第38話 直接首に埋め込んであるから大丈夫!

夜8時ごろやっと自宅に着いた。

朝9時ごろに拉致られたから11時間ぶりの帰宅だ。


体を痛めつけられて、自転車で5時間もかけて帰ってきたから

ボロボロのフラフラだ。


何か遠くに捨てられた犬が帰巣本能で何日ぶりかに帰ってきたかのような心境だ。

知らんけど。


「ただいま〜〜〜。」

僕の部屋に入り、誰もいないけどとりあえず声をかけ電気をつけた。


「おかえり〜遅かったわね。何してたの」

「うわっ、びっくりした!こころが何で僕の部屋にいるの?」


「ああ、ゆずるの部屋と私の部屋つながってるからよ。もちろんゆずるの部屋から私の部屋には入れないけどね。」

「何その監視部屋みたいなシステム。」


「まあまあそんな細かい事は…ってどうしたのあんたボロボロのヘロヘロじゃないの。」

「いや、話せば長くなるんだけど…。」


「じゃあ話は後にして先にお風呂に入ってきなさいよ、その間にご飯作ってあげるから。」

「おかんか!もしくは同居のおかんか!まあ、ありがたいけど。」

僕は素直に感謝を口にしてお風呂に入った。


お風呂は毎日8時に湧くようにセットしてあるからよかった、すぐに入れた。

「あ〜〜やゔぁい。」

体の傷がしみるのだが、そんな事より命の洗濯って本当や

体の疲れがふっとぶ程きもちええええ。


寝ちゃう…寝てしまう…

おぼれてブクブクブクぶ…


ガラッ

「ゆずるいつまで入ってるの!ご飯出来てるよ!」

「おかんか!もしくは同居のおかんか!まあ、助かったけど。」


危なかったお風呂で溺死するところだった。

眠気を振り払い、体を洗ってすっきりしてお風呂を出た。


食卓にはこころが作ってくれていたシチューが。

重すぎないご飯が疲れた体に丁度良かった。


「ありがとうこころこの手作りシチューとってもおいしいよ。」

「そう、よかった、もちろんレトルトだけどね。それよりどうしてボロボロに?」


「ああ、実は朝男達に拉致られて…」

僕は事の顛末を最初から話した。

事細かに時には臨場感溢れるドルビーサウンド付きで

こころに熱く語った。

もちろんおしっこの部分はカットしたが。


「それで親切なおじいさんが2万円貸してくれて帰ってこれたって訳さ。」

「ZZZZZZ」


「寝てる!聞いておいて寝てる!」

ZZZZなんてベタな寝てる記号使いおって。


「冗談よ。ちゃんと聞いてわ。どこだっけ…そのチェンナイって。」

「誰も南インドの東側コロマンデル海岸沿いの、ベンガル湾に面するタミル・ナードゥ州の州都の事は言ってないけど!」


「冗談よ。ちゃんと聞いてわ。ゆずるが膀胱パンパンで我慢できなくて男達におしっこかけた話。」

「そこはしゃべってないのになぜ知ってるの!」

僕は何がなんだか分からなくて困惑してきた。


「それはオレがこころにしゃべったからだよ。」

後ろを振り向くとレイくんが僕のふとんに横になっていた。


「レイ君帰ってたの。」

「ああ、さっきゆずるがお風呂に入っている時にな。その時にこころには大まかに話しておいた。ゆずるのおしっこの部分は詳しく臨場感溢れるドルビーサウンド付きでな。じょぼぼぼぼぼ。」


「音は再現しなくていい!いや、もっと詳しく話さないところあるでしょ。」

「それより、悪かったな。ゆずるのスマホと財布が盗られていた事を失念してて先に帰らせて。もちろん取り返してそこの机の上に置いておいたぞ。あとで確かめておいてくれ。」


「ありがとう。まあ言いたい事はあるけど今日は疲れたからもう僕は寝させてもらうよ。」

「そうだな、ふとんは温めておいてやったからぐっすり眠れ。」

疲れが限界に来ていたのでレイ君のボケにはツッコめずに

ふとんに倒れてそのまま意識を手放した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝早めに起きた僕がいつもより早く事務所に行くと、レイ君とこころが先に待っていた。


今の事務所はちょっと華やかになってきている。

こころが来てから事務所が殺風景すぎるという事で

新しい家具や調度品、花などを入れてスタイリッシュなお洒落な空間になった。


別にお客商売するようなお店でもないから前の殺風景なままでも良かったのだが、

こころ曰くこの部屋があまりにも無機質すぎて働いている私の気がめいっちゃうから

という意見で事務所をこころ基準で華やかに変えてもらったのだ。


まあ僕も全然気がめいっちゃわない人なんですけどね。


「おっ早いなゆずる、まあ座れや。」

レイくんの向かいのソファー、こころの横に座って昨日の話の続きを聞く。


事の顛末は昔レイ君を襲った男がレイ君を恨んで、仕返しを頼んだらしい。

レイ君以外に僕とこころもその標的に入っていたようだ。


その頼んだ男は昔レイ君に危害を加えようとしたが、

相互扶助の組織によって潰され底辺まで落とされたらしい。


その事にいつまでも根に持っていて、昔のツテで金さえ払えば始末してくれる男達に頼み復讐をしようとしたらしい。


1回目の時に組織に処理を頼んだのはいわゆる猶予期間、警告だったのだが二度目に猶予はない。レイ君直々に始末をつけたらしい。


僕を襲った男達を自白させたその後は、黒幕の男を…まあ言わなくてもわかると思うけど、今は息していない。


「そういう事だったんだ。」

「ああ、ゆずるには怖い思いをさせたな。」


「いや、僕が捕まっていなければこころがやられていた。そう思えば僕でよかったよ。」

こころに向けイケメンスマイルで答えた。

こころもにっこり微笑んだ。


「でもゆずる、男達の中に男色の奴がいてやられるって言われた途端にたすけてーってオレにすぐ助けを求めていたな。くくくっ」

「そりゃあ呼ぶでしょ、僕の貞操の危機だったんだよ。まさか男色がいるなんて思わなかったし必死だったよ。」

こころもにっこり微笑んだ。


「そんな事よりレイ君はいつから居たの?どうやって僕の事探せたの?」

「ああ、そういえばその事をまだ話していなかったな。いつからと言われればゆずるが拉致された時からだ。」


「そんな時から。」

「いつものように相手の目的や手段、人数や黒幕などを探りたかったからな。助けるのが遅くなった事は謝る。」


「まあ、僕もたぶんレイ君が居るんじゃないか、僕を守ってくれるっていう変な安心感があったからこそ取り乱さなかったんだけどね。だけど僕が助けを求めた時何の反応もなかった時は本当に絶望したよ、レイ君本当にいないのかって。何か合図を決めておいたら良かったよ。」

「そうだな、これからはそうしよう。」


「頼むよ、じゃあ最後にどうやって僕の事探せたの?」

「ゆずるの首の裏に直接魔道具を埋め込んであるから24時間どこにいるのか分かるぞ!」


「まさかの、こころレイ君のダブル監視システム発動中だった!もっと簡易な魔法でと思ってたらいつの間にか手術してまで埋め込まれてたなんて…僕本当に相棒?こわっ!」


(勝手に手術してスマソ)

「えっ頭に直接聞こえる、なにこれテレパシー的な?あとスマンがまたスマソになってる、絶対謝る気ないでしょ。」


(俺の念波がゆずるの魔法具を通して直接脳に届けている。逆も出来るぞ)

(でもこれ僕が無意識で考えてる事もだだ漏れなのでは?)


(いや、話したいと思った事しか届かないぞ。そうしないと受け取り側も煩わしいからな。)

(まあ、それならいけど…)

(ちょっと私にも聞こえるように話しなさいよね。急に二人とも念波でしゃべって私を退けもにするんだから。)


(え、こころも念波出来るの?埋め込まれてる?)

(いや、こころは魔法が使えるから埋め込まないでも使えるぞ。例えるならWiFi機器が標準で付いているメーカー純正パソコンと必要最低限の機能しか付いていないBTO格安デスクトップってとこだな。)


(おお〜〜分かりやすいなって誰がISDNやっちゅうねん。電話回線の56KBpsより128kbpsと2倍早かったISDNじゃないっちゅうねん!)

((ちょっと何言ってるかわかんないんですけど))

二人ハモってる〜〜〜〜〜


そんな無駄な知識を披露している間に夜も更けていくのであった。

まだAM9:00だけどね。

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