第35話 初めての魔法

「僕にも魔法を教えてください!」

僕はこころに心の底からのお願いをぶちまけた。


誰もが憧れる夢“魔法”を使いたい。

成人男性30歳以上にアンケート取ったら98%が魔法を使いたいっていうしね。

残りの2%もう魔法が使えるって人でした。

都市伝説じゃなかったの?30歳童貞魔法使い説!


しかし僕には30歳まで童貞説はハードルが高い。

これからの人生もててもててどうしようもなくなる説があるからだ(自称)。

っていうかもっと早く今すぐにでも魔法が使いたいしね。


僕の心の底からのお願いにこころは…

あれ、急にエマニエル夫人みたいな椅子を取り出した。

あの背もたれが高い藤のラタンチェアみたいなの。

どっからだしたの?


それに座り足を組んで肘立てに頬杖をついて目を細めながら言った。

「謝罪は?」

「えっ何の謝罪?」


「先輩風ふかせて、僕の足手まといにだけはするなよって言ってなかった?」

「あれはこころの事を思って!」

いや、本当にダンジョンなんて危ないところにこころに行かせたくなかったから、

わざと突き放した言い方をしたんだけど。

言い訳じゃなくて。


「足をひっぱるなとも言ってたし…」

「いや、魔石まで消滅してたのは足を引っ張ってたんじゃあ…」


「は?何て?」

「な~~んて事はありませんでした。ひらにひらにご容赦ください。」


ぼくは藤のラタンチェアにエマニエル夫人の様に座るこころの前で

まるで江戸時代の奉行所での裁きの様に下にゴザをしいて頭を下げた。


「打ち首獄門!これにて一件落着!」

「打ち首にされたら落着してないよ!」


「じゃあ剃髪だけでいいわよ。」

「それ、江戸時代で女性だけが受けた刑!なぜに!」


「それはゆずるがウケだからよ。」

「いや、BL的なネタはもういいから!しつこいとみんな本気にするから!」


「結論から言うとゆずるも魔法が使えるわよ。」

「やっっっった〜〜〜〜苦節29年、30歳目前でついに僕にも魔法がああああ!」


「いや、ゆずるまだ18歳でしょ。ゆずるこそいつまで30歳童貞説唱えてるの。」

「はよ、はよ教えてクレメンス。すぐにも打ちたいデストロイヤー」


「…うざっ」

「うざくてもいいから、早く早く!」


「ちょっと待ってよ。う〜〜〜んゆずるが今すぐ撃てる攻撃魔法は…ケロスね。」

「ケロス。それは僕が生まれる前から決められた運命魔法。その名もケロス!かっこええええ。」


「かっこいいかは別として、これならゆずるでも対象物に狙いを定めて叫ぶだけで魔法を行使できるわよ。あっ、ちょうどいいわ、ゴブリンが1匹だけ来たから掛けてみて。」


通路の奥からハッハッと息を荒くしたゴブリンがこちらに駆けてきた。


ふふふ、良かろう。

この異世界に魔法使いゆずるんとして名を刻む俺の魔法詠唱試し撃ち第1号としては

ゴブリンなぞ下級の魔物では不服だが、本番ぶっつけにはちょうどいいかもな。


せいぜい俺の歴史の1ページ目の12行目6文字に刻むが良い。

「ページ設定が細かいな!」

こころが突っ込んでくれた(はーと)


あっ、しまった魔法のポーズを考えるの忘れていた。

マントも無いしな。


しょうがないとりあえずなんちゃって印みたいなのを組んで撃つか。

「早よせい!」

こころが焦れる。


よし、じゃあ記念すべき魔法1発目を撃つ、いくぞ!


“ケロスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ”

ちょっとイキリながら僕は右腕を対象ゴブリンに向け上から下へ斬りつける様なイメージで振り下ろした。

少しでもエフェクトがかかればいいなぁ~と思って語尾にビブラートを多めにかけて叫んだ!


「うおっ」

放った瞬間僕の体が熱くなったのを感じた。

これが噂の魔力が体を抜ける感覚なのか。

もっと力が抜け体がだるくなる感覚かと思った。


などと考えて肝心の魔法をくらったゴブリンを見ると…


息を荒くしたまま木の棒で僕を打ち付けてきてた。

ビシビシ

「痛い!なんで魔法効いてないの?」

「効いてるわよゆずる、攻撃して。」


効きが悪いのかな?

こうなったら効くまで魔法を連発してやる。


“ケロスケロスケロスケロスケロスケロスゲロゲーロ”


途中からカエルになってしまったが、

何発かけてもゴブリンは僕に攻撃をしてくる。


おい、ゴブリン。ゴブリンさんよ。

木の棒で僕を滅多打ちにしてくる。

こちらはノーガードだ。


魔法効いてないでしょ?

何で?


ブシュッ

結局ボコボコにされた僕は埒があかないので鋼の剣でゴブリンの首を刎ねた。

瞬殺。


「こころどうゆう事?本当に効いてたの?そもそもケロスって…」

「すんごい効いてたわよ。あっちなみにケロスって呪文は血圧を下げる魔法よ。ダンジョン内でしか使えないから地球では使えないわよ。」


「うわはははは余の最大魔法“ケロス”で貴様を消し炭に変えてくれるわ〜〜。って絶対相手消し炭にならへんやん!」

僕の夢が夢が〜〜〜〜〜。

魔王的なセリフで戦う相手に言ってやりたいセリフNo.5だったのに〜


血圧上げるならまだしも、血圧下げたら喜ばれるだろ!


「いいえゴブリンにも効いてたわよ。たまにふらっとしてたでしょう。ケロスによって目まいがしてたのよ。」

「弱いわ!そんな魔法いらん。」


「ケロリンスまで覚えれば相手の気を失わせる事ができるわよ。」

「相手の気を失わせる事ができるまで唱え続けたら、その前に俺の命が失われるわ!ケロス以外の魔法は無いの?別に強くなくてもいい、ファイアぐらいでいいから!敵を10体ぐらい消し炭にするぐらいの。」


「ぐらいって言いながら図々しい要求してくるわね。消し炭って上位魔法じゃない。そんなのは無いわ。ゆずるが覚えられる魔法も今の所はね。」


くっそ〜〜僕は、僕はケロスの男として生きるしかないのか。

しかも異世界ではお年寄り相手に血圧を下げてあげるくらいの事しかできない

ちっぽけな男なのか…

ぐぬぬぬぬ〜〜。

血の涙が僕のほほを伝う。


「血の涙を流すほど?」

「まあ、しょうがない。とりあえずダンジョンは剣で進むか。よし行こう!」


「立ち直りはやっ!」

そうなのだ。ここでグチグチ言って文字数を稼いでもしょうがない。

文字数よりも小銭を稼がないといけない身なのだ。


早くノルマを達成しなければ時給500円ぐらいになってしまう。

明日からパンの耳だけになってしまう。

パンの耳も大好きだが、それだけは避けねば。


僕は立ち上がり鋼の剣でバッタバタ魔物を倒しながら奥まで進んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はそんなゆずるを立ち止まって見送っていた。

「飽きたわね。」

誰もいなくなった空間で一言つぶやいた。


3回にも渡ってダンジョン回をやったはいいが

もう飽きてきた。


場面変換が必要だわ。


次回ゆずるが魔物にやられるとか。

次回ゆずるが魔物にくわれるとか。


そうだわ!それよりもいい考えがある。

あれから2年後とか10年後といった禁断の技を使ったらどうかしら。


これだったら、みんなの近況だけで10回は話数かせげるわ。

あと、謎をちりばめて、時折思わせぶりなことをつぶやいておけば100話はいけるでしょう。


ただし、この10年後というタイムワープは作者が未来の設定を考えるのが面倒くさいという点が難ね。

なにしろ既存のキャラクターのその後と新規キャラクターの設定、未来の情勢、立ち位置etcと考える事が多すぎるわ。

やっぱりやめましょう。

長期連載になったら考えればいい事よ。

それよりも今すぐ打開できる…


“キッュピー!!(これからの展開の心配なんて気にするな!)”

とフェイを使ってこころにツッコミを入れざるをえないレイであったがその声はこころには届かなかった…

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