第45話 襲撃

今日は久しぶりにこころさんと2人きりでお店の番をしている。


「何かこころさんと2人で出勤というのも久しぶりだな。週休5日だから。」

「そうね。」


「何か新鮮な感じがするな〜、週休5日だから。」

「そうですね。」


「でもそんな気分も週休5日だか…。」

「しつこいわねゆずるは!略していしつゆず」


「こころにはカルシウムが足りない。」

僕はポケットからカルカルを差し出した。


「素手のカルカルはいらないわ。不潔だから。」

そうマジなトーンで返された。


そこは今までの流れで

明るい口調でツッコンで欲しかったのだが。


マジなトーンで断られると傷つく。

マジ傷つく。


そんなやり取りをこころとしていたら

玄関から人の気配が


「お邪魔するよ。」

ドアを開けて入ってきたのは…


70歳ぐらいのロマンスグレー髪をした老紳士だった。

杖を持ってはいるが背筋はピンとして足も悪そうにはみえない。

しかし、目がするどく顔も独特の雰囲気を持ち堅気の人には見えない。


「「いらっしゃいませ」」

こころはお茶を入れに行ったので

とりあえず僕だけで対応だ。


「こちらへお座りください。」

老紳士をソファーに誘導するとお付きのサングラスボディーガードが後ろに立つ。


「めっちゃ圧力ありますやん。」

「そうか、まあ気にしないでくれ。」

つい思った事が口に出てしまっていたようだが

老紳士は聞き流してくれたようだ。


「レイ君は在宅かね?」

「あっレイ君のお知り合いの方でしたか、今確認してまいります。」

僕はそう言ってレイ君を呼びに行こうとしたら、


「いや、今はいい。君は確か神崎ゆずる君だったね、初めて会うが私は近藤という者だ。」

近藤?んーどこかで…ああ18話で少しだけ話に出た近藤さんのことかな?

レイ君はじいさんって呼んでたけどまだまだ若々しく見えるけどな。


「どうやら思い当たる事があるのかな。以前こちらで内田の欠損を治してもらった件で直接お礼を言おうと思いついでに寄っただけだ。ああ、ありがとう。」

こころがお茶をだしてくれた。


「君も初めて見るね。」

「はい、最近レイさんにお世話になっています南こころと申します、以後お見知り置きを。」

こころさんの営業スマイルがまぶしい!

さすがに週休5日の女だな。


「ゆずる君はレイ君の事は?」

「はいもちろん知っています、ハードゲイって事ですよね。」


「そうか、それは私の知らない情報だったな。教えてくれてありがとう。」

「いえ、本当の事を言ったまでですから。」

「ゆずる、後でレイ君に○されるわよ、そんな嘘言って。」


「じゃあゆずる君はそんなレイ君のお気に入りなのか。」

「いえ、僕はドノーマルですのでレイ君とはそういう意味では仲良くありません。」

「墓穴掘ってるじゃないの、ゆずる。」


「そうか残念だな。ゆずる君にその毛があるなら後ろの光田に相手をしてやってもよかったのだがな。」

「えっ」

後ろの男のサングラスがキラリと光って見えた。

黒いスーツの上からでもわかるガチムチの男にそっちの毛が…


めちゃめちゃ乱暴にされそうじゃない?

よかった冗談でもアブノーマル宣言しなくて。


「がはははは、嘘じゃよ。光田もノーマルだ。君の冗談に付き合っただけだ。」

「ふーっ貞操の危機を感じました。」

いくら嘘だとはいえ、一度そういう目で見てしまったら、

後ろの光田さんはもう僕の中ではゲイにしか見えなくなってしまった。

これが言葉のマジックか。


「ゆずる君もこころ君もレイ君が異世界人なのは知っているかい?」

「はい、もちろん知っています。」

こころも頷いて同意を示す。


「そうか、ではレイ君がどういう男か君たちの思うままでいいから率直な意見を聞きたい。」

近藤さんはさっきまでのふざけた感じを引っ込め真剣な顔つきで聞いてきた。


「僕から見たレイ君は普通ですよ。もちろん治すという奇跡の御業はものすごく異世界人ぽいですけど。人としての倫理観なんかも地球人と比べてさほど大きく外れているという事もありませんし。」

僕は正直にレイ君の感想を語った。

こころは特に何も言わなかったので続けて意見する。


「なにより身内のいない僕にとっては家族同様の存在です。」

目をつぶって聞いてた近藤さんはうんうんと頷き

しばらく沈黙があった。


ちょっといい事を言ったのに沈黙という放置プレーをされた僕は

多分今顔が真っ赤かである。


だれもいなければのたうち回りたいぐらい恥ずかしい事を言ってしまった。

今はこころの顔を振り返って見れない。

たぶんこっちを茶化すような顔をしている事だろう。


しばらくしたら近藤さんが口を開いた。

「わかった。ありがとうこちらの質問に答えてくれて。そうだ何かお礼をしないとな。」

「いえお礼だなんて、ほんのちょっとお金を包んでくれればいいでゲスよ。」

「いや、ゲス田ゲス男が出ているわよゆずる。」

こころがツッコンでくれた。


「そうか、お金じゃないけど代わりに…おい、光田あれを。」

近藤さんが後ろの光田さんに指示を出す。


すると光田さんは背広の内ポケットに手を突っ込み

スミス・アンド・ウェッソンの642レボルバーを取り出して

僕に向けて発砲した。


パーーーーーーーーーン


あまりの出来事に僕は目をつむり体を庇うように腕を前でクロスしていた。

こんなクロスなんかじゃ銃を防ぐ事なんてできないが

つい反射で身構えてしまったのだ。


痛みが無いのでそっと目を開けると、

僕の前にレイ君とこころが立ちふさがってくれている。

どうゆうこと?


「おい、ジジイ!何のつもりだ!」

レイ君の顔は見え無いが本気で怒っている声だ。


「くくく、やっぱり居たか。呼ぶ手間が省けたよ。」

「何のつもりだと聞いている。」


「警告だよ。」

「警告だと?」


「上は本格的にお前の排除に動くようだぞ。」

「ふん、とうとう来るか。」

「レイ君上って?」


「このままだとこの小僧がお前の枷になるぞ、だから先に俺が始末しておいてやろうという親心だ。」

「何が親心だクソジジイ。余計な御世話なんだよ。」


「まあ、今日は警告に来ただけだ、久しぶりに顔が見れて嬉しかったよ。」

近藤さんは立ち上がって光田さんを伴って部屋から出て行こうとする。


「ああ、忘れておった神崎ゆずる君。これから君にはたくさんの災難が襲いかかるだろう。せいぜい死なないように早めに目を覚ましたほうがいいぞ。」

「よけいな事は言うなジジイ、さっさと帰れ。」

レイ君は近藤さんたちにさっさと帰れと手を払う。


その後レイ君とこころには話の説明をうやむやにされて

その日は早めに事務所を閉めることとなった。


こうして僕にとっては何が何だかわからない1日が終わりを告げたのであった。





ドゴーン





その夜ーーーーーーー

僕が住む5階建てのビルが爆破された。


この日から神崎ゆずる、南こころという

戸籍が消えた。

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