第4話
「時音。間違ってマコトくんを成仏させるんじゃないぞ」
涼に念を押されて、あたしは頷いた。子供達の人気者を成仏させてしまったら近隣の児童に恨まれる。
あたしが頷くのを確認すると、涼は鉄の門に手をかけた。
近所の子供達がしょっちゅう肝試しにやってくるため、門も玄関も開け放しらしい。
あたしは首から下げたお守りの勾玉をぎゅっと握りしめた。
先頭を歩く涼が扉を開けて屋敷に足を踏み入れた。ひやりとした空気が頬をなで、あたしは思わず息を飲んだ。
(ここにいるのは怖い霊じゃない。大丈夫、大丈夫……)
屋敷の中は薄暗く、三人分の足音が大きく響く。
「俺がマコトくんを探してくるから、お前らはここで待ってろ」
涼がそう言って一人で奥に入ろうとした。その時——
ガタガタガタッ
床が大きく揺れ出した。地震——じゃない。
「出やがったな!時音、どこだ?」
涼の声に我に返って、あたしは目を凝らした。奥の部屋に滑り込む白い影が見えた。
「あっち!」
「よし!箱の準備しておけ!」
涼が部屋に駆け込んでいく。あたしは『霊体捕獲保存容器』の蓋を開けて待った。ガタゴトと物がぶつかる音が聞こえてきて、悠斗があたしの前に立って緊張した顔つきで奥の部屋の入り口をみつめる。
「逃げるな、こらっ!」
涼の怒鳴り声が響く。
奥の部屋から白い影が飛び出てきた。
次の瞬間、奥の扉が勢いよく閉まり、中から涼の「開けろコラ!」という声が聞こえてくる。
宙に浮いた白い影が、四歳くらいの男の子の姿になって、楽しそうにけたけた笑った。笑い声は聞こえない。
マコトくんはあたしと悠斗に目を向けると、ふいっと手を動かした。すると、どこから飛んできたのか、数個のクッションがあたし達にぶつかってきた。
「わっ、ちょっと」
手で払いのけるが、クッションは何度もぶつかってくる。あたしと悠斗はクッションに押されて玄関の方へ後ずさっていき、そのまま外に押し出されそうになった。
「時音、僕に捕まって」
悠斗がそう言った。あたしが彼の腕をつかむと、体が揺れる感覚がした。次の瞬間、あたしと悠斗は階段の真ん中に降り立った。
「うわっ」
「きゃあっ」
二人そろって階段から落ちる。マコトくんが慌ててクッションを階段下に移動させてくれたので怪我をしなくてすんだ。
「いたた」
「ごめん。涼のいる部屋に飛ぼうとしたんだけど……」
悠斗が眉を下げて謝った。
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