裏切られた僕、はまだ生きる

夕日ゆうや

復讐

 苦しい。苦しいよ。

 生きているのはこんなにも苦しいのか。

 どうして僕は生きているんだろう。どうして生き続けなくてはいけないのだろう。

 海の中で溺れてしまったかのような息苦しさ。深い深い海の底でもがいているような気分。

 胸が圧迫され、痛みを伴う。

 怖い。怖い。

 このまま死んでしまうのか、と思うと恐怖で身体が震えてしまう。

 こんな僕を認めないなんて――この世界はおかしい。

 怒りで満ちていく僕の復讐心。

 暗く冷たいこの世界。しみこんだ絵の具のように広がっていく復讐心。

 そうだ。

 この世界がおかしいんだ。

 こんな暗く冷たい世界が。

 復讐心からホームセンターに売っている包丁を見やる。

 ふと以前に見たニュースを見た。

 いかれた奴がナイフを振り回し、無差別殺人を行った話だ。彼は復讐をして、何か変わったのだろうか? 何か得られたのだろうか?

 民衆からはただのおかしな人間と処理され、彼の本心は誰にも理解されなかった。

 今なら分かる。その冷たさが。仲間はずれにされ、なおも生き続ける孤独。

 しかし、ならばなおのこと、復讐なんてするべきじゃない。

 僕は頭を振り、包丁から手を離す。

 じゃあ、どうすればいい。

 誰も聞く耳を持たないこの世界で。この理不尽さを誰にぶつければいい。

 ぶつけようのない思いが僕の心を満たしていく。

 ぶつける先のない思いが、こんなに苦しいなんて思いもしなかった。

 生きている価値なんてないのかもしれない。今すぐにでも死にたい。でも死ぬ勇気もない。

 死んでいない僕は、まだ価値があるのだろうか?

 僕がいても、いなくても世界はそう変わらないのだ。

 この思いを理解してくれる人はいるのだろうか? いたとしたら、その人を大切にして生きたい。

 生きて、伝えたい。

 そうか。

 僕が生きて、その理不尽さを後世にまで伝え広めていけば、いつかはその理不尽さを理解するときがくる。

 それはまだ見ぬ人々へと伝わる。

 いじめ、両親の離婚、虐待、恋人の裏切り、ペットの死。

 様々あるこの理不尽さを、嘆き哀しむ。

 それを伝えていけばいい。

 それでも変わらない世界なら、心動かない世界なら――そんな世界なんて消えてしまえばいい。

 それこそ、世界を呪って野垂れ死ぬしかない。


 ――僕は誓った。


 呪うよりも、光になり、世界に訴えかけていく道を。

 そして角川武蔵野ミュージアムに自伝小説を展示してもらえた。これから先、復讐心の持った人々の気持ちを変えることができるかもしれない。

 世界を変えることができるかもしれない。


 僕は世界を変えたい。

 これが僕の復讐だ。

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裏切られた僕、はまだ生きる 夕日ゆうや @PT03wing

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