『ストックの場合』


とある鍛冶師のおじ様にキャンディを差し出してみたところ。


「ん? なんだこりゃ、飴玉じゃねえか?」


ええそうですね。

私は頷きます。


「どうした急に? このオレのご機嫌を伺って、何の魂胆だ?」


そう言いながら、おじさまは笑顔です。


それに魂胆なんて滅相も無い。

「私の自家製キャンディが自信作でしたので、いろんな方に配っているだけで、別に他意はありませんよ?」



「ほう? ホントかよ」

半ば笑いながら。

おじさまは武骨で豆だらけの手でキャンディを受け取りました。


でもその場では食べてくれないようです。

もしかしたら、自分で食べずに、あとで誰かにあげたりする、そういうタイプの方かもしれませんね。


「どうした? まだ何かあるのか?」


「いえ! 何も! それでは失礼します」


じっと見つめていたのを不審がられました。

特段、これ以上の用事は無いので、回れ右して立ち去ります。






と。


「ちょい待ちな」


呼び止められます。


「はい? なんでしょう?」


「礼だ。こいつを持っていきな」


逆に、液体の入った瓶を手渡されます。

ラベルを見ると。


「お酒!?」


「おう。オレがこっそり作ってる自家製のブランデーだ。お礼にくれてやるよ」


「え? いえ、そんなつもりは……」


「おいおい。俺はお前と同じことしただけだぜ? 突っ返すって言うのか?」


そんなことを言われたら何も言えません。

本当に自家製なのでしょうか? 嘘も方便かもしれません。


「えっと、じゃあ、ありがとうございます」


「ああ。もしあんたが酒が飲めないって言うなら、キャンディ作るのにでも使いな」



私はもう一度お礼を言って立ち去ります。




まさか、アメ玉がブランデーに化けるとは思いませんでした。

なんとも、気持ちのいい方ですね。

ビックリです。


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