第13話 アナタへのハジメテの嫉妬

「そう、君にお義父さんと呼ばれる筋合いは、まだないんだ。どういうわけか言葉を交わさなくても考えを伝えあえることは本当のようだけど、俺はまだ、君たちの交際については、認めてないからね?」


お父さんは「一度は言ってみたかった」というそのセリフを嬉しそうな悔しそうな複雑な表情で繰り返して、私達のお付き合いを認めないなんて言ってる。

むぅ、確かに私達は初対面だけど、こんなに大好き同士なのに!


私がお父さんを嫌いになりそうな気持ちになっている横で、お父さんがまた言葉を続ける。


「そういえば、うちの夕愛の初恋やらなんやら、いろんなことを聞き出したのに、知夜くんは何も言わないつもりかね?」


お、お父さん!すっごくナイスだよ!

この流れで知夜くんのあんなことやこんなことを聞き出せちゃう!

嫌いなんて思いかけちゃってごめんね!


そう心の中でお父さんに謝ってから、知夜くんの方を見つめて、<いろいろ聞いちゃうからねっ>と伝えると、「あはは、僕のことなんて夕愛にだったらなんでも話すよ」と爽やかな笑顔で返されてしまった。

その笑顔に私は照れて顔を赤くしてしまったけど、それよりも周りを見渡すとお父さんや知夜くんの両親、それに幼馴染の遥ちゃんと理人くんたちの方が、流れ弾でちょっと照れちゃったりしてるように見えた。


そんな中、お母さんがニコニコとしながらゆるい声音で流れを変える。


「あらあら、うふふ〜。2人ともとっても仲良しさんで素敵ね〜。でもいつまでもここでお話するんじゃ、寒いしお腹も減ったでしょうし、そろそろご飯を食べながらお話しないかしら〜?」





それからみんなでバーベキューのコンロを囲んで温まりながら食べ始めた。


「うん、この肉、美味しいね!どうだい知夜くん、テキサスのバーベキューと比べてみて、日本風のものは」


特に串に刺さったりしてるわけではなく、お肉や野菜をそのまま焼いて食べるだけなんだから、そんなに変わらないんじゃないの?と思ったけど、知夜くんはさっきから凄く美味しそうにお肉を頬張っているし、何か違うのかな?あ〜それにしても、急いで食べてる姿も可愛い〜!たくさん食べれてえらーい!


「はい、凄く美味しいです!特にこの、生卵をつけて食べるのが美味しいです」


なるほど、知夜くんはこのすき焼きみたいに食べるお肉が好みなんだね!

知夜くんが美味しそうに頬張る姿を見ていると、彼と目が合う。


「目が合う」っていっても、あんまり特殊な状況じゃないんだけどね。

だって私達が出会ってから、見つめ合っていない時間のほうが短いんだから。

だからどっちかっていうと「目線が外れる」っていうことの方が特殊になってるんだよね。


知夜くんがずっと私の方見るようにしてくれて嬉しい!

さっき心の中で聞いてみたら、<だって夕愛が可愛いすぎるから目が吸い寄せられて離れないんだ。......あと、声が出せないんじゃ思ってることが伝えられなくて大変でしょ?だからできるだけすぐに僕が皆に伝えられるように、目を合わせられるようにしてるんだけど、だめかな?>なんて伝え返してきて、なんかもぉ素敵すぎたし。


それはともかく、どうして知夜くんがそんなにタレの味を絶賛するのかわからないことを彼に伝えると、知夜くんは「うーん」と少し考える様子を見せてから、口を開く。


「とにかく美味しいから......なんだけど。これまで生卵を食べたことってほとんどなくて。いつもは生卵は危ないからって食べちゃだめって言われてたんだけど、こんなに美味しいならもっと早く食べたかったな〜『マスター、それはあちらの卵はきちんと処理がされていないことがあって、お腹を痛めてしまう危険性があったからですね』」


知夜くんが食べる手を進めながら話していると、その話にかぶせるように声が聞こえてきた。


「あ、そうなんだ。『あちらでは』ってことは、日本では違うってことなのかな?」


知夜くんはポケットに入れていた端末を取り出して、声の主であるその端末中のアバター、ユウちゃんに尋ねる。


『はい、マスター。日本だと卵はかなり厳しく処理されているので、これからは安心して食べられますよ!』

「そうなんだ!やったー!」


嬉しそうに破顔する知夜くんはとても可愛い。それに端末を見つめる知夜くんの表情がとても優しくて、かっこいい!

だけど、なんだろう......。この心の中に湧き上がるもやっとした気持ちは。いや、もやっとしたというより、ドロっとしてる気がする。


さっきのお父さんとのやり取りで話してたときにも気になってたけど、知夜くん、ユウちゃんのことを結構信頼しているし、とっても仲が良さそうに見える。


<なんで私以外の女の子とそんなに仲良さそうにしてるの......?>


思いを伝えきってから「はっ」とした。

気づいたら私、知夜くんと目を合わせながらなんて理不尽なことを聞いてるんだ。

ユウちゃんは知夜くんの自信作だって話だし、愛着もあって当然じゃない!


知夜くんは私から伝えられた思いを受け取って、一瞬びっくりした、というかキョトンとした表情を見せてから、嬉しそうにニコニコしだした。


<もう、なんでそんなにニコニコしてるの!>

<いやだってさ、夕愛が嫉妬してくれてるのかなって思ったら嬉しくなっちゃって>

<もうもうっ。そんな嬉しいこと言われても、ごまかされないよ!>

<あはは、大丈夫。夕愛の思ってる通り、僕の自信作だから大事にしてるだけだよ。女の子として大好きなのは......その、君だけだよ>


知夜くんは最後、心の声のボリュームを少し下げて、恥ずかしそうにしていて可愛い。


<ふふっ、そっかそっか、うれしいな。さっきも言ったけど、私も好きなのは知夜くんだけだよ!ところで......ユウちゃんって、私と名前似てるよね?>


ずっと気になってたことを聞いてみた。


「え?ユウの名前が夕愛に似てる?確かにどっちも『ゆ』から始まるけど」


相当混乱したのか、知夜くんが声に出して聞き返してくる。


それまでみんな、私と知夜くんが目でやり取りしてるのを察してか、ずっと見守ってくれてたんだけど、この知夜くんの言葉に知夜くんのお父さんが反応した。


「ん?なんだ、そんな話をしてたのかい?てっきりもっと色っぽい話をしてるのかと思ってたよ。それで、名前が似てるってどういうことかな?」


あれ?もしかしてみんな気づいてないのかな?


知夜くんからも<どういうこと?>と伝わってくる。だから、私が思ってたことを伝えてみる。


<うん、ユウちゃんって、『ユウ・アイ』ってお名前なんだよね?>


「そうだね。ユウのちゃんとした名前は『ユウ・アイ』だね」


私が伝えたことをみんなにも伝わるように声に出して繰り返してくれる。


<それで、私の名前は夕方の夕に愛してるの愛って書いて『ゆあ』って読むわけだけど、そのまま呼んだら『ゆうあい』になるじゃない?だから一緒だ〜って思って!>


それを聞いた知夜くんは「わ、確かに!」と言ってはっとした表情で驚いている。

でも私の声が伝わらない知夜くん以外のみんなは、まだどういうことかわからないようで不思議そうな顔をしている。


「えっと、知夜?どういうことかな?」


知夜くんのお父さんがに質問する。


「あっ、ごめん。えっと、夕愛の名前を漢字で書いて、夕と愛を違う読み方すると、『ゆうあい』になるから、ユウの正式な名前と一緒だーって」


それを聞いてみんなもはっとしている。やっぱり皆も凄いと思うよね!

そのとき唐突にお母さんが声を上げた。


「あらあらうふふ〜。確かに夕愛ちゃんと名前がそっくりねぇ〜。運命みたいでロマンチックだわ〜」


お母さんのそのふわふわした態度とは逆に、お父さんは肩をふるふると震わせて、機嫌が悪くなっているように見える。




「そ、そんな凄い運命みたいなことを見せられても、まだ2人が付き合うのを認めるわけじゃないからな!」

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