第18話 対価交換 内田 蓮(35歳)

ダンジョンを攻略するまで無職だと言ったな。

それは嘘だ!


決して作者がダンジョン進めるのが面倒くさくなっただの、

このままダンジョンばかリやってるとメリハリが…

などと考えたわけじゃないんだからね!

勘違いしないでよね!


……本編始まるよ~~~~!


今日の来店者は見た感じ好青年だ。

荒ぶる事も無いし、丁寧な物腰に好感が持てる。


「私は内田 蓮と申します。妻と子供2人一姫二太郎に恵まれ、最近は…」

「いや、もういいですよ皆まで言わなくても。」

レイ君が話をぶったぎる。

イケメンには容赦ない男だ。


「あっはははすみません、良く妻からも話が長いって怒られます。」

まあ、仕事柄話し上手なんだろう。

全然嫌味を感じない。


「ふむ、で要件は腕ですか?」

「はい、見ての通り私は肘から下がありません。大学生の時バイク事故で失いました。」

彼の左腕のスーツはぶらりと垂れ下がっている状態だ。


「しかし、いくら私でも腕を生えさせる事はできませんよ。」

「いえ、あなたなら出来ると伺ってきました。」


「………」

「もちろん初めは荒唐無稽だと思っていましたが、

紹介してくださった方を信頼している事ははもちろんですが、

長年いろいろな人と関わる仕事をしてきて見る目があると自負する私ですが、

実際にあなたを見て本物だと確信しました。

ぜひお願いします。」

そう言って頭を下げた内田さんは

見た目高校生のようなレイ君に全く不信感を示さずに、

確信しきっているようだ。


「ちなみにその紹介者をお聞きしても?」

「はい、近藤様です。」


「はー、あのクソジジイとはどこで知り合ったんだ?」

ソファーにもたれかかり、レイ君の口調が急に不機嫌な口調に変わる。


「急に口調が変わられましたね。いえ、もちろん近藤様からは

むかつくクソガキだが信頼できるとは聞かされていたもので、

驚きは少ないのですが。」


「まあ、近藤のジジイの紹介って時点で猫をかぶる必要はないと思ったんでね。」

「そうですか。それで引き受けてもらえるのでしょうか。」


「いくら私でも腕を生えさせる事はできませんよと言ったな

あれは嘘だ。」

内田さんは静かに息を飲んだ。


「だが、あなたはもし腕が生えたらどうするんだ? 周りが騒ぐだろう?

この世界ではありえない事だからな。俺の名前をだすのか?一番の愚策だがな。」


「その件の対策は一応考えてあります。これを見ていただけますか?」

内田さんはボストンバックから腕をとりだした。

とても精巧にできている義手のようだ。

こんな物を草むらの中で発見したら絶対に警察案件だよ。


「近藤さんからお話をうかがってから制作してもらい半年以上付けていました。

もし治していただいた後も義手として振る舞うつもりです。」

レイ君は義手を手にとって隅々までチェックをして投げ返す。


「ふん、こんな物と同列に扱われるのはシャクにさわる。

それでも絶対バレないとはいいきれないだろう。」

「確かにそうですね。バレてしまう事があるかもしれません。」

内田さんも、バレない可能性を考えなかったわけじゃない。


「ある国では非合法に移植が行なわれているそうです。私もいざという時には…」

「じゃあ、最初からその非合法に頼んだらどうだ?わざわざオレがリスクを取る必然性がない」

確かにレイ君にとってはお金を対価として受け取ってるようだが

どうやらお金自体にはそんなに興味はなく、

儀式として必要だから取っているだけのようだ。


そんなお金に全然困っていないレイ君の

スライムの魔石買取価格は1個50円ですけどね…

もっと買取価格をあげてくださいと直訴したんだけど

単価を上げたら、ずっと安全にスライムとゴブリンだけしか攻略しなさそうだから

却下すると言われた。確かに絶対危険を冒したくないから一理はある。


非合法の国で治せと言われた内田さんは笑った。

「ふふ、あ、すみません。近藤様に言われた通りに言われたものですから、

決してあなたを馬鹿にした笑いではないです。」


あっレイ君がより不機嫌になった。

内田さんに対してというわけじゃなく、

近藤さんに読まれていたことがシャクに触ったようだ。


「近藤さんからこちらを預かっております。」

そう言って手紙を2通渡した。

レイ君はその手紙の中身を確認しようともしなかった。


「中身は見なくてもだいたい予想はつく。オレの探しているものを用意してくれたみたいだ。」

「それで…引き受けてもらえないでしょうか?」


「わかった。まあ近藤のジジイの紹介の時点で引き受ける事は決まっていたんだが、

あまりホイホイと了承するのもどうかなと思っただけだ。」

つまりヒネくれてるだけって事だな。


「では対価交換は別の場所で」

レイ君がフェイと呼びかけると一瞬、目の前の空間が揺らぎ

あの白い部屋へと移動していた。


「この対価交換は絶対に他言無用だ。もし言いふらすような事になれば

あなたの腕は消え失せる事になるのを忘れるな。」

レイ君の念押しに内田さんは神妙な面持ちでうなずく。


「対価は必要無い。もうすでにもらっているからな。」

何をもらったんだろうか。あとで聞いてみよう。


“εψσ【イプサイシスシグマ】”


「はい、対価交換終了!」

「おざなり!レイ君もっとためてためて厳かに!」

僕が突っ込んじゃった。

だって軽すぎない?


「何でゆずるが文句言うんだよ。本当は無詠唱でもできるんだぜ!」

「す・すごい。レイ君無詠唱だなんて異世界好きににはたまらない要素じゃないか。

ごはん3杯はいけるね。その話で。」


「怖い、怖い顔近づけるなよ。お前のその情熱引くわー。

異世界人のオレを引かせるゆずるもなかなかのもんだな。」

「いや〜そんなに褒められると照れるな〜」


「全然褒めてない。むしろキモッ」

と本人を置き去りにしておいて二人で盛り上がってしまったが

ふと内田さんを見ると


「うっううう、ぐっ」

腕を抱え込んで泣いていた。

もちろん嬉し泣きだろう。


僕にもその気持ちは理解出来る。

ついこの間まで僕もそうだったのだから。


そんな内田さんをそっとしておこうという事で

僕とレイ君は白い部屋を出て一人っきりにしておいた。


その後、内田さんは白い部屋で白骨死体で見つかった…

白い部屋は異空間なのでレイ君が出てしまうと

出入口がないのである。

密室殺人の出来上がりである。







こわっ!


もちろん嘘です。

ちゃんとレイ君に何度も何度も涙ながらにお礼を言って帰っていかれました。


内田さんを見送った後、僕はレイ君に聞いてみた。

「そういえば近藤さんからもらった手紙に何入ってたの?」

「チョコボールの金のエンゼルだ」

との事。


うそつけ〜〜〜〜〜〜!

どんだけ金のエンゼル押しやねん!

(おいでやす小田風)


僕の絶叫が静かなビル内にこだまする。


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