は悩み相談じゃなくて、ただの心情の吐露ね。まあ、どっちみち、雑談部にはお門違いに代わりないわ」

「華薔薇が冷たい。俺たちがこんなにも、苦しんでいるのに」

「だったら、ゲームをやめなさい。そしたら、その苦痛もなくなるわ」

 ゲームをやっているから苦しいのだ。ならばゲームをやめてしまえば苦しみから解放される。

 言うは易し行うは難し。タバコやお酒と同じように一度中毒になると簡単には抜け出せない。ゲームにもあの手この手でユーザーを虜にするシステムが搭載されている。

「華薔薇の鬼、悪魔、鬼畜、人でなし、人間の心を持っていないのか?」

「あら、もしかして私、桔梗に喧嘩を売られている? もし、そうなら、高く買ってあげるわよ。物理的にも精神的にも叩き潰して、あ・げ・る」

「ひぃぃぃっ、すんませんでした!」

 リングに上がる前から、白旗を上げる桔梗。

 男として情けないと嘲笑うべきか、勝てない勝負に早々に見切りをつけた賢明な判断と讃えるべきか、どちらかの結論を出すのは難しい。

「はぁ、興が削がれたわ。だから、雑談をしましょう。もちろん、桔梗は付き合ってくれるよね?」

 飛びっきりの笑顔で同意を求める華薔薇に、桔梗の答えはイエス以外に存在しなかった。


「さて、桔梗に統計学やら確率論の話をしても仕方ないから、身近に溢れることで確率について雑談しましょう」

「助かるぜ」

 雑談というのは会話のキャッチボールである。片方が一方的に球を投げ続けていても成立しない。

 華薔薇が桔梗に合わせないと雑談部の活動ができない。

「知ってるかしら。人は99.9999%失敗することに喜んでお金を払うのよ」

「またまたぁ、そんな成功確率が低いことにお金を使う人なんていないでしょ」

 確率皆無な事象に桔梗は半信半疑。いや、一信九疑だ。

「言われたら桔梗も納得するわよ」

「ほほう、俺はそう簡単には騙されないぞ」

 いつになく強気の態度で桔梗は立ち向かう。99.9999%失敗することに喜ぶ人などいないと高をくくる。

「それは、宝くじよ」

「ほ、ほ、ホントだぁぁぁ! 確かに、全然当たらないのに俺たちは宝くじを買ってるぅぅぅ」

 宝くじで夢を買っている、と人は言うが、その夢が叶うのは途方もない幸運が必要になる。

「宝くじの一等の当選確率はおよそ1000万分の1。メディアでは高額当選者がフィーチャーされるから、少しは身近に感じるけど、実際には超超超超超な幸運なことよ」

「でもさ、それは一等の話だよな。宝くじには二等や三等もあるんだし、お金がプラスになれば、万々歳だろ」

 宝くじの一等当選は夢のまた夢。一等は無理でも二等、三等なら、確率はもう少し高い。桔梗は一縷の望みをかけて、華薔薇に尋ねる。

「それなら、宝くじの期待値について教えてあげましょう」

「期待値?」

「簡単に言うと、宝くじを買った時にどれだけ当選するかってこと」

 100円の宝くじを購入して、100円が返ってくる見込みがあるなら、期待値は100%。返ってくるのが80円なら80%になる。

「夏に発売される大型の宝くじ。1枚300円の宝くじ、これには1ユニットには1000万枚の当選本数と14億990万円の当選金が用意されている」

「途方もない金額だなぁ」

 桔梗はシンプルな感想を漏らす。

 だが、宝くじの販売は1ユニットでは留まらない。

 通常20ユニット以上は販売されるので、当選金の合計額は300億円近くになる。

 桔梗の感想が的外れとは限らないが、もっと多くの金額が毎年動いているのは間違いない。

「端的に言うと、14億990万円を1000万枚で山分けするの」

「ふむふむ」

「計算すると1枚当たり、140.99円になる。つまり、300円の宝くじを1枚買って、141円以上の当たりがでれば運がいい。期待値は47%ね」

 宝くじの当選金には端数はないので、30000円購入して、14099円以上になれば運がいい。

「えっ、そうなの!? 金額的には損してるぞ」

「そうよ。宝くじは必ず胴元が得する仕組みなのよ。続けていれば必ず損するのよ」

「うわー、宝くじって夢がないじゃん」

 ギャンブルは必ず胴元が勝つ仕組みがある。宝くじに夢を見てもいいことはない。

 さらに言えば宝くじはギャンブルの中でも期待値が殊更低い。

 期待値は宝くじが47%、サッカーくじが50%、競馬・競輪・オートレースが75%、パチンコが80%から90%。

 ギャンブルをするならカジノは期待値が高い。おおよそ95%以上はあり、ブラックジャックに至っては最大102%になる。

 カウンティングと呼ばれる、場に見えているカードの種類と枚数を覚えて、残りのカードを予測する方法を使えば期待値が100%を越える。

 実際にこの必勝を編み出したエドワード・ソープは自身の理論を証明するためにカジノに乗り込んだ。週末の2日間で10000ドルを2倍以上にした。

「待てよ、確率を用いて当たりやすい当選番号を導けたら、期待値が高まるんじゃないか?」

「無理ね。宝くじの番号は1ユニットに同じ番号はない。どの番号も当たる確率は同じ」

「そ、そんなぁ」

 宝くじに必勝法があるはずがない。

 桔梗は夢破れて膝から崩れ落ちる。

「桔梗も今後は宝くじなんてしょうもない商品なんて買わないことね」

 理論で損することが証明されている。それでも宝くじを買うようなら、それはバカ以外の何者でもない。


「桔梗、私とジャンケンをしましょうか」

「えっ、いきなり何? まあ、ジャンケンくらいいいけど」

「それじゃ、いくわよ。最初はグー、ジャンケンポン」

 華薔薇はチョキ、桔梗もチョキであいこだ。

「あいこでしょ」

 華薔薇はパー、桔梗もパー、またあいこだ。

「もう一度、あいこでしょ」

 華薔薇はパー、桔梗もパー、またまたあいこだ。

「あらあら、あいこでしょ」

 華薔薇はグー、桔梗はチョキ、で華薔薇の勝利。

「ふふ、私の勝ちね」

 たとえジャンケンといえど桔梗に負けたくない華薔薇は勝ち誇る。

「それで、ジャンケンが何なんだよ?」

「二人でジャンケンをした場合、何回くらいでだいたい決着がつくと思う?」

「うーん、あいこって結構多いよな、さっきみたいにな。だから4回くらいじゃね」

 桔梗は過去のジャンケンのイメージを引っ張り出して回答する。

「結論から言うと3回以内に決着がつく確率が96%よ」

「3回で決着? 嘘だろ、俺もっとジャンケンしてるイメージだわ」

 人間の記憶は珍しいことを特に覚えやすくなっている。何度もあいこになるのは珍しいので、記憶に強く焼き付いたにすぎない。

「二人でジャンケンをした場合、手数はグー、チョキ、パーの3種類しかないから、3×3で9通りのパターンが考えられる。その内、あいこになるのは3パターン。二人がジャンケンをしたら、一発で勝負かつくのは3分の2、つまり67%ね」

 では、2回目で決着がつくのは、まず1回目があいこであり、2回目があいこでない場合になる。2回目で決着がつく確率は22%になる。

 ジャンケンが2回以内に決着がつく確率は1回目で決着がつく確率と2回目で決着がつく確率を足した、89%になる。

 同様に3回目以内で決着がつくのは96%になる。これ以降はほとんど確率が変わらず、4回目以内で決着がつくのは約97%。

 5回目以降も僅かに確率が上昇するが、ほとんど横ばい。

「ほーん、二人でした場合はほとんどが3回以内になるのか。96%なら納得だわ。……ちょっと待ってくれ、俺と華薔薇のジャンケンは4回目までもつれ込んだぞ。実際は確率も当てにならないな」

 所詮は確率である。確率がゼロではない限り、可能性は捨てきれない。

「ええ、そうね。確かに確率は当てにはならない。だって、私は桔梗の思考を読んで、桔梗が出しやすそうな手を出したもの。わざとあいこにしたのよ」

 あくまで確率は感情や思考を抜きにした数学上の結論である。

 華薔薇も桔梗も人間である以上、環境や状況に左右される。ましてや、華薔薇は桔梗の思考の方向性が少しは分かる。

 何度かあいこにするのは決して不可能ではない。それが今回は3回だった。

「俺の思考を読むなよ。っていうか、俺が華薔薇とジャンケンするとカモにされるじゃん。もう華薔薇とはジャンケンしないぞ」

「あら、残念……でもないわ。桔梗とジャンケンしなくても、私になんら不都合はないからね」

 華薔薇が桔梗に頼み事をするとしても、わざわざジャンケンを選ばない。あの手この手、口八丁手八丁で動かす。ジャンケンがなくなっても痛くも痒くもない。


「そういや、この前さ、誕生日が一緒の人がいて、滅茶苦茶盛り上がってたよ。誕生日が同じになる確率はどのくらいなの?」

 ここぞとばかりに桔梗は確率の話題を提供する。

「その確率はグループの中に自分と同じ誕生日の人がいる場合、それともグループの中に同じ誕生日の人がいる場合のどちらかしら?」

 集団の中で同じ誕生日の人がいる割合と自分と同じ誕生日が人がいる場合では計算が違う。

「この前の場合は俺は近くで見てただけ。だから、グループの中で同じ誕生日の人がいる割合だな」

「なるほどね。まず一人目はどの誕生日でもいいから、確率は365分の365で1ね。続いて二人目は一人目と誕生日が異なる確率は、一人目の誕生日以外の日付になる。諸々を計算すると、二人の誕生日が同じ確率は365分の1、約0.0027%ね」

「まあ、二人なら分かりやすい。1年が365日だから、一人目の誕生日が1月1日なら、二人目の誕生日が1月1日以外なら、別々の誕生日になる」

 二人目の誕生日が1月1日なら、365分の1を引き当てたことになる。だから二人が同じ誕生日になる確率は0.002739726%になる。

「計算は省くけど、これが10人になると確率は12%まで上がる」

「まあ妥当かな。365日あるから、10人くらいじゃ誕生日被りはないよな」

「さらに増やして、20人になると確率は41%%まで跳ね上がる」

「一気に上がったな」

 人数が少なすぎると確率は増えにくいが、一定のラインを越えると大きく確率は増える、そして、また一定のラインを越えると100%に近づくので確率は横ばいになる。

「20人からもう少し増やして、23人になると確率は51%になる。これで半数は越えるわ」

「たった23人で確率が半分を越えるのか。なら、23人のグループを二つ用意すれば、誕生日が同じ人が必ずいるな」

「…………はぁ」

 せっかくの雑談が無為になって華薔薇は溜め息を吐く。たとえ確率50%のグループを二つ用意しても、確率は100%にはならない。

 50%が二つなら、起こる確率は75%になる。

「ちなみに、30人なら70%になって、40人なら89%、50人なら97%ね」

「50人いれば、ほぼほぼ確実に同じ誕生日の人がいるのか。面白いな」

 高校のクラスともなると人数は30人を越えるので、誰かは誕生日が同じ人がかなり確率でいることになる。

 ただ、ほぼ100%同じ誕生日の人がいる状況を作るには、841人必要になる。

 50人いれば97%なので、たった3%の確率を上げるには800人近くの人数を増やす必要がある。

「ここまでは前座ね。集団の中で自分と同じ誕生日の人がいる確率となるとかなり低くなる」

「そうだろうな。俺には計算できんけど」

 桔梗に確率の計算はできないので、全て華薔薇に丸投げだ。

「二人の場合は、365分の1になる。自分と相手を比べるだけだからね。では桔梗に問題、自分以外に9人がいる場合、自分と同じ誕生日の人がいる確率はどれ程でしょうか?」

「うーん、さっきの場合だと10人いたら12%だろ。それより低いと考えて、半分の6%くらいか」

 桔梗はどういった計算をしたらいいのか分からないので、当てずっぽうで答える。

「6%ね。えらく高く見積もったよかさうね、正解は2%よ」

「えっ、たったの2%なの。低すぎない」

 桔梗があまりの数字の低さに驚くが、この程度はまだまだ驚くに値しない。

「続けて問題、20人の場合は何%?」

「今度こそ、当てるぞ。さっきの場合だと41%だから、半分の20%。いやでも、半分だと多すぎるから、さらに半分だ。よし、答えは10%だ」

「なるほどね。無い知恵を振り絞ったようだけど、不正解。正解は5%よ」

「嘘だろ!? たった3%しか増えてないのかよ。自分と同じ誕生日の人って珍しいんだ」

 自分と相手の誕生日の比較しかできないので、自ずと確率は上がらない。

 集団の中で同じ誕生日の人を探す場合は、人数が増えると様々なパターンを試せるので一気に確率が上がる。

「またまた問題よ。30人の場合の確率はいくつくらいかしら?」

「むむむ、今度こそ、当ててみせる。2%、5%と来たから、次はもしかして8%か?」

「あら、当てずっぽうだけど、いい推理ね。正解よ。30人いれば確率は8%ね。ちなみに40人だと10%、50人で13%ね」

 100人いても確率は24%、200人いても42%、254人でようやく50%を越える。

 500人なら74%、1000人で93%、1700人もいればおよそ99%に達する。

「衝撃の事実だな。もっと同じ誕生日の人はいると思ってた。テレビだと結構、芸能人の誰々と誕生日が一緒って目にするのに」

 単純に分母が全国だと桁違いになる。その結果、珍しいものも珍しくなくなる。全国で調べれば、同じ誕生日の人はたくさんいる。

 見方を変えれば結果が変わるのは当然だ。


「はいはい、またまた質問があります。授業で俺はよく先生に指名されるけど、そんなに同じ人が指名される確率って高いの?」

 学校の授業の場合、席順や出席番号順で選ばれることが多くある。だが、完全にランダムに選ばれる場合もある。

「それは単に桔梗が悪目立ちしているだけでしょ。要は教師に目をつけられているのね」

「それは……ない、とは言えないけど。俺が知りたいのはどれくらいの確率で選ばれるかってこと」

 教師も人間である以上、感情に左右される。機械的に生徒をランダムに選ぶことはできない。

「仮に教師がランダムに選べるとしたら、クラスの人数が20人で指名する回数が5回なら、だいたい42%の確率で誰かが2回指名される。回数が10回なら93%ね。指名する回数が13回なら、ほぼ100%になるわ」

「ふんふん、20人のクラスなら確かにそれくらいは当たる気がする。でも、俺が知りたいのは、もっと人数が多い場合。俺のクラスは30人を越えてるぞ」

 少人数で授業を行えば教師に指名される確率は高い。

「それなら、クラスの人数が35人の場合で計算しましょう。35人の場合で教師が5回生徒を指名したら、同じ生徒に当たる確率はおよそ26%よ」

「へぇ、だいたい4分の1か。結構高いな。確かに、それなら納得だわ。俺が何度も当てられるのは、目立っているだけじゃないっぽいな」

「さらに回数を増やして、10回になったら確率はおよそ75%まで上がる」

「うひゃー、4分の3か。よく当てる教師の時は当たるって思ってた方が無難だな」

「指名される時は指名されるわよ。統計的に考えれば、何度も指名される日があってもおかしくない」

 今回の計算はクラスの中で、誰か一人が2回以上指名される確率だ。自分が2回指名される確率になると、かなり低い。

 クラスの人数が20人なら、生徒が10回指名されても自分が2回指名される確率は8%。

 クラスの人数が35人なら、生徒が10回指名されても74%の確率で1回も指名されない。1回は指名される確率が21%なので、2回指名される確率は5%になる。

 よく生徒を指名する教師でも、自分が2回以上指名される確率は低い。授業中に指名されるかもと、過度にびくびくする必要はない。確率で言えば、何度も指名されることはない。

 とは言え、絶対ではない。教師はそもそも完全にランダムに選ぶことがないし、目についた生徒を指名する可能性もある。

 人間が介在するため、確率だけでは計れない。

「うーん、でも、体感はもっと当てられてる気がするな」

「それは、やっぱり桔梗が悪目立ちしているのでしょ。よくも悪くも」

「ぐっ! 否定できないのが、辛いぜ」

 いい悪いは別にして桔梗はどちらかというとクラスの中心人物である。他の生徒より、注目を浴びる割合は多い。

「待てよ、俺が魅力的だから、先生も俺を指名しているんじゃなないか? うん、きっとそうだ。罪作りな男だぜ、俺って奴は」

 桔梗は自分が注目されるのをプラスの方向に考える。楽観的な考えができる人は幸せになりやすい。時にはお門違いな勘違いも、人生のスパイスになる。

「…………まっ、妄想するのは自由よね」

 ただ、華薔薇はあり得ない、と切り捨てる。思想は個人の自由なので、深くは追求しない。


「はいはいはいはい、またまたまたまた質問があります。この間、ゲームをしていたら、命中率が90%だったけど、敵に避けられたんだ。90%ってそんなに避けられるの? 結構避けられてる気がするんだよ。もしかして、バグなのか」

 人間は強い出来事を覚えやすい。そのため記憶に残っているだけだ。わざわざゲーム会社が確率を操作する理由はない。

「確率が90%を10回続けたら、全部成功するのはおよそ35%。逆に言えばおよそ65%の確率で1回以上は失敗する。0.9を10回かけたら求められるわよ」

「そうなんだ。くそっ、確率90%に騙されたぜ。90%なら余裕だろと思って何度敵に避けられたことか。まったく、セーブ&ロードの繰り返しは懲り懲りだぜ」

 たとえ成功率が90%でも、何度も続けていればいつかは必ず失敗する。

「仮に成功確率が99%でも、10回連続成功できる確率は90%よ」

「マジかよ!? 99%でも10回成功の確率がそんなに低いなんて。なんてこった、99%なら10回成功くらい99%くらいできると思ってた」

「成功確率99%を20回連続成功できる確率はおよそ81%、30回ならおよそ74%、40回なら67%、50回なら60%、100回なら36%ね」

 たとえ成功確率が99%でも、やはり何度も続けていれば1回以上失敗する確率は上昇する。

 テレビで何十人の出演者が簡単なパフォーマンスを連続で達成していく企画がある。成功確率を考えたら、一度や二度で成功する確率はかなり低い。

 視聴者はどうしてこんなこともできないのか、と思ってしまうが、計算上では成功する確率が低いことの場合が多い。

 決して、緊張や不安ばかりが失敗の原因ではない。

「99%ってのは実は当てにならないんだな。はぁーあ、今まで、ホント騙されてたよ」

「でも、成功確率が99.99%なら、100回連続で成功できる確率は99%よ」

 ちなみに99.99%の成功確率なら、1000回連続成功できる確率は90%ある。

「うーん、ゲームは小数点を表示してくれないから、正確な計算はできない。やっぱり、勘でやるしかないな」

「好きにしたら」

 華薔薇は雑談ができれば満足。日常生活で確率を計算するのもしないのも桔梗の自由だ。

 ただ、確率を知っていると変なギャンブルに引っ掛からない。また、計算能力はお金の管理を楽にしてくれる。身につけて損のない技術なのは間違いない。


「なあなあ華薔薇、どうにかして確率の力を使って宝くじを当てられないかな。やっぱり諦めきれないよ」

「はぁ、呆れた。宝くじは無理よ、潔く諦めなさい」

 宝くじは確率を使っても当たらないものは当たらない。

 スタートダッシュをして朝一番に購入しても、最後の一つの残り物を購入しても外れる確率は同じだ。残り物には福がある、は当てはまらない。

 同じようにどこで購入しても当たり外れの確率は同じだ。当たりやすいお店が紹介されるが、紹介されることで販売数が大きく膨れ上がるから当たるだけだ。分母が増えれば、当たる人数も当然増える。

 ただし、当たる確率については変わらない。

「ただ、くじの中にも当たる確率を上げられるくじがあるわ」

「やっぱり、あるじゃん! 最高だよ、華薔薇!」

「くじはくじでも、あみだくじね」

 一般的なあみだくじは、人数分の縦線を引いて、上側には氏名欄を設け、下側には当たり外れを記載する。

 横線を引いて、氏名を記載して、順番に結果を見ていく。

「えっ、あのあみだくじ?」

「そう、そのあみだくじよ」

 あみだくじあみだくじ、と何度も同じ言葉を繰り返す雑談が繰り広げられる。

「あみだくじは、選んだ線を辿って、横線があると曲がることになる。この時、右に行くか、左に行くかはどちらも50%。次の横線でも同じように左右どちらかは50%」

「右か左かの二択は分かるけど、結局何が言いたいんだ?」

 桔梗が知りたいのは確率の計算式ではなく、ズバリどこが当たりやすいかだ。

「やれやれ、堪え性のないこと。結論を述べると、当たりの真上が一番当たりやすい。当たりから離れるほど、当たりにくくなるの」

 横線が増えれば増えるほど、確率の差は縮まるが、決して同じにはならない。真上が有利なのは間違いない。

 縦線が5本の場合、横線を100本引かないと、確率は不公平のままとなる。

 もし、当たりの場所が分かるなら、当たりの真上に名前を書いて、横線はできる限り増やさないことが、あみだくじで当たる確率を上げる方法だ。

 あみだくじは当たりの場所を先に決めることと、当たりの真上を陣取ることが大切だ。何とかして、その二つは確保したい。

 横線はそこまで多く引かれることはないので気にしなくていい。横線の数が多いなら、結果の確認が面倒になる、と牽制しよう。

「当たりの真上がいいんだな。よっしゃ、覚えたぜ。明日から実践だ」

「あらあら、桔梗にはあみだくじをしてくれる友達がいるの?」

「おるっちゅうねん! 俺は一人寂しく過ごすぼっちじゃねぇ!」

 むしろ学校に友達がいないのは華薔薇の方だ。挨拶くらいはするが、昼休みや放課後に遊ぶような友達は皆無である。

「それで、友達がたくさんいる桔梗は、あみだくじで何を得るの?」

「んーと、ジュースとか? 負けた奴が勝った奴に奢るみたいなさ」

「なるほどなるほど、桔梗はジュースを得る代わりに信頼を失うのね」

「勝手に俺の友情を破壊しないでくれる! ジュースの1本や2本で壊れる友情じゃないから」

 1回や2回では友情は壊れないが、何度も続けると不信感を持たれる。あみだくじで勝ちすぎるのも考えものだ。

「桔梗の友情が壊れるのが確定したところで、今回の雑談部は終わりね」

「だから、勝手に俺の友情の行く末を決めないでくれ!」

「ふふふ」

 意味深な笑みを浮かべて華薔薇は雑談部の活動を終わらせるのであった。

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