まるで青春じゃねえかよ!

下村

第1話 プロローグ

人の幸せは他人の不幸の上で成り立っているってよく言われている。だったら私はきっと幸せを支える不幸側だと思う。

みんな病んだらリスカとかしたり、SNSの裏アカウントで病みアピとかしたりするけど、私はしない。だから私は案外普通なのかなって思う。でも、それでも私が一番不幸だって言いたい。そんで私が一番我慢してるって言いたい−

「んなこと言われても、勝手にどうぞってなる」

どうでも良さげに話を聞いているこの少年の名は黒山有涯。平々凡々な中学2年生。

「もー!少しは慰めてくれてもいいじゃん。こんなに傷ついてるのに」

有涯に構って欲しがっているこの少女の名は白川夢無。こちらも同じく中学2年生だが、少し訳あり案件をかかえている今日この頃。

この二人は今、学校から帰っている途中だ。そして、今ややお洒落なカフェに向かっている途中でもある。

「なんだよ!お前は俺に病みアピしてんじゃんかよ。なんなら俺が代わりにネットに上げてやろうか?」

有涯はそう言ってふざけてスマホのカメラを夢無に向けた。夢無はそれに気づき、有涯の手からスマホを奪い取った。そして、やってやったと言わんばかりの顔をして「ぶぁーか」と嫌味な口調で言った。

「語彙力」

それに対して冷静な有涯。

「ふーんだ。って、うわぁああ⁉︎」

夢無は何もないところで転んでしまった。それを見た有涯は腹を抱えながら大笑いをした。

「だっはははは!だっせー。コケてやんの!」

「有涯、お前マジくそ!」

夢無はとことんツいてない女の子なのだ−

『手のシワのあみあみが長かったら幸運なんだって』。夢無が小学二年生の時の親友に言われた言葉だ。夢無は最初、それを信じていた。だが、成長していくうちに気づいてしまったのだ。自分は本当は全然運がついていないということに。

夢無はじゃんけんなかったことがない。くじではいつもハズレばかりを引く。さらには、小学生の時、好きだった子に嘘の告白もされたことがあるし、友達と遊ぶ約束をしていたのに、その友達は何時間経っても来なかったこともあった。夢無は運がないどころか災難な子だ。そんな彼女は、あらゆるものに疑心を抱いてしまうようになってしまった。家族にも同級生にも友達らしき人にも幼馴染である親友にも今の彼氏にも、疑いの目で見てしまう。だが、夢無がたったひとりだけ信頼することができる者がこの世にたったひとりいる。それが、黒山有涯だ。彼と夢無は出会って一年と少ししか経っていない。仲良くなったきっかけは、ただ席が近くだったということから始まった。

これは家族よりも幼馴染よりも浅い関係。だが、お互いの信頼度はマリアナ海溝より深い−

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