2話

★太陽視点★


「じゃあ、帰ろうか」


「うん」


 廊下で人が急いで去る音がする。そしてその音が聞こえなくなった所で、


「僕の気持ちに応えてくれてありがとう」


 目の前にいる彼女の友達にお礼を言う。


「役に立てなら良かった。それじゃあね、太陽たいようくん」


 教室に残った僕、太陽は計画が成功して、安堵する。さっきまでのは全て僕と彼女の友達の演技だった。なぜそんなことをしたのか。それは、



 僕が彼女を愛しているからだ。



 だからこそ、こんな事をした。本当は僕もしたくなかった。だが、しざるを得なかった。彼女は僕と付き合うべきではない。僕は彼女が思っている程良い人間じゃない。僕は何も出来なかった。


 彼女が苦しんでいる時、どうやって彼女を救ってあげられるか、必死に考えたが、結局は一緒に居てあげることしか出来なかったのだ。


 それでも彼女は、僕のことを好きになってくれた。本人から気持ちを聞いた訳ではないがきっとそうだと思う。自意識過剰でも無いと思う。彼女が僕と接する時、鈍感な僕にまで伝わるくらい、好きという気持ちで溢れていた。


 そんな愛くるしい行動をしてくれる彼女を、真剣に自分と向き合う彼女を、必死で努力する彼女を、僕は好きになっていた。


 だからこそ、僕と彼女は付き合うべきではない。彼女にはもっとお似合いな人が沢山いる。彼女は僕に囚われすぎた。だか、囚われすぎたのは僕のせいでもある。心苦しいがこうする他、手段がなかったんだ。


 それでも僕はいつまでも君のことを愛しつつけるよ。


 僕はこの気持ちをどう整理すれば良いのだろうか。


 ねぇ、神様━━━━━



          *



 まだ、これは悪い夢とかなんじゃないか、そう思ってしまう自分がいる。


「これから……どうしよう……」


 もう堪え切れない。目元にいれていた力を抜く。涙が溢れて止まらない。身体中の水分が無くなるんじゃないかと思うくらい溢れ出る。


 どれくらい泣いただろうか。

 

涼風すずかッ!」


 私の名前を呼ぶ声が、静かな丘に響く。そこに現れたのは、


一樹いつき……」


 私と彼の幼馴染で、よく一緒にいた、一樹だった。


「なんで一樹がこんなところに?」


 急に小っ恥ずかしくなって、急いで涙を拭き、平然を装う。


「涼風がここに走っていく姿が見えたからだよ」


「そうだったんだね」


「涼風……何かあっただろ?」


「な、何もないよ!?」


 いきなりで、動揺してしまう。


「分かりやすすぎだろ。明らかにいつもの涼風と違うし……目も真っ赤だぞ。話したくないなら話さなくてもいいけど。俺でよければ聞かせてくれ」


 一樹は優しい口調でゆっくりと話しかけてくれる。一樹と居ると、いつも心が安らぐ。


 あれ? いつも……あっ……そうだ。


 いつも、助けてくれたのは彼だったが、私を支えてくれたのは一樹だった。

 辛い時、いつも隣で慰めてくれたのは一樹だ。



 一樹も辛いだろうに。



 私は、一樹が私に恋愛感情を持ってくれていることを知っていた。そして、私が太陽の事を好きなのを彼は多分気づいている。今回、私が泣いている理由も薄々勘づいているだろう。


 それでも、一樹は私のために来てくれた。

 それが、今回は特に、凄く嬉しくて、とても辛かった。

 一樹はいつもいつも我慢してくれた。

 だが、私は一樹に何も出来ていない。


 私はまだ太陽の事を諦めきれない。


 でも、一樹の気持ちにも応えてあげたい。


 たまには、一樹に、我慢しないで欲しい。



 ねぇ、神様━━━━━



          *



 涼風はすごく辛そうな顔をしている。それは、太陽に振られたからでもあるだろうが、俺の事を考えてくれているからだろう。


 多分、俺の好意は涼風に伝わっている。


 好きな人の悲しい顔を見ていたくなかったから。


 彼女にはずっと笑っていて欲しかった。


 でもそれを叶えるには、俺の気持ちは封印し続ければならない。


 ねぇ、神様━━━━━



          *



 私は、



 僕は、



 俺は、



 この想いをどうすればいいのでしょうか。

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届かぬ想い ハンくん @Hankun_Ikirido

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